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1. とある料亭と探偵二人組

「はぁ、今日もいい依頼はないか……」

「ソフィア様、あんな割に合わない依頼なんて逆に転がってないですよ」


 落胆するソフィアを従者のレオが慰める。

 冒険者ギルドは、冒険者と依頼人の仲介役のようなものだ。そこに張り出される依頼はさまざまな人たちから送られて来て、それを冒険者が受注する。

 大抵はギルドから直接出される討伐や採取の依頼だが、たまに町の人や貴族から依頼が通達されることもある。

 二人はいつもそれを狙っていた。


「ソフィア様、そろそろ帰りましょう。門限も近いですし」

「そうね、これ以上見つからないし……あら?」


 ギルドから出て帰ろうとしたときだった。


「リーナちゃん?」

「あ、探偵のお兄ちゃんお姉ちゃん!こんにちは!」

「ええ、こんにちは。ここに来たということは依頼か何かかしら」

「うん、そうなの。お父さんと一緒に来たんだよ!」

「え……どこかしら」


 驚いたように辺りを見回す。ゴツい人が多い冒険者ギルドでは、筋骨隆々な料亭の亭主も溶け込んでしまう。


「あ、いましたよ」


 レオが見つけた先には、確かに依頼を出している亭主の姿があった。


「ふふふ、これは事件の匂いがするわ!行きましょう事情を聞きに!」

「ソフィア様、門限が!」

「いいわよそんなの、どうとでもなるわ!」

「あぁ、怒られるのは僕なのに……」



 頭を抱えたレオと元気一杯のソフィアは亭主に近づいて挨拶する。声をかけられて驚いたように見返す彼は、その主を見て力を抜いた。


「こんにちは!」

「ん?おお、おまえたちは……」

「先日はお世話になったわね改めて私は探偵のソフィア、それとこっちはレオよ」

「あ、あぁ……タンテイ?」


 首をかしげる亭主の様子を無視してソフィアは話を続ける。隣ではまたレオが頭を抱えていた。


「事件の匂いがしたの、もし事件なら私たちがその依頼を受けるわ」

「あ?んん……まあ事件っちゃ事件だが……」

「なら決まりね!レオ、話を聞くわよ!」

「ソフィア様、だから時間が……」

「うるさい!付いて来なさい!」


 事情を聞きに料亭に元気に向かうソフィア、その後ろを力なく歩くレオ。事情を亭主に聞く姿とリーナに心配されて慰められる光景はどこかいびつだった。





「それで、詳しく話を聞こうじゃない」

「そ、そうだな……その前にもしかして君は貴族様か?」

「ええ、まあそうよ。でも気にしないで、私は今は貴族令嬢じゃなくて探偵なんだから」

「いや、タンテイって何だ……それにさすがに失礼に……」

「ゴチャゴチャうるさい!私がいいと言ったらいいの!」

「お、おぅ……それじゃあ……」



 亭主の名前はゴーシュといった。少し前に王都に引っ越して来て家族でこじんまりとした料亭を始めたのである。

 独特の味付けと気のいい亭主とその奥さん、そして看板娘のリーナと看板犬のタロのおかげか、最近では少し名前の知られた隠れ名店となっていた。

 そんな料理をお金を払い二人は食べてみることにした。


「んん、意外に美味しいわこれ。斬新な味付けね」

「あぁ、懐かしき味噌汁の味。ちょっと味は違うけど……」

「何ブツブツいってんのレオ、話を聞くわよ」

「ソフィア様、容赦ない……」


 話を戻そう。

 問題は二週間ほど前から起こった。


「幽霊が出たんだ」

「幽霊?ゴーストかしら」

「ソフィア様、王都にゴーストなんてそうそう現れませんよ」

「ああ、本当に幽霊を見たわけではないんだ。

 ただここ二週間で何回も勝手に酒瓶や食器が揺れて落ちるんだ。それに奥の厨房でも突然包丁やまな板が吹き飛びやがる。

 それで、これは幽霊の仕業なんじゃないかと思ってな。俺たちじゃどうしようもないからギルドに依頼しようと思ったんだ」

「なるほどなるほど」


 落胆するように力なく事情を話すゴーシュとそれを隣で心配そうに見る奥さんのアンナ。リーナはそれを不思議そうに見つめていた。


 ソフィアが事情を分かったと言わんばかりに頷いていると、隣で話を聞いていたレオがポツリと呟いた。


「ポルターガイスト現象ってやつですか」

「なにそれ?」


 聞いたことのない言葉にソフィアは頭を捻る。


「ええっと、何にも理由がないのに突然ものが動き出す現象のことを言います。霊的な理由があると言われていましたが……」

「ふむふむ」


 少し目を瞑って考えた後、ソフィアは名案と言わんばかりに机を叩きつけて立ち上がった。


「分かったわ、ひとまず浄化の魔術を使うことにする!もしゴーストだったらこれでそのポルター……ゴウスト?現象は解決するわ」

「ポルターガイストですソフィア様」

「そうそう、ポルターガイスト現象!一度それで様子を見ましょう、それでいいわねレオ」

「あ、はい。早く帰りましょう。依頼は明日からでも出来ますし、遅くなれば外出禁止になりますよ」

「ええ、そうね。それじゃあ……」


 ブツブツと何やらつぶやき始めると、ソフィアは厨房に近い客席のそばに立った。


「えぇい!光魔術『浄化』!」


 その瞬間、光が辺りを包む。上から下へと光が降りてくる様は本当に洗い磨かれていくようだった。



 一通り作業が終わると、挨拶をしてからスタコラサッサとその場を去っていく。


「ありゃ、もしかしたらとんでもない魔術師じゃ……」

「あんな簡単に魔術を使う人なんて見たことないわ」

「ねぇねぇ、さっきの綺麗だったね!」


 はしゃぐリーナを前に、探偵と名乗る二人組が去っていくのを呆然と見送るゴーシュとアンナであった。

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