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2. 学園の変わり者

探偵は変人

「ああもう、外出禁止を言い渡されちゃった」

「たった三日じゃないですか、もっと長ければいいのに。それにいくら成績優秀だからとはいえやりすぎは禁物ですよ」

「あなたも私の助手なんだからうまく計らいなさいよ」

「そんな無茶な」


 二人が暮らす学園に戻った後、男女ともに使える共用サロンで話し合っていた。

 外出規則があまり厳しくないとはいえ門限を30分も遅れてしまった彼らは、無慈悲にも三日間外出禁止を言い渡されたのである。


 二人が通う学園はここ王都で最も大きく最も偉大な学園である。貴族や裕福な商人たちはこぞって入学し、同時にお金のない平民でも得意な技能があれば無償で入学できるというエリート学園だ。

 伯爵という有力貴族のソフィアはもちろん、その従者として付き従うレオもこの学園で寮生活をしていた。


「まったく、全寮制なんてかったるいことしなければいいのに」

「貴族がさらわれては危険ですから。学園にいれば結界もありますし安全です」

「あなたは本当に安全と思っているのかしら」

「ええ、まぁ……」

「ふん、まあいいわ」


 曖昧な対応をされて不機嫌になったソフィアは立ち上がり歩いていってしまう。どうやら女子寮へと向かうらしい。無言で立ち去るのはいつものことなので、レオも共同部屋である自分の部屋へと戻っていった。




 翌日、ソフィアとレオは学園に顔を出す。もちろん毎日登校はしているが、今日のソフィアはいつにも増して不機嫌だった。


「レオ、あなたはあの依頼は終わったと思ってるかしら」

「そうですね……ゴーストの類の気配はありませんでしたし、なんとも言えないです」


 不機嫌なソフィアはいつもの席に座る。従者であるにもかかわらずレオも隣に座る。

 この学園では名目上身分差はないためこのように立場関係なく席を選べる。主であるソフィアの命令によりレオは必ずソフィアの隣の席に座っていた。


「そう、そうよね。何かもっと複雑な事件が入り組んでいるような……わかるかしら、ワトソン君」

「それ、パクってますよねシャーロックホームズ」

「どうせ誰も知る人はいないわ、真似ても誰も気にしない」

「……はぁ」


 毎日のようにため息をつくレオと、その主のソフィアは学園では有名人だった。

 探偵という言葉を振り回して毎日のようにギルドを訪れ、ちっとも割に合わないペット捜索ばかり依頼を受ける道楽者。

 行動力はあるが、その行動は社会貢献にもかかわらず本人たちにはその意思もない。自らを鍛えるためにギルドへ行くわけでもない。

 そんなワケの分からない人物として名が知られていた。


「おはようございます、ソフィア様。それとレオ」

「あらキャロル、おはよう」

「おはようございます、キャロル様」


 ソフィアを挟んでレオとは逆側の席に座る女はキャロル、シーモア子爵家の娘で変わり者と言われているソフィアの友人である。

 彼女もまた少し変わった人物で、ダファリン侯爵家の嫡子であり学年で一二の美貌の持ち主であるアドルフ・フォン・ダファリンを常に追いかけている。ファンクラブなんて作っているのだから驚きだ。


 ともあれ類は友を呼ぶという言葉がふさわしいと思われる二人組は、よく話をする仲だった。


「話を戻すけど、私はね、アレは魔術が関係してるんじゃないかと思うの」

「魔術ですか……まあそれは僕も考えていましたけど」

「ほら、風の魔術。私でもできそうだし」

「……そうですね、誰がやったかはさておきその可能性は高そうです」

「まあ、ソフィア様。また犬探しですか?」

「違うわ、探偵業よ。事件の匂いがするの」

「タンテイ?よく言いますけど、イマイチ理解できませんの」

「何度も言ってるじゃない、探偵ってのはね……」


 ひたすらに探偵を語るソフィアとそれを苦笑いしながら聞くキャロルを見て、レオは頬杖をつく。


 今日も魔術の座学授業なのに主は聞く気もない。

 彼女は魔術分野では学園内トップクラスの成績を収めている。

 得意不得意はあるもののほぼ全ての属性と呼ばれる種類を扱うことができる上に、魔力量も人一倍多く使える魔術も豊富。正直言って魔術に関しては学ぶことが全くない主である。

