第四話 かぐや姫かよ!?
ビクッ!と落ちたような感覚で俺は慌てて飛び起きた。
「ここ…は?」
寝ぼけた目に飛び込んできたのは、白い壁…、じゃない。なんだこれは?
すぐ目の前の壁からにゅっと首を突き出して向こうを覗けば、そこは竹林だった。
もう一度近くに目を戻す。
ん?
俺の寝ていたここは…竹?
なんと!俺はでっかい竹の切り株の中に身を横たえていたのだ。
こんな…中に人が入れるほどのでっかい竹なんて見たことない。
…まさか?
俺が小さくなった!?
一瞬、かぐや姫とか一寸法師とかの話が脳裏をよぎる。
神様は転生って言ってたけど、俺は小人になったのか?
…と、思ったけど、でかい竹は俺が入っているこの竹だけで、周りに生えているのは大小あるけど普通サイズみたいだ。
「いててて…」
猫鍋の猫のように竹の切り株の中にくるりと丸まっていた俺は、寝違えたように軋む身体をほぐしながら、どうにか身を起こした。
「ここは、どこだ?」
改めてぐるりを見渡しても、やっぱり竹林。
下草は無く、うっすらと光が射してほの明るい竹林だ。
とりあえず、風呂桶のような切り株から降りてみる。
「うおっ…と、と」
服が、ぶかぶかだ。
ズボンの裾が引っかかって転びそうになる。
俺は某国産自動車ディーラーで整備士をやっている。
死んだんだから…やっていた、か。
溺れる子どもを助けたのはとある日の昼休み。店の近くの河川敷でのことだ。
不思議なことに、俺はあの時着ていたつなぎの作業着を今もそのまま着ているのだ。
けれど、身体はすっかり小さくなっている。
改めて両手を見れば、ぷにぷにと手荒れも少なくなって、子どもの手のように見えた。
そういえば、声もちょっと違う気がする。
たまに読む、転生もののネット小説では、完全に別人として転生するものもあれば、本人がそのまま別世界に行くものもあった。
…服がそのままってことは、どうなんだろう。俺は今どんな姿なのか?
すとん、と地面に降りた。
靴もちょっとぶかい。
シューズの紐を締めなおして、ズボンの裾と袖も捲って、俺は辺りを探検してみることにした。
「まさか、これも夢ってことはないよな?」
サクサクと竹の枯れ葉を踏む音はリアルで、とても夢とは思えない。
けれど竹林というのは、異世界転生とはイメージがどうも合わない。
などと思っていた俺は、一瞬でその考えを否定されることになったのだ。
「へ?」
サクサクと少し歩くと、いきなり竹やぶは途切れて、ずんと視界が開けた。
「どこだよ…、これ?」
俺は思わず絶句してしまった。
俺の前には、遥か地平線の先まで続く、何もない泥の大地が広がっていたのだ。