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ねこのはなし(仮)  作者: 黒蜜ハルカ
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ねこのはなし(4)the owner's side

 ニーニがやってきてからというもの、私の生活は一変した。……と言いたいところだが、そう簡単に人は変わらない。よく言えば変わらない。悪く言えば変われない。


 動物病院に二回めのワクチンを打ちに行ったとき、院長先生に笑顔で「飼うんでしょ?」と言われたので勢いで「はいっ!」と頷いてしまったものの、まず借りている1Kの部屋は当然ながらペット不可物件である。実家の母に電話で相談したら「あんた、もう飼いな」と背中を押されて、いよいよ後戻りできなくなったが、私は実を言うと「猫好きbut猫アレルギー」コミュの住人なのだ。

 猫アレルギーは最初こそこまめに掃除して対策しようと努力してみて、いざ飼い始めたら何故だか著しく軽減した。アレルギーは慣れでどうにかなるものではないことを知っているだけに、これは喜ばしい事実だった。

 問題はもっと別のところにあった。


 前述したとおり、私の生活費は親からの仕送りから出ていた。人間ひとり賄うには充分な額を送金されており、猫いっぴき増えたくらいで負担がそうそう増えやしない、などと考えないほうがいい。動物を飼うにはお金がかかるのだ。最初に二度の、あとは毎年一度のワクチン、去勢手術、半年間のノミ取り対策、加えてニーニは子猫のころ食べ物の好き嫌いが多く、高価なウェットフードと安価なドライフードを混ぜて与えたりと、いろいろ気を遣った。自分の食費はこれ以上は削れない。なにを削るか。


 薬だ。


 もう止めようと決意した三日後に、咳止めの錠剤の瓶をまるごと空にしてトイレで倒れているところを恋人に発見された私は、それ以来、彼に薬瓶を管理され、強引に組まされた減薬プログラムを無事に完遂した(この件については面白いエピソードがあるのだけれど、それはまたいつか別の機会に)。問題はいったん解決したかに見えたが、私の抱える、この依存症という終わりなき病は、もっとずっとあとになって再燃することになる。結果としてラッキーだったとはいえ、それまでニーニには飼い主の血液が微量に混入した水を飲まされたり、奇妙な音楽が昼夜問わず延々と流れる中、意識を飛ばして夢の旅から帰らない飼い主の寝顔を冷たく眺めさせられたり、といった経験をしてもらわなければならない。


 薬といえば、ときどきニーニの排泄物に白いそうめんのようなものが混じっていることに気づいて、ある日ペットショップで虫下しの薬を買ってきた。食事に混ぜたら綺麗に食べてくれて、次の日に猫トイレを見た私は絶句した。

 そうめんの塊……。

 ふとニーニのお尻に目をやると、そうめんの先端が頭、だかしっぽだか、を見せていた。私は瞬時にそれをつまんで引っぱると、回虫の死骸がずるずると出てきた。「いやぁ、虫下しって効くんですねー」と、動物病院で笑いながらそう言ったら獣医さんに褒められました。はい。


 ともあれ、私が猫を飼い出してから一時的に社会復帰をするのにはあと三年、そこから再びドロップアウトするのにはさらに三年の歳月がかかる。

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