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ねこのはなし(仮)  作者: 黒蜜ハルカ
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ねこのはなし(16)the owner's side

 やがて、両親からの「お金がもったいない」というまっとうな意見を受けて、借りた部屋を半年ほどで引き払い、私はやっと実家に腰を落ち着けた。通院先も実家の近くのメンタルクリニックに変更し、ときたま機会があると薬物まがいのものに手を出しては、また引っ込めたりしながら、徐々に規則正しく、退屈で安寧な毎日を踏みしめるようになった。


 両親と三人で、京都へ一泊旅行に出かけたことがあった。ニーニを置いて二泊以上の遠出は、とても無理だ。なだめすかして「ねいるさろん」という名目で爪切りに病院へ連れていくため、キャリーケースに詰めて鍵をかけた途端、世界の終わりが来たかのように泣き叫ぶ猫である。ペットホテルに預けたらやかまし過ぎて出入り禁止にされかねないし、かと言って、見ず知らずのキャットシッターを雇って家に上げるのも気が進まない。それに家族以外の人間に、ニーニが馴染んでくれるとも思えなかった。


 朝から早めに家を出て、次の日の夜までに帰ってくる。それが限度で、自動給餌器を4台セットし、その日の昼、夜、翌朝、昼ごはんを食べ終わってしまうと、ニーニはお腹を空かせても、どうすることも出来ずに、ひたすら私たちを待っている。

 ……はずであった。


 二日目の夜、観光もそこそこに急ぎ気味で帰宅した私たちの目に飛び込んできたのは、ダイニングルームの床に転がるジップロックの袋と、その口から点々とこぼれたドライフードの粒だった。猫の姿はない。普段なら、これだけ長時間留守にしていたら、玄関に張りつかんばかりにして待ち構えているというのに。


「ニーくーん? ただいまー!!」

 母が声をかけると、ややあって二階から「にゃあ」と元気な鳴き声が聞こえ、小走りに猫が降りてきた。

 すぐさま「おじちゃん」に向かって「ごはんちょうだい」のおねだり攻撃をかけ、遅い夕ごはんを食べている猫を見ながら、私たちは現場検証を始めた。


 4kgの大袋からごはんを移しておいていたジップロックの袋は、念のため二重にしてあり、色つきのビニール袋に入れ、さらにそれを紙袋に入れて口を折り曲げてあったもので、しまう場所は日頃使っている皿の後ろ側であった。それが、何故か袋は一重になり、厳重包装があたりに散らばっている。使われなかったお皿は、いつもどおりの位置にあった。何という器用な猫!


 後日、だんだんと真相が明らかになっていった。ごはんをせっつかれて父が抱き上げたニーニのお腹がぱんぱんに膨れていたこと。ジップロックに入っていたごはんが粉っぽくなり、ところどころ袋に穴があいていたこと。泊まりがけの外出時には二ヶ所に設置しておくトイレに、大便がやけにたっぷりとしてあったこと、などなど。


 想像するに、夜も更け、もう誰も帰ってこないことを悟ったニーニは、昨夜じゅうかけて、紙袋を慎重に棚の奥から引っぱり出し、紙袋を開けると中のビニール袋からジップロックを取り出し、さらに二重にきっちり閉められた開け口を開こうとあちこち爪をかけたり体重をかけてみたりして(それで粒が崩れ、粉々になったのだと推測する)袋の口が開くまでにどれくらい時間がかかったかは分からない。

 とうとう開封に成功した暁にはお腹いっぱい堪能して「もうこれでいつでも、いくらでもごはんが食べられる」と呑気に二階で寝ていたのではないか?


 そこへ急に私たちが帰ってきたものだから、はっと目を覚まし、一瞬どんな顔をして出たものやら迷ったのだろう。それで迎えに出るのが遅れたのだ。


 お皿を落としもせず、外装には爪痕ひとつ残さないあたり周到な仕事だし、犯行が発覚したあとにごはんを欲しがる演技は超一流であった。おまけに誰にも邪魔されないタイミングを図っての行動である。この猫は相当に賢いのではなかろうか。

 人間たちがニーニの聡明さを褒めるたびに、しばしばこの出来事を持ち出すので、猫は辟易しているふうにも見えるが、何のことはない、単に手放しで絶賛しているのだ。

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