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10 ルーンガルド王国




 私はマルクリーヌさんに従って歩いていきました。勧められるままに部屋に入り、そして席につきます。

 こぢんまりとした部屋ですが、調度品は豪華で、私という人間があまりにも場違いに感じてしまいます。


「さて、乙木殿。まずは何の話から始めましょうか」

「そうですね、とりあえずこの国の名前。それと、魔王という存在について。後は戦況がどうなっているか、正確に知りたいですね」


 私が要求すると、マルクリーヌさんは頷いて話をしてくれます。



 要約すると、こうです。


 まず、この国の名前はルーンガルド王国。数ある人間が作り上げた国家の一つで、中でも国土が最も大きく、人類の代表的な国家でもあります。地球におけるアメリカのような国でしょう。訊けば、軍事力で周辺諸国に協力もしているとのことでした。


 そして魔王について。魔王とは、魔族と魔物を従える隣国の王のことらしいです。別に化物の王様ということではなく、ちゃんとした国のトップであるらしいです。


 その魔王の国、魔国側が魔物を率いて、魔物の森からルーンガルド王国に侵攻してきたのが今から十年も前のことだとか。それ以来、国境の魔物の森付近で一進一退の攻防が続いているらしいです。


「つまり、魔王軍との戦いというのは、悪と戦う正義の物語ではない、ということですね?」

「そう言われると、国の騎士としては頷くことはできないな」


 マルクリーヌさんはぼかすように言いましたが、それは実質肯定したようなものです。


 となると、魔王軍との戦いとはつまり、ルーンガルドと魔国の領土問題に過ぎないわけです。単なる利権を争う領土戦争。そう考えると、勇者召喚された学生たちが可哀そうに思えてきます。


「親元から強制的に離されて、二度と故郷にも帰れない。その上、正義の戦いじゃなくて単なる国家間の既得権益を奪い合う戦争に駆り出される。兵器として期待される子供たち。なんとも、酷いことをなさいますね、この国は」

「私も、騎士でなければ乙木殿と同じことを口にしていただろうな」


 マルクリーヌさんは疲れたような表情でため息を吐きます。

 騎士団長とはいえ、一介の騎士風情がどうにかできる問題ではありません。けれどマルクリーヌさんの正義感が、勇者召喚というものを選んだ国を、それを止められなかった自分を許せないのでしょう。


「お辛かったでしょう、マルクリーヌさん」

「は、えっと、私ですか?」

「子供たちを拉致して戦争に送り込むような真似をしなければならない。そんな立場で苦しみながら、騎士団長だからこそ悲鳴も飲み込むしかない。きっと、とても大変だったと思います」


 バイトリーダーという中間で大変な思いをする仕事をしていた私には分かります。マルクリーヌさんは必死に頑張っている。それでもどうにも出来なくて、自分を責める。だからこそ、もっと頑張る。疲れて、苦しくて、自分をよけいに責めてしまう。

 そんな悪循環に、きっと心が押しつぶされそうになっていたはずです。


 ましてや、マルクリーヌさんはバイトリーダーなんかとは桁違いの重責を背負っています。

 その胸の痛みは、想像を絶するものだったでしょう。


「と、突然、人の心の核心を突くなんて。ずるいですよ、乙木殿」

「すみません。でも、頑張っている人には報われてほしい性分なので。せめて労うぐらいはしてあげたくなるのです」


 私が言うと、マルクリーヌさんは微笑みを浮かべます。


「それは異世界の、こんびに、ばいとのリーダーだからこそ出来ることなのでしょうな」

「かもしれませんね」


 私もまた、マルクリーヌさんに微笑みます。

 このキモい私の笑顔でも、少しぐらいは気を安らげる役に立ってくれるでしょうから。

本日の連続投稿はここまで。


少しずつ、主人公の乙木が女性にモテはじめます。

乙木の今後が気になる、という方はぜひ、ブックマークや評価をして頂ければ幸いです。

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