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第十七話 発明

「何かこう…、ロープがあったらホントに便利なんだけど」

竹林の聖域に居たときから、俺は糸やロープを作ろうと、竹の繊維をほぐしてみたり、いろいろトライしてみたんだが、なかなか上手くいかなかったんだ。


でも、まあ竹は加工しやすいから、ロープは無くても組み細工にすればいい。

幸い、ヤドカリのハサミは驚くほど切れ味が良くて、スパスパと竹が切れるから、細工には苦労しなかった。


でも、軟体生物をざる舟に固定するのにはずいぶん苦労させられた。

そう。俺はゴカイの切れ端を動力として使おうと閃いたのだ。


ムニムニムニムニ…。


「おお!これは楽チン!」

ざる舟の底に固定したゴカイは、竹から得た真水を垂らすと勢いよく脚を動かし、前進を始める。

ちょろっと垂らせば100メートルぐらい進んでくれる。右と左で垂らす量を変えれば微妙に進行方向も調整できる。

俺は歩かなくてもよくなったんだ。


もちろん、ずっと座ってたら身体が鈍るし、軽い方がスピードが早いからほとんど歩くんだけど、休憩中でも進めるようになったのはすごい。

何より、悩みの種だったブレードの磨耗を全く気にしなくて良くなった。

気持ち悪いなんて言ってられない。

ゴカイさまさまだよ、ホントに。


それと、もうひとつ良いことがあった。

砂浜にアサリが見つかるようになったんだ。

アサリ…って、生で食べれたっけ?

二枚貝って、貝毒とか、なんか生はヤバい気がする。

食中毒で体調崩しても、もう聖域の切り株で寝てれば回復するって訳にはいかないんだ。


ここはついに火を使う時か?


幸い、大アサリの殻は乾かせば焚き火台としてもってこいの形だ。中アサリの殻は鍋やお椀になる。

え?お化けアサリ?

もちろんいましたよ?

でも最後は殻に籠城されたんで聖水攻めにしたら、殻ごと蒸発してしまいましたとさ。

一応魔石はゲットしてます。


ということで、乾燥した竹で初の火起こしだ。

火を使う決断に至ったもうひとつの理由は海藻。

ごくたまにだけど、砂浜に海藻が打ち上げられているのを見かけるようになったのだ。

ちょっとトゲトゲしくて食べる気はしないんだけど、乾燥させれば燃やせそうなのだ。


竹で火をおこすやり方は何かで見たことがある。火口(ほくち)は何か綿のようなものだったと思うけど、ここは乾燥させた海藻を細かく裂いたものを使う。


竹の摩擦で出来た火の粉を、海藻の火口に燃え移らせると…。

火だ!

あちちち…。

海藻をくべて、竹串に刺した貝を炙ってみる。

干しヤドカリで出汁をとった、アサリスープも作った。


「旨い!」

はふはふ言いながら、俺は久しぶりのあったかい料理を頬張った。

やっぱり火は凄い。

人類の進化って後戻り出来ないものだと改めてわかった気がする。


この熱々の貝の身の柔らかでジューシーなこと!

そしてこの染み渡るような旨味たっぷりのスープ!

俺はひさびさに、料理といえるものを口にして、愉悦に浸ったのだった。


けれど、手持ちの海藻はあっという間に全て消費してしまった。

火というものは贅沢なものだ。

もう一度煮炊きに必要な量を拾い集めて乾燥させるにはしばらく時間が必要だろう。


竹は絶対に燃料にしない、と俺は心に誓っている。

この世界で竹は俺の原点だ。

竹を燃やすなんて、自分の身体を食べて飢えを凌ぐのと同じようなものだ。


「ああ…、早く木の生えた陸地にたどり着きたいな」

俺はひとりごちて歩みを進めた。


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