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4. 事件は起こる

やつはちょい怖イケメン

 外出解禁日の翌々日、この日は学園は休みなために二人は丸一日外で過ごすことになった。


「さあ、さっそくゴンナ亭に行くわよ!張り込みするわ!」

「あの、ゴンナ亭は昼と夜しかやってないんですけど」


 金髪を振り乱すお嬢様に注意する。9時にもなってない朝っぱらから学園を出たのだ。なにぶんゴンナ亭に行ってもやることがない。


「あら、そうだったわね。ならギルドへ行きましょう。今日も新しい依頼がないか見るわ」

「またですか、昨日も見てましたよね?」

「いいじゃない、毎日見た方が新しく増えた依頼も分かるのだし」

「趣味の領域ですね」

「事件が起きない王都が悪いのよ」

「なんて横暴な……」


 ギルドに向かうたびに彼女は不人気な依頼を眺め続け、レオはダグラスにパーティに入らないかと誘われる。

 ゴンナ亭のポルターガイスト現象という不可思議な依頼があったとはいえ、この光景はいつものことである。

 そんな日々も、時には変化と訪れる。


「やあ、雑用係たち」


 現れたのは、アドルフ・フォン・ダファリン、キャロルが大好きな美少年だ。

 侯爵嫡男である彼もまた整った顔立ち、どこかナルシストの気がある彼は、しっかりと七三に分けられ毛先をカールさせたいつもの髪型でソフィアとレオに話しかけてきた。


「あら、気づきませんでしたわ。これはこれはアドルフ様ごきげんよう。今日も部下が精鋭のようですね」

「おはようございます、ダファリン様」


 ソフィアは嫌みで、レオは粗相のないように挨拶を返す。

 彼らは典型的な貴族の冒険者である。部下たちに戦闘を任せ、安全なところから攻撃を加え勝利を手にする。そんな安全な依頼のこなし方をする貴族だ。

 ソフィアが皮肉ったのは彼自身が部下たちよりも実力で劣っているという遠回しな嫌味である。


「ふん、今日も犬探しかい?雑用なのに精が出る」

「お気になさらず。貴方とは違って、自力で依頼をこなしておりますので」

「そんな誰でもできるものをかい?はははっ、笑わせてくれる」


 ソフィアとアドルフは決定的に仲が悪い。犬猿の仲とでも言うべきであろう。立場がダファリン侯爵家の方が上のため表立っては逆らわないが、お互いに相手を下に見ているのだ。


「気に入らないがまあいい。おい、この俺に似合う依頼を取ってこい」

「かしこまりました」


 ぞろぞろとアドルフの後ろに付き従う男たちのうちの一人が依頼掲示板から一枚の依頼を持って来る。


「ふむ、パキャファロか。ちょっと物足りないがしかたない、これを受けようじゃないか」


 ニヤニヤとソフィアに依頼書を見せびらかしながら受付に行く。それを流して見ていた彼女は、コッソリとそばにいたレオに聞いた。


「ちょっと、レオ。パキャファロってどんなの?」

「えぇっと、パキケファロサウルスみたいな……といっても分からないですよね。石頭で大きな二足歩行のトカゲです」

「そう、弱点は?」

「頭以外の打撃は弱い、それと雷が苦手、です」

「大したことなさそうね」

「いや、いちおうCクラスモンスターですが。ていうか、これ授業でやりましたよ?ソフィア様全く授業聞いてませんよね?」

「いいじゃない別に。必要になるわけでもあるまいし」


 小言でブツブツと話しているうちに、アドルフは小馬鹿にしたように手をヒラヒラと振りながら去っていく。アドルフが完全にいなくなってから、ようやくギルド内の空気は柔らかくなったのだった。