 もっとも、この国で重要となる戦闘分野では彼女はさっぱりではあるが。


「あ、アドルフ様!今日も素敵ですわ」

「あ、キャロル!ちょっと聞いてる!?」


 騒がしい二人を横目に見ながら、レオは始まってしまった魔術座学の講義を受けるのであった。




「おいレオ、今日も忠犬っぷりを発揮してるな」

「うるさい、仕方ないじゃないか。彼女は僕の雇い主なんだから」


 レオにも友人はいる。常に主人であるソフィアの側に仕えているが、量で同じ部屋で暮らす人たちや同じクラスの人とは多少の友好関係があった。


 話しかけてきたのはそのうちの一人、ダレルである。大商人であるスコット商店の次男で、貴族でないのに恵まれた立場にいる彼は、伯爵の従者として動いているレオと仲良くなって繋がりを作ろうと画策している人物である。


 最も、本人は普通に友人として接していて繋がりができたらいいなと思う程度ではあるが。


「あの道楽お嬢様は今日は何のネタを持ってきたんだ?」

「いや、大したことないよ。いつも通り、探偵っぽい依頼さ」

「まーたタンテイか、未だによく分かんねぇことやってんな。ペット探しか?」

「いや、違う。まあ、ほんと困ったお嬢様だよ」


 なまじ立場が高いゆえに道楽者に手を出せない。それに大きな迷惑を被っているわけではない。巻き込まれるレオを除いては誰も被害を受けてはいないのだ。


「いくら楽しいからって、門限破ってまで依頼に情熱かける必要ないと思うんだけどな」

「またやったのかよ、今度は何日だ?」

「三日だよ」

「よかったじゃねぇか短くて」

「はぁ、それを言うのかい?果たしてあのお嬢様が耐えられるか……」


 門限破りの常習犯であるソフィアは実のところ学園の問題児である。依頼は王都から出るものではないため見逃されているが、お転婆お嬢様には三日というわずかな時間さえ我慢できない。


 以前は二時間も門限を破り一週間外出禁止を言い渡されたのに、三日も経たず無断で外に出るという奔放者だ。犬探し猫探しになぜそんな情熱をかけるのか分かる人は学園にはレオ以外一人もいない。


「さあレオ!またゴンナ亭に行くわ、居ても立っても居られないもの」

「ソフィア様、ちょっと待ってくださいよ。今日は推理に時間を割きましょう、ね?」

「うーん……そうね、調査も必要だけど推理の時間も疎かにはしてはいけないもの」


 なんとか外出をやめさせたレオは、この先三日もこのお嬢様を止めるのかとまたうんざりしてしまった。




 昨日と同じように共用サロンの一角を陣取った二人は、昨日の話を整理する。


 自由に出入りできるこのサロンはよく貴族のお話の場として使われているが、二人はそんなことしたこともない。いつも同じ場所を確保して何か紙に書いている変人である。


「話を整理しましょう。昨日の話を聞く限り起こった現象は瓶や食器などの転落、そして厨房にある調理器具の暴走。特に調理器具は横に吹っ飛んだと言っていた……」


「ゴーストの仕業ならば浄化の魔術で解決してしまうでしょう、ソフィア様の魔術なら大抵のゴーストは消滅しますから」


「そうね。目の前で起きたこともあるらしいし、ここは王都。別の魔物の仕業ということも考えづらい。残る可能性は人為と自然現象。でも屋内だし何度も起きていることを考えると自然現象の線は考えにくいわ」


 樹形図状に考えられる可能性を書いては上から線で引いていく。彼らが事件の推理に使う手法の一つである。


「なら残りは人為的な現象となりますね。物理か魔術か。まあ話を聞く限り物理的な行為とは到底思えませんが」

「魔術に決まってるでしょう?どうせ風魔術よ」

「いや、そう決めつけるのは性急な気が……」


 少し待て、とレオが止めようとするが、ソフィアは止まらない。意見を変えない頑固者だ。


「つまり、風魔術でこれらの現象が再現可能かを実演し証明、それから犯人探しをすればいいってわけ」

「あの、まだ風魔術と決まったわけでは……」

「いいじゃない、瓶が転がるだけならまだしも包丁が吹っ飛ぶなんて風魔術以外考えられないもの」

「……分かりました」


 渋々とレオは頷く。間違ってはいないと思っている。事実、風魔術の確率は圧倒的に高い。ゴンナ料亭を潰すのにそこまで手の込んだ策謀もしないだろうと思い直した。


「それなら次は犯人の特定ね!とりあえず犯人は魔術師で違いないわ」

「……あ、はい。もう好きにしてください」

「なによ、私の推理が完璧すぎて不満なわけ?」

「いえ、別に」


 その日、二人はそこまで話してから部屋に戻りそのまま寝たのだった。

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