01 一人暮らし独身三十五歳
前作(魔女っ子おじさん、日常を往く!)が完結していないにもかかわらず、新連載を開始します。
魔女っ子おじさんを期待していた方は、すみません。
また、魔女っ子おじさんとは作風がかなり変わると思います。
それでもよければ、拙作とどうぞお付き合いくださいませ。
私の名前は乙木雄一。髪は荒れてぼさぼさ。目の下には寝不足の為に隈。落ち込み窪んだ瞳。コケた頬。間抜けな猫背。情けない外見を整えようともしない、枯れた三十五歳の独身男性です。
職業はコンビニ店員。今日も米と味噌汁だけを腹に掻き込み、夜勤の為に出勤します。
家賃三万円のボロアパートを出ます。二階の私の部屋は特に古い部屋で、下に降りる階段の振動で家がみしみしと鳴り騒ぐほどです。
しかし、そんな家だからこそ風呂付きで三万という破格の家賃。逆にこれだけのボロアパートを残している大家さんには、感謝しかありません。
夕方の六時。私は自転車に乗って勤務先に向かいます。片道十分の近場に職場があるのは楽で良いです。夕方の心地よい空気感に肺を喜ばせながら、少し軽い調子で自転車を漕いでいきます。
すぐに勤務先に到着しました。自転車を駐車場の隅に置き、店舗の入り口から入店します。
「おはようございます」
私は夕方勤務の主婦の方に挨拶します。気の抜けた調子で、おはようございまーす、と返ってきます。が、私はそれを背中で聞きつつ事務所へ入ります。
レジ近くで店員と少しでも無駄話をしていると、クレームの対象ですからね。危険を冒す必要はありません。話すことがあれば、事務所でいくらでも話せます。
私はタイムカードを押さず、まずはシフト調整の仕事をします。
今日はシフト提出の期限日です。私はここでの勤務が長く、シフト組みを任されています。仕事中に組む時間は無いので、こうして早めに出勤し、タイムカードを押さずに組むわけです。
シフトを組むと言っても簡単ではありません。休みの日というのは、誰しも同じような日に重なるもの。そうでなくても、休みが重なる日は少なくありません。
しかも、うちはオーナーの方針で従業員はギリギリの人数しか雇っていません。どこかの日を人数少なめで回す、といった調整は出来ないのです。
そして、期限日までにシフトを提出しない人も多く居ます。基本は新しく入った学生さんが提出忘れをしがちです。ただ、ご年配の方も提出しないことが多いです。
出してないんだからいつもどおりだろ。という理屈で出さない方。単純に出し忘れる方がいます。なので、電話をして一つ一つ確認しなければなりません。いつもどおりに決まっているだろ、と怒られるのには、もう慣れてきました。
そうしてシフトを半分ほど組み上げたら、気づけば二十時です。今日はシフトに穴があった日なので、これから私が出なければなりません。本来の夜勤は二十二時からです。しかし、二時間の空白を埋められるのは、私しかいません。
シフト組みの作業を途中で止めます。机を片付け、着替えて店に出ます。
「交代します」
「お疲れ様でーす」
夕方勤務の学生さんが事務所に下がります。二十二時までは、二人で回します。僕と、もう一人の夕方勤務の学生さんです。
この時間は会社帰りのおじさんが多いので、レジが忙しくなります。その関係で、他の仕事はまともに出来ません。清掃作業。商品の品出し、前出し。本来はこの時間にいくらか済ませておくものですが、そうも行きません。