ねこのはなし(5)the cat's side
腹が減った。
おなかがすきました。
ポンポンペコリンだよぅ。
起きろこのクソアマ、さっさと飯を出せ!
……にゃーん。にゃあん。
ひとしきり騒いだ僕は、鳴き疲れてまた眠ってしまう。人間はさっぱり起きてこない。休みの日はいつもこうだ。一日おきに出かける日は朝早くからそそくさとごはんを出され、夕方遅くまで戻らないから、けっきょく僕はいつでもうっすら飢えていることになる。せっかく念願の飼い猫になれたというのに!
人間が留守のあいだは本棚の本を引っぱり出したり、ちゃぶ台の上のごちゃごちゃしたものを手で落っことしたりして遊んでみるが、やがてそれらにも飽きてしまい、もっぱら窓から外を眺めていることが多くなった。
この町は部屋の中から見るぶんにはちっとも怖くない。人通りが賑やかで退屈しないし、あの憎たらしい魚屋のオヤジに氷水をぶっかけられる懸念ももうないのだ。
人間はときどき僕を放ったらかして二晩も帰らないこともあり、そのあいだトイレは散らかり放題、床に並べられたごはんは空っぽになり、水も一滴余さず飲み尽くしてしまうと、あとは憤懣やるかたなくふすまをこじ開けて、玄関先でドアが開くのをじっと待つしかない。やがて帰ってくると若干申し訳なさそうに提供される、とろりと柔らかい特別なごはんだけを楽しみに。
ピンポーン。
ドアのチャイムが鳴り、僕は慌てて飛び起き、押し入れを開けて奥に隠れた。
しばらくしておそるおそる押し入れから出てきてみると、先ほどのチャイムで目を覚ましたらしい人間が台所に立って、換気扇を回しながら細長いペットボトルを咥えている。といっても、料理をしているわけでもない。
横に小さな穴が開いたペットボトルにはたまにおやつが十粒ほど入れられ、床に無造作に置かれたのを転がして穴から出てくるおやつにありつこうと奮闘する僕に、人間は楽しげな視線を向けてくるのだが、こっちは楽しいどころか必死である。回りくどいことは止めにして、大人しく皿に盛っておいてくれれば良いものを。
しかし人間はペットボトルを咥えて何をしているのだろう? 廊下に出て様子を見ていると、左手でペットボトルを持ち、右手には、ふだんは口に咥えて煙を吸ったり吐いたりしている小さな棒に火をつけるための道具を持って、カチッと音をさせ、煙を吐き出すと、……人間はペットボトルもろともゴトリと倒れ込んだ。床に少量の水がこぼれているが、気づいていない。
正直、僕はあまり動揺しなかった。人間がこうして気絶するのは、ここ最近かなり見慣れた光景なのだ。ことに怪しげな粉を鼻からストローで啜ったあとなどは、必ずといっていいほど気を失っている。きちんと布団に入ってから気を失うから感心だが、今日はどうも勝手が違う。ともあれ、そのうち復活するだろうと僕は部屋に戻った。
……ところで、僕のごはんはどうなったんだ?




