ねこのはなし(1)the cat's side
ねこのはなしをしていきます。
さがさないでください。
タイトルは(仮)です。
恰好良いのを思いついたら変えます。
どなたか考えてくれてもいいんですよ?
では、とあるねこのはなしをおよみください。
吾輩は猫である。背中にチャックがついているが中身は誰にも見せぬ。毛皮を脱いだが最後、猫という生き物は直ちに死んでしまうからである。もし猫をかぶった猫を見かけたら、決して皮を剥いではならない。これは吾輩と読者諸君とのあいだだけの約束事である。忘れたら貴様の皮を剥ぐから覚えておけ。
その日はじめじめと蒸し暑く、吾輩は空腹を通り越したしぶり腹を抱えて、ぽつねんと民家の前にへたり込んでいた。目は数日前からかすみ、蒸し暑いにもかかわらず何やら身体の芯から悪寒がする。通りすがりの誰かが弁当箱から唐揚げなど投げてくれたが、油っこくてとても食えたものではない。
「この子ごはん食べないのよねー」と頭上からババア……もとい、ある程度歳のいった女性らの声が降ってくるが、食わぬわけではなく、食いたいのはやまやまだが、どうにも食えぬのだ。明らかに弱っている病気の子猫にはそれなりの食餌療法が必要であり……、などと贅沢を言える身分ではもとよりなかった。いつだったかずいぶん前に雨が降ったあと水たまりの水を飲んで以来、僅かに得た滋養すら泥状になって吾輩の尻穴を通過してゆく。腹に何者かが棲み着いてでもいるのだろうか。
こんなことを思うともなく思いつつ民家の玄関先で首を垂れていると、不意に誰かが吾輩の背に触れた。とっさに身の危険を覚え、素早く逃げ……る暇はなかった。正確には、素早く反応するだけの体力をすでに失っていた。触れた手は吾輩の背を幾度か撫でると、そのまま立ち去っていった。去る足は見えたが、不躾に撫でてきた者の、その顔を確認することは出来なかった。もはや首をもたげる力も尽きていたのである。このまま先日襲いかかってきたあの黒い鳥たちに食われるのか。例の黒い鳥たちは、吾輩の全身をくまなくつつき回したあげく、吾輩を可食物と判断しなかったようで、食うのを断念したようだが、彼らもまた常に飢えている。いつまた気を変えてやってくるか分からない。土に還るよりはいっそ黒い鳥たちの腹の足しにでもなったほうが、まだしも生まれてきた甲斐が、
ねぇよ。冗談じゃねぇ。俺はこの不愉快極まりない町の道端に何でか知らんが産み落とされて、せいぜい一ヶ月も経つか経たないかくらいなのだ。母猫は日に日に弱ってゆく俺を早々と見捨てて、兄弟たちを引き連れ、俺が追って行けない遠いところへと消えた。今ごろはどこか快適な住処を見つけ、のうのうと暮らしているかもしれない。俺だけ割りを食って黒い鳥の養分になるなんてあんまりだ。なんのために生まれてきたのか、まるでみじめで哀れ過ぎて泣けるじゃねぇか。
俺は声なき声で鳴くのを止め、陽が暮れてゆく往来に背を向けた。世間は夕飯どきだが、どうせ今の俺の胃に収まるものなど落ちてやしないのだ。他の野良猫と出くわして喧嘩を売られる前に、目立たない寝床を確保しなければいけない。あいつらの中には人間と上手くやって餌にありついている奴もいるようだ。しかし俺にはそんな社交性もなければ媚びの売り方も知らない。知る必要も感じない。なにも考えたくない。もううんざりだ。寝る。目なら覚めなくてもいい。