魚座の国
ルカは次なる国『魚座の国』へ行くため馬車に乗っていた。
『魚座の国』ーー
クァルテ=ハクアが統治する国だ。ハクアは青色と黒色のメッシュの長い髪が特徴的であり。性格は明るく、思ったことをすぐ口に出してしまう。
馬車に乗りながらアンゼルからもらった十二星座ノ姫君について載っている紙に目を通す。
紙には必要最低限な事しか記載されていない。
「ユウリ」
「どうしたのー?」
小さい人型の妖精が現れた。彼女ーーユウリのお陰でルカは最強で居られる。ルカにとっての命綱の役割を果たしている。
「お前は十二支について何か知ってるか?」
「うーん。十二支? 聞いたことないなー」
頭を抑え可愛らしい仕草で考えている。
「そうか」
知りたい情報が聞けなかったが仕方が無い。
知らないことは知らないのだ。嘘をついてる様にも見えない。
「ごめんねー。役に立てなくてー」
「いや、大丈夫」
ユウリはしゅんとルカの身体に戻っていった。ルカが知りたいのは十二支の個々の能力。先日、十二支の一員である戌いぬが襲撃したさい、彼の獣の進化した姿や特殊の技が気になったため十二支の個々の能力が知りたいのだ。
能力さえ知れれば少しでも対策が立てられる。
だが、情報無ければその考えは無意味。
窓に頬を杖をつき窓の外を見て、溜息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ハクア様。この荷物どこに置きましょう」
「うーん。そうだなー。そこの木の下に置いといて」
魚座の姫君であるクァルテ=ハクアの1日は多忙だ。ハクアは十二星座ノ姫君としての仕事、街の施設の設備・設置、財政面までもが自分で行っている。
十二星座ノ姫君としてだけではなくハクアの人当たりの良い性格のお陰かハクアは国民から慕われている。
「ハクア様ー」
「今度はなにさ」
ハクアは少し疲労が溜まっているのか軽く頭を抑えた。兵士は大丈夫だろうかと心配している様子だったが、ハクアは目で大丈夫だと訴える。
「その、契約者の方がお見えになっています」
「わかったよ。すぐ行く」
少し面倒なやつが来たと心の中で溜息をつく。ハクアにとっては契約者ルカはイマイチ信用出来ない。
「よく来たなー!!」
契約者ルカの肩をバシバシと叩く。
「私と契約する事にしたんか?」
「いや違いますよ」
意外と冷静なんだなこいつ。
もっとおちゃらけてるやつだと思っていたので気持ちを改める事にした。
「ハクアさん、十二星座ノ姫君全員契約するために参りました」
ハクアは理解ができずキョトンとして、その場が静まり返り時が止まった様だ。
「....何言ってんだ? お前」
「もう一度言います。あなた達十二星座ノ姫君と契約するために参りました」
ルカは天秤座の姫君ウルカに心を見透かされていた。だが、そのお陰でルカは十二星座ノ姫君達をこそこそせず堂々とぶつかっていこうと決意を新たにした。
「馬鹿なの!? 全員と契約なんて」
「まぁ、少し聞いてください」
ルカは嘘偽り無く説明したが、まだハクアは納得言っていない様子。
「ちょっとはわかったけどさ、無理矢理過ぎないか?」
「わかっています。それでも俺は十二星座ノ姫君全員と契約したいんです」
「はぁ、少し考えさせて」
やはりまだ契約者ルカは信用出来ない。
契約者ルカは何か怪しいとハクアの勘がそう言っているからだ。
そんなことを考えている間にも着々と魚座の国を攻め落とす準備が整えられている事は2人は知らない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それで、なんで俺は縛られてる?」
椅子に座らされた状態で足や腕が縛られ固定されている。
講堂へ案内されたのはいいがまさか縛られるとは思ってもいなかった。
「一応ねー。何かあったら困るからさ」
「何かって、何もしないよ」
もしルカが襲ってきた時は制御魔法を使うつもりだったが、襲ってくる様子は無いので少し安心する。
「本当の目的は何なの? お金? 土地?」
ハクアはルカの言っていた森の拡大や保護については全く信用していない。だからこそ本当の目的が知りたいのだ。
ルカにとってはあれが全て本当の目的だ。嘘偽り無く言ったつもりだったか伝わらなかったのだろうかと考える。
「お金も欲しくないし。土地も欲しくない。ただお前達と契約したいだけだ」
真っ直ぐな目でハクアを見つめるているが、ハクアはすぐに目を逸らす。
「契約したいのはわかったけどさ、私も国の事とか沢山あるし。けどさ、それをすぐに信用しろって言うのは無理があるな」
ハクアの言いたいことは十分ルカの伝わっている。だけど、ここで諦めるわけにもいかない。
「信用してもらえるまで俺はこの国にいるつもりだと言いたい所だが時間が無い」
「時間? 沢山あるでしょ」
「十二支が攻めてくる」
無意識的に手に力が入る。実力派暗殺集団の一人だけで一つの国を滅ぼしかねない力を持っていると聞く。
「なんで攻めることを知ってる」
「天秤座の国が襲われた。対処はしたがこの国も危ない」
「対処って、まさか倒したの!?」
「ウルカがな」
ルカにそれほど実力がある様には見えない。そのためルカが十二支の1人を倒したなどと聞いたら自分までもが信用出来なくなる。
「..やっぱりね。流石はウルカだわ。わざわざそれを言いに来たの?」
「契約の事もそうだが、十二支の事が今は一番言いたかった事だ」
「なら、もう契約するからこの国に居なくていいね」
「何言ってるんだ?」
ルカを結んでいた縄がストっと床に落ちていく。
「俺も一緒に戦うからここに来た」
理解が追いつかない。いつ解いた? こいつ(ルカ)は何を言っている?
