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第十九話 救出

「うわっと…と」

甲板に転がり落ちそうになる女性の身体を受け止め、俺はひっくり返って尻もちをついた。

折り重なってくる柔らかな身体は、とても死体とは思えない弾力がある。


まさか、生きてる?


そう思ってふと彼女を見た俺は、息を呑んだ。


「…ホンモノか?」


目の覚めるようなピンク色の長い髪。

そして、彼女の頭頂部には違和感のないピンクの長いうさぎ耳が垂れていたのだ。


うさ耳!?

コスプレ…なわけないよな?


慌てて生死を確かめる。

彼女の顔色は蒼白だったが、微かに息をしていた。

「生きてる!」

俺は思わず叫んでしまった。


「ど、どうしよう!?」

と、とりあえず楽な姿勢をとらせるか?

甲板にあった乾いた帆布を急いで集め、その上にそっと寝かせてみた。


彼女を運ぼうと身体を持ち上げた時、俺は彼女の両手に手枷が嵌められ、足には鎖が繋がれていることに気づいた。

「なんで…こんな…」


彼女は奴隷か…、それとも罪人だったのか?


気を失ったままの彼女の横顔は思ったより幼く、未成年にしか見えない。

こんないたいけな少女に非道いことを!


改めて見れば、整った顔立ちのきれいな子だ。

ウエストに編み上げの紐のついたコルセット風のロングスカート。

民族衣装のように、品よく色糸で刺繍をあしらった素朴な生成りのブラウス。

胸は…ずいぶんと大きい。

きちんとした身なりと、よく育った身体つきがやけに彼女を大人びて見せていた。


…困った。

目だった外傷はないし、息もしている。

気を失ったままの彼女を、俺は一体どう看病したらいいんだろう。

無防備な姿態を晒す女の子に、あまり触れるのもためらわれるし…。


一体彼女に何があったのか。

こんな時こそ、あの竹の切株の寝床があれば…。

あの切り株の中で一晩寝れば、どんな怪我も疲労も治ってしまうのに。


まあ、無いものは仕方ない。


どこか見えないところを怪我してたりしないだろうか?

長い間船べりに吊られていたのなら、どこか締め付けられて褥瘡みたいになってるんじゃないか?


あれやこれやと考えてやきもきしていると、彼女の唇が微かに動いた。

「気がついたか!?」

耳を寄せるが、声は無い。


俺は彼女の唇がひどく乾いていることに気づいた。

「水が欲しいのか?」

唇だけでも湿らせてやった方がいいだろう。


俺は懐に持っていた竹筒の水を傾け、少しだけ口に含ませてやった。


…効果はてきめんだった。


唇にみるみる赤みが差し、頬に血色が戻り始めたのだ。


「ここは…わたし、なぜ?」

ほどなくして、うさ耳の少女はピンクの瞳を開いたのだった。


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