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04 引き抜き




 魔道具店の新しい店長問題についての解決策を取る為、私はとある場所に顔を出しました。

 時刻は早朝。冒険者ギルドです。


「暇すぎるぅ~」


 ギルドの中に入ると、受付嬢のシャーリーさんがぼやき声を上げていました。


「お久しぶりです、シャーリーさん」

「えっ? お、乙木さん!」


 相当驚いたのか、シャーリーさんはシャキッと姿勢を正します。


「本当に、お久しぶりですね。今日は何の御用ですか?」

「はい。実はシャーリーさんに良いお話を持ってきたのですが」

「良いお話?」

「ええ。と言っても、本当に良いお話かどうかは考えようによるのですが」

「えっと、そのお話というのは?」


 勿体ぶる私を急かすように、シャーリーさんが問います。私は、今日ここに来た目的であり、新店長問題を解決する一手となる言葉を口にします。


「貴女を引き抜きに来ました。シャーリーさん。私の店で、働いてみませんか?」



 私がシャーリーさんの引き抜きという案を思いついたのには、幾つかの理由と経緯があります。


 まず、新店長問題についてです。私が新店長に、と考えていた有咲さんとマリアさん。二人に断られたことで、新店長に相応しい人材が居なくなってしまいました。

 そして、二人がそれぞれ拒否する理由として挙げたのは、能力不足。つまり、それを補う何かさえあれば、二人は新店長を務めてくれるという意味でもあります。


 ですが、それは単純に解決できる問題ではありません。

 元々、私は二人のどちらかを店長に、そしてもう一人を補佐役として店の運営を任せるつもりでした。

 しかし、有咲さんとマリアさんの組み合わせでは、肝心の問題点、つまり能力不足を補い合うことが出来ないのです。


 有咲さんとマリアさんが不足していると感じているのは、店長としての経営判断力、そして視野の広さです。有咲さんをマリアさんが補佐すれば幾らか補うことが出来ますが、それでもマリアさんが必要と感じているレベルには達することが出来ません。

 つまり、二人のどちらに店長を任せても、結局同じ部分が不足するわけです。


 そこで、私はその不足部分を補う人材を雇おう、という方針を固めました。

 店側の立場で、店舗経営に関する判断が可能な人材。そんな人を雇い入れることができれば、マリアさんの不足部分をフォローできます。


 むしろ、マリアさんと二人に分権するのも良いかもしれません。そして二人の判断を、有咲さんが実際の数字等からカルキュレイターで取捨選択する。

 つまり三人にそれぞれ別の役割と仕事を任せて、三人でお店を経営してもらう、という形です。

 いきなり店長という大きな役割を任せるよりは、私が居ない間の補佐、という名目で三人に役割を分担する方が気楽にできるかもしれません。


 そうなると、新たに雇い入れる人材には即戦力性が求められます。そして、複数人数で仕事を共有し、役割分担して働く経験のある人だとなお良いでしょう。


 これらの条件を踏まえ、ギルドの受付嬢であるシャーリーさんが適任だという判断に至りました。

 ギルドの受付嬢は、普段から冒険者を相手に納品や依頼における折衝を行っています。冒険者側ではなく、ギルド側の都合を考慮した上で、です。

 つまり、大前提となる『店の都合を考慮した経営判断』をする為の下地は十分にあると言えます。


 また、普段から金銭のやり取りを任されている立場でもあるため、私の店での即戦力性もあります。少し仕事を教えるだけで、すぐにでも一人前の従業員になれるでしょう。

 そして同じ受付嬢同士で仕事を共有する経験もあるはずですから、役割分担にも慣れているでしょう。


 そうした理由から、私はギルドの受付嬢を、その中でもシャーリーさんを引き抜くことに決めました。

 私が冒険者として活動していた頃からの、最も付き合いの深い受付嬢ですからね。人となりも把握しているので、声を掛けやすかったという理由もあります。



 というような事情を、私はシャーリーさんに説明しました。

 前提として私の店が今どういう状況にあるのか、ということから話さなければならなかったので、かなり長時間話し込んでしまいました。

 が、おおよそ必要なことは全てお伝えしました。


「いかがでしょう。私のお店で、働いて頂けませんでしょうか?」


 私が尋ねると、シャーリーさんは考え込むような仕草を見せます。

 そして数秒の沈黙の後、答えを口にします。


「実は、乙木さんの居なくなった冒険者ギルドが退屈だなぁ、って思ってた部分もあるんです」

「ほうほう、なるほど」


 確かに、かつての私は大量かつ多種多様な薬草を毎日納品していましたからね。しかも専属受付嬢。仕事の密度で言えば、私が居た頃の方が濃いと言えるでしょう。


「なので、もしも乙木さんのお店であの頃みたいな充実した仕事が出来るなら、そのお話に乗りたいです」

「そうですか、ありがとうございます」


 やり甲斐を理由に、交渉するまでもなく一発で引き抜き成功です。

 断られた場合は、受付嬢という仕事が若い内しか成り立たない等の理由を挙げ、将来の保証等を交渉材料にするつもりでしたが。どうやらそうした小細工は不要だったようです。


「では、近日中に詳細を詰めていきましょう」

「はい! 是非、よろしくおねがいします!」


 どうにか話が纏まりそうで、ありがたいことです。

 これで、新店長問題も解決するでしょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで「将来の保証」を交渉に出すとするなら、そう簡単にはクビに出来ない関係性の構築を確約しないと厳しいかな。 具体的には「結婚、或いは愛人契約」とか
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