03 新店長
さて、工場を作るための土地の目処は立ちました。次にやらなければならないのは、魔道具店の新しい店長の任命です。
何しろ、私は当分の間工場にかかりっきりになります。その間、魔道具店の経営を私以外の誰かに任せなければなりません。
いくら私でも、身体は一つですからね。工場と魔道具店の両方を同時に管理するのは不可能なのです。
そこで新たな店長を任命する必要があるのですが、候補は二人います。
一人は有咲さん。初期からずっと一緒に店を回してきましたし、最近はカルキュレイターの成長もあって数字の管理は得意です。店の売上や在庫関連の計算を見事にこなしてくれるでしょう。
もう一人はマリアさんです。この近辺の住人でもあり、A級冒険者の夫人であったお陰で顔も効きます。ご近所の奥様から需要や評判などを聞き出すことも得意です。また、地頭も良く、店を経営する上で必要な知識をすんなり吸収し、今ではパートリーダー的なポジションにあります。
経営判断を任せれば、見事に店を切り盛りしてくれるでしょう。
どちらに任せるかは、まだ決めていません。これから二人と話をして決めようと思っています。
というわけで、まずは有咲さんを呼び出しました。
これから工場を作ること。その関係で店を空けるから、新しい店長を探していること。それらを説明した上で、有咲さんに依頼します。
「アタシが、店長なんて出来ると思ってんの?」
「はい。最近の有咲さんは真面目に働いていますし、カルキュレイターのお蔭で計算にも強くなりました。お店を任せても大丈夫かな、と思いまして」
私が言うと、有咲さんは眉を顰めます。
「出来るかもしんないけどさ。正直、アタシは自信無いよ。いきなり店を任されたって、どうすりゃいいのか想像できねーしな」
「ふむ、なるほど」
確かに、有咲さんに店の切り盛りまで任せるとなると、少々不安があるのは事実です。
有咲さんの方から拒否されたとなると、あとはマリアさんだけになりますね。
というわけで、次はマリアさんにお願いをしてみたのですが。
「私も、正直難しいと思いますわ」
困り顔で、そう断られてしまいます。
「ちなみに、理由をお聞きしても?」
「ええ。私では、経営判断がお客様寄りになりすぎると思いますから。店を任せられる立場としては、視点が偏っていますわ」
なるほど。マリアさんはご近所の奥様方や、顔見知りの冒険者と仲が良いわけですからね。そうした人たちに寄り添いすぎる判断をして、店としては理想的でない結果を呼ぶ可能性がある、ということでしょう。
確かにその可能性は存在します。が、気にしすぎても仕方のないことなので、ここはあまり深く考えなくても良いのですが。
「どうしても、駄目ですか?」
「はい。適任は、私以外に居ると思います」
どうやら、意思は固いようです。
これは、どうにかして対策を考えなければなりませんね。