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ねこのはなし(仮)  作者: 黒蜜ハルカ
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ねこのはなし(14)the owner's side

 私はダイニングテーブルに顔を伏せて泣きじゃくりながら「いますぐ病院に連れていってくれ」と両親に向かって懇願していた。DXMをしこたま飲んでいたのが明るみに出て、あまつさえスマートフォンをぶち壊し(DXMを服用すると手元がぶれてスマートフォンを上手く操作できなくなる。画面のロックを解除するパスコードの数字を何度も入力し損なって、再起不能になったのだ)自棄になっていた夜のことだ。


 両親は意外にも冷静、というよりはっきり言って冷淡で、呆れ果てた末の哀れみの視線を感じたが、どうもこんな遅くに病院まで連れていってくれそうな気配はなかった。ただ母親に「どうしてそんなに薬飲むの!」と詰問され、「……、現実逃避……」と答えると、「あんたの逃げたい現実って何なの?」と追い打ちをかけられて、ふと涙が止まった。私は何から逃げたいのだろう? 何から逃げているのだろう?


「……全部や」

 そのときはこう言うしかなかった。私は私自身をまるごと放り出そうとしていた。それでちょくちょく首を吊ってみたり、馬鹿ほど薬を飲んでみたりするのだ。双極性障害を患っていた私にとって、もともと薬は日々を生き抜くために必要不可欠なものだった。Syrup16gの歌詞を借りるなら「うまくすり抜けて、うまくごまかして、楽にな」るために。『明日を落としても』誰も拾ってくれないよ、それでいいよ、と歌うこの曲の最後には、公式の歌詞カードには記載されていないフレーズがある。


「Do you wanna die?」(死にたいと思う?)

 いくらなんでもあまりにストレートな。

 余談ながら、この曲を私に教えてくれた友人は、これを書いている今年の始めに命を絶った。いまの私より二歳若い、享年三八歳だった。R.I.P. 彼に平穏あれ。


 これまで私が薬に溺れるところを何度も目撃してきたニーニは、今回ばかりはその一部分しか見ていなかったが、ぐるぐる回る私の視界のすみからそっとこちらを見やりながら、おそらくいつものように「やれやれ」と無い肩をすくめて生ぬるい目で私を眺めていたに違いない。いつだって彼はそうだ。こちらがいくら人の道を踏み外そうと、猫の道を踏み外すことなく、しれっと我が道を進んでいる。ふだんから何かと自己主張の強いわがままな猫だが、筋が通っているとでも言おうか、飼い主に似ず、ある意味ものすごくきちんとしているのだ。めったなことではうろたえないニーニも、数年前、私が三日間行方をくらました際には、部屋を訪れた両親いわく「たいそうしょぼくれた顔で」ぽつんと待っていたらしい。きっと空腹だったのだろう。かわいそうに。


 たぶん猫は死にたいと思ったりしない。猫は明日の朝が来るのを恐れずに、その日一日ごとを一心に生きている。


 ある友人から「自殺した犬」の話を聞いたことがある。ふたりで夜道をあてどなく徘徊しているさなか、立ち止まって休憩し、坂の上から見下ろすマンションの廊下に、繋がれている犬を見つけた友人はこう話し出した。

「俺が小学生のときさー、学校帰りに歩いてたら目の前に犬が落ちてきたんだよ。それでビビって、どうしたらいいか分かんねぇし、とりあえずそこの建物に住んでるおばさんに報告したわけよ」

 すると、そのおばさんが「気の毒にねぇ、長いこと病気で苦しんでたのよねぇ」と言ったのだそうだ。


 犬が病気を苦にして投身自殺をするとは、にわかに信じ難い。しかし、いざそんな状況に置かれたとき、猫ならどうするか。たぶん猫は自殺はしない。自分の死期を悟った猫は身を隠す、とよく言われる。あれは弱っているのを外敵に見つかって襲われてしまう危険を避けるためで、猫はその自尊心の高さゆえに、死を選ぼうとはしないはずだ。最期まで生きられるだけ生きようと、もがき足掻くはずだ。

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