縄が解かれたが攻撃してくる様子は無いが警戒が必要だと少し身構える。
「馬鹿なの?あんた。何も実力が無いのに十二支と戦う? 馬鹿にも程かある」
「実力がないか」
はぁとルカは溜息をつき、少し後ろに後退する。
『氷刃障壁』
氷の壁がルカの周りを囲む。氷は刃の様に鋭利になっている。
「な、なんで!? その魔法!!」
驚くのも無理はない。
この魔法は氷系魔法最上位にあるため、習得するのには氷系魔法以外を捨て、10年以上歳月をかけなければならないからだ。
ハクアは気を抜いていた。もし、ルカが使った魔法が攻撃魔法だった場合死んでいた。
幸い防御魔法だったからよかったもののさっきよりも警戒をしなければと気を引き締めた。
「これ以外にもある程度の魔法、剣技、武闘を使える」
ありえないと思ったがこれ程の魔法が使えるならありえるのか。
「それで俺は合格か?」
「う、うん」
コクリと頭を縦に振った。
心のどこかでルカがいればと安心しているがまだ心を許してはいけないと再び心に誓った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルカ達は街中を歩いてある場所に向かっていた。
ある場所とは昔お世話になった孤児院である。ハクアは親に捨てられ孤児院に預けられたが、水系魔法に特化していたため魚座の姫君に任命されたのだ。
「てか、なんで着いてくるのさ」
「ダメだったか?」
「ダメでは無いけどさ..なんで着いてくるのかなって」
「契約するにあたってハクアの事を知っておきたいと思ってな」
ルカは様々なことを天秤座の国で学んだ。契約者として十二星座ノ姫君と契約をするのにはアンゼルから貰った紙では情報が足りない。
「そ、そうなんだ。着いてきても面白くないけどね」
そんな事を話していると孤児院についた。門には『紫陽花孤児院』と書かれ、中は広々とした作りで豪華な遊具もあり設備もちゃんとしており子供たちにとっては暇はしなさそうだ。
「あ、ハクア!!」
「ハクア姉ちゃん!!」
ハクアを見つけた途端に目をキラキラさせ走ってくる。
「元気にしてたかー?」
駆け寄ってきた子供たちを抱え頬をスリスリとしていた。和む光景でありずっと見ていられる気がした。
「ねぇねぇ、隣の人はカレシ?」
一人の女の子がルカに興味津々な目で見てくる。
「違う違う。こいつはただの、ただのなんだろう?」
契約者と言ってもまだ歳もいかない子供たちにはわからないであろう。契約者じゃなかったらこいつ(ルカ)は何なんだろうとかんがえていたら。
「俺は婚約者だ」
「は!? え!? ちょっと!! こいつはただの知り合い!!」
「嘘だ。冗談」
だがその嘘は純粋無垢な子供たちは信じてしまう。その嘘のおかげなのかわからないが子供たちの警戒心が解けている気がした。
「ハクア、あの子は?」
ブランコに一人で佇んでいる少女を見てハクアに問う。
「シズクだよ。あの子親に捨てられたショックであまり心を開いてくれないの」
自分の親に捨てられたショックっていうのは言葉にならないくらい大きい。なぜなら、ハクアルカもその気持ちは知っているからだ。
「何してんだ?」
「....みればわかるじゃん」
いきなり話しかけられ困惑した目をしていたが直ぐにさっきと同じ"全てを諦めている目"に戻った。
「あっちで遊ばないのか」
「....遊ばない」
少女はブランコから立ちどこかに走り去っていった。
話す時に必ず間がある。
心を開いていないのがわかる。だが、受け答えはしてくれるみたいだ。
「シズクは、来た時からあんな感じ。だから、時間をかけて心を開いてくれ様に頑張んないと」
「そうか」
ルカも昔はあんな感じだった。
祖母のおかげで普通に会話できるようにはなったが感情が表に出なくなった。常に無表情、そんな感じだ。
自分みたいになってほしくないと思い話しかけたに過ぎない。
「あら、ハクアちゃんじゃないの?」
孤児院から一人の女性が出てきた。
「久しぶり!!ユリア叔母さん」
自分を小さい時から可愛がってくれており、とても信頼している人だ。
「暫く見ない間に大きくなって!! うん? そちらさんは?」
「私の契約者よ」
「ルカと言いますよろしくお願い致します」
