第十三話 雌伏の日
へとへとになりながら、どうにか竹やぶに帰り着いたのは、もう日もすっかり暮れた頃だった。
「やっぱり、ちょっと無謀だった」
俺は反省しきりで切り株の寝床にもぐり込んだ。
…あれだけ歩けば、どこか島とか海岸線が見えるんじゃないかと勝手に期待して思い込んでいたんだ。けれど、そんな甘くなかった。
むしろ、命を狙う化け物たちがうようよいるんだということを俺は思い知らされた。
「これは簡単にはいかないな」
一日二日の行程でたどり着けないほどの場所に遠征するとなると、食料と、何より水の問題が出てくる。
今のところ水の補給手段は若い竹の節に溜まる真水だけ。
これまで雨らしい雨も降ったことが無い。
この海の真ん中で、真水を作り出すのは事実上無理だ。
海水を蒸留するとしても太陽も照らないし、俺は今のところ火も一切使っていないのだ。
携行するにしても、武器やテントを持てば、もうそんなにたくさん水を担ぐことは難しい。
火を使って蒸留?
それこそ無謀だろう。
竹しかないし、飲むのに十分な水が確保できるとは思えない。
…やはり、ここを離れることはできないのか?
いろんな思いを頭に巡らせながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
◇
次の日、疲れもすっかり癒えた俺は、なんだか吹っ切れて、ちょっと腰を据えて計画を練り直すことにした。
まず水だ。
ここの若い竹は普通と違って青くなっても歯で噛みちぎれるほど柔らかい。
そしてその中に水が溜まっている。
この水はどこからきているのか?
こんな海の真ん中で、ここだけ淡水が湧いているのか?
それとも竹が海水を真水に変えているのか?
俺は竹の根元を掘り起こしてみた。
根は頑丈で網の目のように絡まって、ずいぶん掘るのに苦労したが、結局根のまわりの土もかなり塩辛いことがわかった。
多分この竹は海水を濾過して真水にすることができるんだろう。
なんとか移植できないかな?
竹を持ち運ぶことができれば、水の問題は解決するし、タケノコが生えたら食料にもなる。
それだけのものを運ぶとなると、船か…。
でも、この干潟は満潮でも数センチしか潮が満ちない。
橇みたいに人力で曳くことになるだろう。
そもそも俺、どれくらいの重さまで曳けるんだろうか?
何となくだけど、多分今の俺は中学生の頃ぐらいの体格だと思う。
鏡も無いし、干潟の浅瀬に顔を映してもぼんやりと顔の輪郭しか見えない。
…いずれにせよ、あんまり重いのは無理だ。
曳くタイプの船を竹で作るとすれば、どんな形がいいだろう?
しかも、野宿用に蓋で覆えなくてはならない。
「うーん、実際に幾つか作ってみるしかないか」
きちんと、何ヵ月かかけてでも、しっかり準備する。
その日から試行錯誤の準備が始まったのだった。




