0. 探偵の基本はペット探し
「見つけた!特徴も一致している!行きなさいレオ!」
「了解しました、ソフィアお嬢様!」
似つかわしくない言葉を叫ぶ気品のある令嬢が、黒髪の男に命令する。それに従い黒髪の男は飛び出して目標を捕獲した。
「捕らえました、お嬢様」
「よくやったわ、さすがはレオ」
「いや、よくやったと言われても、これ犬なんですけど……」
レオと呼ばれる黒髪の男が捕まえているものは垂れ耳とダルダルの皮が特徴の犬、彼らの目標はこのなんの変哲も無いただの犬だった。
「いいじゃない、依頼はこの犬を届ければ達成なんだから」
男の名はレオ。珍しい黒髪が特徴で、容姿は普通より整っているという程度だろうか。見た目普通の体型に見える彼は服の内にはしなやかな筋肉を携えている。
犬に抱きついて地べたに転がる男、それがレオという男だ。
それに対して女の方は名はソフィア、性はレスター。ソフィア・フォン・レスターはれっきとした伯爵令嬢である。
身長は男の平均であるレオよりも少し低いくらいだろうか、少しも色が混じることのない黄金の髪、スッとした鼻にちょっと気の強そうなツリ目気味の顔つき。口元は大声でまくしたてているせいかよく開くが、黙っていればバランスの整った顔立ちをしていた。
「今日も依頼達成、まだまだ規模は小さいけれどこうしてみると探偵って楽しいわ」
「いや、趣味ですよね」
そう、二人はこの世界で探偵を名乗っている。
この世界で類を見ないその職業は、ソフィアの戯れともいえる稼業であった。
犬に首輪と麻縄を括り付けて街を歩く。下町ともいえる平民街は今日も賑わっていた。
「ペット探しもいいけれど、そろそろ飽きてきてしまったわ」
「探偵ってこういうのや浮気調査ばっかりの仕事ですから」
「でもあなたの語る異世界の物語はもっとスマートだったじゃない、ああいうことしてみたいの」
「ソフィア様、それは内密に……」
「あらそうね、でも誰も聞いてはいないわ」
黒髪の男、レオは転生者である。科学が発達した世界で事故にあい死んでしまい、なぜかその後記憶を引き継いだまま赤ん坊として転生していた。
今となっては様々な出来事があったのち気がつけば伯爵令嬢の従者としてワガママに付き合わされている、ちょっと変わった男である。
そしてソフィアは彼からその世界の物語の中の探偵という特殊な職業に惹かれ、こうして探偵を名乗る変わり者だった。
「タロちゃん!」
しばらくしてとある料亭に着くと、可愛らしい女の子が飛び出してきた。彼女は犬の方へ一目散に駆け寄って抱きしめる、タロと呼ばれた犬の方も嬉しそうに尻尾を振りペロペロと少女の顔を舐める。
「タロちゃんを見つけてくれてありがとう、冒険者さん!」
「いえ、これも依頼ですから」
「私たちは冒険者じゃないわ、探偵よ。しかたなく冒険者としてギルドに所属しているけどね」
「うん? 探偵?でも、ありがとう!」
ニッコリと微笑む少女。その後ろから厳つい筋肉を装備した男性が姿を現した。
「すまねぇなこんな依頼頼んじまって。報酬はギルドに払ってある、これが依頼完了の書類だ」
「ありがとうございます」
「また何か時間があればご贔屓に。リーナちゃんもよかったね」
「うん!」
「うちに来たらサービスしてやるよ、今度は客として訪ねてくれ」
「そうですね、ありがとうございます。それではまた」
「バイバーイ!」
二人の探偵は料亭を後にして冒険者ギルドへ向かう。依頼完遂の報告と報酬を貰い受けるためだ。
報酬は5000マネ、1日かけて捕まえたにしては割に合わない金額だ。しかしこの二人には関係ない。なぜならお嬢様の道楽でやっているのだから。
この物語は、とある二人の探偵がさまざまな奇怪な事件を解決していくお話である。