ねこのはなし(3)the cat's side
何が何だか皆目分からないまま、いま俺はどういうわけか段ボールでできた箱に入れられている。箱を覗き込んでいるのは二人の男女で、何時間か前に女のほうが、いきなり俺の身体をわしづかみにして袋に投げ込んたのだ。
それから連れていかれた場所でへんてこな棒を尻穴に突っ込まれたり、耳をめくられたり、もっと細い棒でチクリと皮膚を刺されたりして、また袋に戻され、次に下ろされたのは知らない場所で、少し狭いが、涼しくて居心地は悪くない。
しばらくして目の前に不審な粒が盛られた皿が置かれた。香ばしい匂いにつられてつい口にしたら、見かけによらず生温かくふにゃふにゃしている、なかなか美味な代物で、残さず食ってしまった。水もあった。やや薬品くさくて透き通った清潔な水だ。腹がいっぱいになると、この箱に入れられた。
さっきから箱を切り刻んでいた男が作業を終え、細長い穴がたくさん開いた箱を俺の頭上にかぶせた。どうやら閉じ込める気らしい。そうはいくか、と俺は身体をねじって脱出を試みたが、いかんせん体力が落ちている。箱には柔らかいふかふかした布が敷かれているし、横を見ると荒い砂で満たされた容器もある。
……砂?
俺は砂を目にしたとたん何とも言いがたい、とある欲求に駆られ、夢中で砂粒を掘った。そして気がつくと、人間たちの眼前で糞尿を排泄してしまっていた。
「あらお利口ねー」と女が笑う。猫のウンコを笑うとは何事か。おまえだってウンコくらいするだろう? しかし相変わらず腹が痛い。
そして突然、強烈な眠気に襲われた。
翌朝、になったようだ。天井から明るい陽の光が差してきている。俺はさっそく箱から這い出した。昨晩、充分に食べて元気が回復したので、こんな安普請の檻破りは朝飯前であった。……そういえば朝飯を食っていない。昨晩の粒をもういちど出せ。ふにゃふにゃして生温くて香ばしい、あの粒だ。
と訴えるつもりで寝ている女の枕元に向かって鳴き声を出したら、女は慌てて目を覚ました。自分で俺を拾ったくせに、不思議なものを見る眼差しで俺を見ている。それから紙を巻きつけた奇妙な道具でもって俺の通過したあとをコロコロ転がしている。まったく変な人間だ。いいから早く粒を出せ。
思う存分に粒を与えられた俺はまたしても箱に入れられ、例の紙の蓋をかぶせられて、女はどこかへ出かけていった。男の姿は今朝から見当たらない。もちろん俺はすぐさま隙間から抜け出し、女の寝ていた布の上に移動したのは言うまでもない。こちらのほうが数段柔らかくて寝心地も良い。どうにもずるい話である。昼が過ぎ、大荷物を抱えて汗みずくで帰ってきた女が、布の上に座っている俺を驚いた顔で見たのも、また言うまでもない。そして今度はもっと硬い、容易には抜け出せない金属の檻がこの狭い部屋の中に設置された。