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第二十四話 フナムシ

甲板から見渡す限りの砂浜に、海賊らしき者の影は見えない。

今なら見つからずに逃げられそうだ。


壊れかけた梯子を降り、割れた船体を伝って船底へと向かう。

素足の彼女が破片で怪我しないように気遣いながら、俺たちはどうにか船底に降りることができた。


「どうしたの?」

船の割れ目から外に抜けだそうとして、不意に動きを止めた俺に、後ろからレプレが言った。


「なあ、魔物ってあれのこと?」

「へ?」

指差す先を俺の背中越しに覗き見たレプレは、一瞬で顔をひきつらせた。


目の前に鉢合わせたのは、巨大なフナムシだったのだ。


「うぐっ!?」

レプレは両手で口を押さえて、かろうじて悲鳴を呑み込んだ。


大人の体より一回り大きなフナムシ。

わさわさと脚がいっぱい生えている。


…脚の多いのは勘弁してくれよ!

俺は気持ち悪さに顔をゆがめた。


でも、女の子の前でそんなことも言ってられないか。

背中にぎゅっとしがみつくレプレの手が震えている。

「あ、あれ。凄い速さで襲ってくるの…」


俺は懐から水筒を取り出し、竹槍を握りしめた。

初見の敵だ。

まずは俺の血が効くのかどうか、確かめておかないと怖い。

水鉄砲は無いから、水筒の水を投げつけて、効果があれば竹槍で一気に叩く。


「レプレは隠れてて」

俺はそっと一歩を踏み出し、水筒の栓を抜くと素早くフナムシの化け物に投げつけた。


ジュワッ…。


甲殻が溶けて煙があがった。

よし!効果ありだ。

俺は一気に間合いを詰めて、不意打ちを喰らって戸惑う敵を刺し貫いた。



その子は不思議な男の子だった。


悪夢のような惨劇のなか、気を失った私が再び目覚めると、私の顔を見知らぬ男の子が覗き込んでいたのだ。


海賊!!

私はとっさに身構えたが、どうも様子が違う。

どう見ても私と同年代。

海の男にしては線が細い。

どっちかというと華奢な美少年って雰囲気。

屈強な海賊たちの中に、こんな男の子はいなかったはず。


「キミ、誰!?」

私の問いに、彼はドキッとするような優しい笑みをたたえて言ったのだ。

「ああ、良かった。目を覚ましてくれて」


彼は海賊ではないという。

じゃあ一体何者なのよ?

優しい言葉を掛けられても、男なんて信用できない。

私の脳裏には、下品な笑みを浮かべて襲いかかってきた男たちの顔がこびりついていた。


「海賊じゃないって?じゃあキミは一体誰?どこから来たのよ!」

私の問いに、彼は木で鼻を括ったような答えを返した。

「俺は海賊じゃない。あっちから来たんだ」

彼の指さす先には、延々と砂浜が続いているだけだ。


海賊たちはここが幻海だって言っていた。


地図で見たことがある。

ターミナ海の真ん中にぽっかりと空白になっている部分だ。

誰も入ることが出来ない、地図にもかけない幻のような場所。

そんなところに人がいるはずも無いのに。


けれど、不思議と彼から敵意は感じられなかった。

そして彼が飲ませてくれた水。

彼は聖水と言っていたけど、あれは一体何だろう。

船底であちこち身体を打ちつけて、私は多分肋骨かどこか折れてたんじゃないかと思う。

身体を少しひねるだけで激痛が走った。

その痛みが一口飲んだだけで、一瞬で全快したのだ。

王様しか使わせてもらえないという神殿の秘薬だって、そんな効果は無いと思う。


それに彼の持っているナイフ。

あの恐ろしい切れ味は何だろう。

重い鉄の足鎖を、まるでバターを切るように断ち切ってしまった。


極めつけは彼の強さ。

あの恐ろしい魔物に再び出くわした時、私は今度こそもうダメだと思った。

なのに彼はたったひとりだけで、あの恐ろしい魔物を一瞬のうちに屠ったのだ!


「凄い!キミは一体何者なの!?」

私はもう驚きしかない。

正直言って、全然強そうに見えないのに…。


「さあ、レプレ。こっち!」

彼に手をひかれるまま、私は走った。

彼を見ているうちに、私は再び生きる希望が湧いてくる気がした。


怒涛のように押し寄せる悲しみと絶望の中、もう死んだ方がましだと思っていたのに…。

生きて、必ずお姉ちゃんを取り戻す!

私は決意を新たにしていた。


10分も走っただろうか。

「ここで隠れて様子を見よう」

彼が指さした先に、奇妙な円盤状の物体が落ちていた。


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