まぁまぁと身体をジロジロと見られている。何かおかしいところがあるだろうかと確認するが何も無い。
「貴方随分といい身体してるね」
「そうですかね」
「私はねこう見えて観察眼に優れているの、これぐらいの力があればハクアちゃんを任せられるわ」
がははっと笑っているが横では何か不満げな顔をしているハクアがこちらを睨んでいる。
ハクアの明るい一面はユリア譲りなのだろうか。少し似ている。
「ねぇールカ。遊ぼー」
服を子供たちに引っ張られた。
「遊んで来なよ。私は叔母さんの手伝いあるし」
ハクアにも許可をもらった事だし遊ぶかとそのまま手を引っ張られ連れてかれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遊び疲れた。
子供たちと遊ぶのには結構な体力を使う事を初めて知った。
あれだけ遊んでいてもまだ遊び足りないのか子供たちだけで遊んでいる。
すると、一人の少女が森に入ってのが見えた。シズクだ。
「何してんだ?」
ビクッとシズクの身体が跳ねた。見ると木に向かって何かをしていた様だ。
「魔法? 魔法の練習してんのか」
「....別に」
一向に目を合わせてはくれない。魔法を使い木を倒そうとでもしたのだろうか。下を向きながらルカの横を通ろうとしたが、シズクの肩を掴んだ。
「まぁ、見てろよ」
『突風』
風がシズクの頬を撫でた。
木がこちらに倒れてきて、目をつぶっていると。
『復元』
目を開けるとこちらに倒れてきているはずの木が元に戻っている。
「す、すごい」
「これは風系魔法の基礎だ。シズクは何系魔法を使えるんだ?」
「....水」
先程まではこちらを見てくれたのに目を合わせようとするとすぐに目を背ける。
「俺もまだ魔法は未熟だが、教えてやろうか」
「....いや、いい」
そう言い残し走り去っていってしまった。孤児院に戻るとハクアは帰る支度をして待っていた。
「どこ行ってたのさ」
「シズクと遊んでた」
「ふーん。そっか、シズクが心開いたんだね」
「まだ開いていないさ」
ルカも帰る準備を進めるが、手ぶらで来たため大した準備はない。
2人が孤児院を後にして王宮へと向かう。話すことは無く、沈黙が続いてはいるが苦ではない。
ハクアは一人の男性と肩がぶつかった。フードを深く被っている長身の男性だ。
「あ、すいません!! 大丈夫ですか!?」
「いえいえ、こちらこそすいませんね」
それだけを言うとスタスタと歩いていった。
「あんな人この街に居たかな? 旅行者かな」
フードの男は裏路地へと入り、フードを取る。スーハースーハーと呼吸を荒くし先程ハクアとぶつかった所の匂いを嗅いでいる。
「なんていい匂いなんだ!! あぁ、とても可憐で美しい姿。そしてこの匂い!!最高だ最高だ最高だ」
だが、ハクアの隣を歩いていた男を思うとイライラしギリッと歯を食いしばる。
「あの男、隣を歩いてんじゃねぇよ!! 俺のハクアだ!! 誰にも渡さねぇ。ハクアは俺の血だ」
フードの中は黒いスーツ姿である。興奮をしたからであろうか背中は大きく破け、午の刺繍が大きく彫られていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シズク、また魔法の練習か」
昨日と同じくルカは孤児院へ足を運んでいた。ハクアは別件の仕事があるため一緒には来ていない。
孤児院へ足を運んだ理由としてはシズクが気になるからである。
「....また来たの」
また森の中で魔法の練習をしている。皆に見られるのが嫌だからここで人知れず練習をしているのだ。
「今んとこは暇なんだよ」
十二支がいつ襲ってくるかわからないため、警戒しつつも特段ルカはやることが無いため暇だ。
「....今んとこっていつも暇そうじゃん」
「まぁそう言うな」
昨日会った時よりは警戒をしていない様にも見えるが、まだ完全には心を開いていないだろう。その証拠に目を一切合わせてはくれない。
「水系魔法が使えるんだろ? 目標はやっぱりハクアか?」
「....うん」
水系魔法に特化しているハクアは水系魔法を使える人達にとっては目標となる存在。シズクもその一人だ。
「ハクアに魔法を教えてもらわないのか」