 冒険者からは、アドルフ・フォン・ダファリンは嫌われている。常に屈強な部下を連れているためだ。

 部下たちはそれぞれBクラス近い実力を持っておりダグラスに並ぶ。しかもアドルフは侯爵なため逆らったら殺される。

 面倒な客だと皆が皆認知している。


 ちなみに、いっつも割に合わない依頼ばかり受けている変わり者令嬢はもう慣れてしまって名物になってにいたりする。


「はぁ、めんどくさい。そろそろゴンナ亭に行きましょう。あそこは格安だけど美味しいからお昼ご飯には丁度いいわ」

「あの価格を格安というソフィア様は改めて伯爵令嬢なんだなと実感しました」

「早く行くわよ」


 めぼしい依頼を見つけられなかったソフィアはレオを連れてゴンナ亭に向かった。




 ゴンナ亭は開店前だった。11時から開かれる店はまだ30分ほど余裕がある。実のところ、30分前に来たのには理由がある。


「どうですかソフィア様、風魔法でできそうですか?」

「……そうね、出来るわ。なんなら包丁を今すぐ吹き飛ばしてもいいけど」

「物騒なんでやめてください」

「なるほどなぁ、魔術ってのはこんな風に使えるのか。縁がなかったから知らなかったぞ」

「平民は意外と知らないものね、こんなの初歩の初歩なのに」


 二人は店内に入り、風魔法が犯行に使えるかどうかを調べていた。いくつかの席に座り、犯行が可能かどうかを実際に確認していく。

 魔術に特化したソフィアができないなら魔術による犯行は不可能だと推察できる。


 そして、二人は瓶も奥に見える厨房も見ることができる席を見つけた。


「この隅っこの位置なら確かに両方とも見えますね」

「魔術は目視できない地点で行使するのはとっても難易度が高いの。私ならできるけどね。それでも狙ったかのように調理器具を客席とは逆方向に飛ばすのは難しいわ」

「ならこの先を第一に警戒しましょう。ソフィア様、早く表に出て並びましょう」

「なんでよ、店の中でいいじゃない」

「不審がられるじゃないですか。まったく、そういうところで油断すると足元すくわれますよ」

「うっさい、バカ!」


 再び表へ出た二人は、すでに並び始めた列の最後尾に並ぶ。この店がいかに人気か分かる光景だった。既に十人は並んでいる。先は全部で三十程度しかないため、人気なのはよく分かる。


 十人並んでいても、金髪美少女と黒髪少年の組み合わせは目立つ。黒髪は珍しいし、美少女はそれだけで目を引く。一部の人はマジマジと見つめてしまい彼女に小突かれるなんてことがあるくらいだ。

 どこか奇妙な二人はしばらくして、あらかじめ指定してあった席へと座った。


「こんにちは!お兄ちゃんとお姉ちゃん!」

「あら、リーナちゃんこんにちは」


 この店の名物となりつつある看板娘のリーナが席にやってくる。


「ごちゅうもんは、なんですか?」


 たどたどしく注文を聞くリーナに、ソフィアは微笑みかけて二人分の昼食を頼んだ。

 それを見た他の客がリーナに注文をお願いするのは、なんだか奇妙な光景だった。

 ちなみに、リーナは度々注文を間違えていたのだが、気のいい常連客は微笑んでその失敗を受け入れていた。




 ゆっくりと二人が食事を取っていると、二人組が食べ終わったのを見計らったかのように、空いた例の席にとあるローブをまとった青年が座った。


「怪しい……」

「そんな凝視したら勘付かれますって」


 つり目をさらに吊り上げたソフィアに苦笑いする。黒髪は目立つもののそれ以外の顔立ちは周りの人とそう大した差はないレオは自然な動作でその席を見張る。


「魔力残滓の感知はもう始めてるわ。あの男が魔術を行使したとしてもこちらに気づかれることはないはずよ……」

「いやだから視線でバレますって」


 ソフィアはチラチラと怪しげに、レオはさり気なく目を向けて、怪しいと睨んだ男を監視する。

 男はいたって普通に注文し、運ばれて来た料理を口に入れる。その動作はいたって普通で普通の人が見れば何一つない自然な動作だった。

 だが、レオの目は違う。その異常な視力はわずかな動きも見逃さない。


「ん?」

「どうしたのレオ?」

「あの男、何度も視線をあげてます。カウンターの後ろの瓶棚と、わずかに見える奥の厨房に」


 レオの目は特殊だ。生まれつき非常に注意力が高くわずかな異変も決して見逃さない。人の体つきを見ればパーティの立場も分かるし、戦闘においては筋肉や鎧の動きで次の動きを予測する。


 レオのもといた世界で言えば、神からもらったチートというものであろう。それにしてはあまりにも貧弱なものではあるが。


 そんな鋭いレオがそう言ったのだ。レオの目を知るソフィアはその言葉を事実として呑み込んだ。


「なら決まりね。彼はクロ、さっさととっ捕まえてやるわ」

「待ってくださいソフィア様……捕まえるなら、現行犯逮捕の方がいいでしょう。……それと異世界の隠語を使わないでください」

「いやよ、この言葉使ってみたかったんだもの」


 話はするものの、二人の目は依然として怪しげな男に向けられていた。

 そして、男が食べ終わった時に事件は起こった。


 コロコロコロ、ガシャンッ


 突如として瓶が割れる大きな音が店内に響き渡る。

 ゴーシュが駆けつけ床を見て、頭を抱えてしまう。


「くそ、まただ!どうなってやがる」


 そしてゴーシュのすぐ横を風が横切り……


「そこまでよ!犯罪魔術師!」

「っ!?」


 ソフィアの魔術が厨房内へと進む風を遮った。




「あんたがこの営業妨害の犯人ね!覚悟しなさい!」

「チッ」


 駆け寄るソフィアに気付き出口へと走るローブの男。あまりにも慌てた逃走のせいで机や椅子が蹴飛ばされて店内に客の悲鳴が上がる。

 テーブルの上に乗った料理は次々と跳ね飛ばされ逆の服を汚していった。


「レオ!」

「はいはいっと」


 ゴンナ亭を飛び出したローブ男をレオが追う、当然男はすでに外へと飛び出していた。


「おい、ソフィア様よ。この荒れ方は……」

「あら……失礼しました、オホホホホ」


 残された店内は、逃げ出した男のせいで荒れに荒れ、一部の人は顔にまで料理がかかってしまっている。これはさすがにいただけないと、ソフィアは苦笑いした。


「あの魔術師の男が、弁償してくれるから大丈夫!」

「いや、それにしてもよ」

「気にしてはダメよ、オホホホホ」


 ソフィア伯爵令嬢は、大げさに貴族っぽい笑い声でその場をしばらく誤魔化すのだった。

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