第十五話 三番目の敵
竹のブレードをいたわるように、少し沖の、水深の深いところを選んで歩く。
深いと言っても十センチぐらい。
歩くスピードは落ちるが仕方ない。
それにしても、最近はヤドカリもハゼも見なくなった。
新しい獲物がないから、干したものばかり口にしている。
荷物が減ることはブレードの摩耗には良いんだけど…。
…でも、どうしていなくなったんだろう?
俺はふとそう思って、何気なく足元の砂地を掘ってみた。
「うわっ!?」
指に絡まった何かを、俺は慌てて振り払った。
「何だ!?」
久しぶりに出した声は少しかすれていた。
うねうねと蠢く、茶色い紐状のもの。
脚のようなものがいっぱいついている。
「ぎゃっ!気持ち悪っ!」
俺は思わずしゃがみこんで粘液のついた手を洗った。
脚のいっぱいある奴は苦手なんだ!
「マジかよ!」
こんなのがそこかしこにいると思うと鳥肌が立ってくる。
そして…。
ヤドカリ、ハゼ…。
今までの例を考えれば、小さい奴がいれば大きい奴もいて、そして、死ぬほどでっかい奴もいるのだ!
と、思った瞬間、俺は視界の端で砂地がモコモコと盛り上がるのを見た。
ギャアーッ!
俺は悲鳴をあげた。
嘘だろっ!?
砂地を割るように飛び出したのは、超巨大なゴカイだったのだ。
俺の身体より太い胴体。
長さはどれくらいあるかわからない。
体側に無数の脚が、うねうねと蠢いている。
化け物ゴカイは大きなアゴを開き、クモの脚のような触手を広げて、明らかに俺を捕食しようとしていた。
「信じられんわっ!」
俺は慌ててざる舟の蓋を開け、水鉄砲と竹槍を取り出した。
奴はまだ十メートルちょい先だ。
水鉄砲の射程には遠い。
俺はざる舟の蓋を盾にしながら、今にも襲いかかろうとする敵の様子をうかがった。
シャッ!
何の躊躇もなく、奴は鎌首をもたげて襲いかかってきた。
速いっ!
身体をバネのようにしならせて、横振りに噛みつこうとする。
くっ!
ざる舟の蓋の盾で、何とか攻撃を逸らす。
竹で編んだ蓋がミシミシと大きく凹んだ。
くそっ!これが壊れたらどうしてくれる!
シュワッ…。
表面にたっぷり塗られた俺の血と反応して、奴の体表が蒸発して煙をあげた。
ギュアッ!
苦しみながらのたうつゴカイ。
破れた傷口から、青い体液が撒き散らされて俺の顔に降りかかった。
うおおっ!気持ち悪い!やめてくれぇっ!
けれどそんなことも言ってられない。
俺も必死だ。
とにかくこいつにも、俺の血が有効なことはわかった。
水鉄砲をぶちこんで、竹槍でとどめの必勝パターンだ。
俺はゴカイに向かって駆け出した。
奴も俺を迎え撃とうと、鎌首をあげて威嚇してくる。
手負いのゴカイと俺は、数メートルの距離を挟んでにらみ合いの状態になった。