「....ハクアさんは姫君になってからすごく忙しくなってるから」
多忙なのは仕方が無い。庶民だったのがいきなり王族になるのだから。
「そうか。俺は少しは水系魔法は使えるぞ」
「....嘘だ」
シズクに背向けて、魔法を唱える。
『水龍』
巨大な水の龍が現れたが、ルカが指をパチンと鳴らすと消えてしまった。
「水系魔法も使えるの!? あなた何者なの!? 」
シズクがこんなにも驚き、大きい声を出したのは両親に捨てられてから初めてかもしれない。
「俺は他の人より少し特殊なんだ」
「おし......しい」
ゴニョゴニョと小さく話しているがルカには聞こえない。
「なに?」
「私に魔法教えて」
ルカは少し嬉しい気持ちになった。少しでも心を開いてくれたのならこれ程嬉しいことは無い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『水龍』
小さい水の龍が現れた。
この短時間で少しではあるがシズクは成長している。
「よく出来たな」
シズクの頭を無意識に撫でた。警戒されると思っていたがシズクは黙って撫でられていた。
「....もう1回やる」
もう一度魔法を唱えようとした時、後ろから男の声が聞こえた。
「何をしているのかね?」
振り返るとそこには黒いスーツ姿の男が立ち不敵な笑みを浮かべている。ルカはシズクの前に立つ。
「戦うつもりは無いんですよ。ただ挨拶をしにまいりました」
「挨拶だと」
「私はヴァルデック。私の愛するハクアの近くにいた貴方はどれほどの者なのか確認しておきたくて」
深々と頭を下げている。
ここで、戦ってもいいがこちらはシズクが後ろにいるため分が悪い。
相手の力量がわからない以上こちらから攻撃を仕掛けるという無茶なことはしない。
「では私はこれで」
黒いスーツの男は森の中へと消えていった。
「....あの人は誰」
「わからない」
一回王宮へ帰ってハクアに報告した方がいいだろう。シズクを孤児院へ帰した後、王宮へと急いで向かう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「期待は外れだな、あんな者が私
のハクアを護るなんて出来るはずがないやはり私が!!」
ドンッと壁を叩く。叩かれた壁はボロボロと崩れ落ちていく。
「フレイヤさんに言われた通り仕事をしなければならない。でも、 血が欲しい」
『精神支配』
街の人が六人ヴァルデックの元に歩いてきた。目は虚ろだ。精神支配を受けているのだろう。
「少しぐらい頂いても許してはくれるだろう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「っていう事があったんだが。もしかしたら十二支かもしれない」
王宮に着いたルカはさっき起こった事をハクアに報告した。
「狙いは私か」
十二支の狙いは十二星座ノ姫君だけだ。だが、十二星座ノ姫君だけに悪影響を及ぼすとは限らない。
「いや、孤児院も危ないかもしれない」
十二支のメンバーは頭のおかしい者の集まりと聞いている。十二星座ノ姫君の周りを片っ端から落としていくのかもしれないという考えもある。
「孤児院に行ってみた方がいいな」
二人は孤児院へと向かった。
幸い孤児院は無事だったのだが、何かがおかしい。
そう、シズクがいないのだ。
「嘘でしょ!! ルカは森の中を探して!!」
「あぁ、わかった」
ハクアは駆け出した。どこにいるかもわからないシズクを探すために。
『抑止』
ピタッとハクアの身体が動かなくなった。
抑止魔法が使えるハクアは抑止耐性があるはず、なのに、自分に通用するということは魔法を発動した者が自分より上だということ。
「どこ行くッスか」
黒髪の長い髪を後ろで結んでいる女性に話しかけれた。こいつが抑止魔法を使ったのだろう。
黒いドレスの様な格好をしており、チラリと見える胸元が色気を醸し出している。
「何者だお前は!!」
「この国私の連れがいるんッスよね」
話しが通じないようだ。
ハクアの問いには答えようとせず話を続けだす。
「アイツはハクアちゃんの事大好きッスからね。ちょっと心配になって見に来たんッスよ」
何を言っているかさっぱりとハクアには理解ができない。
ただ、一つのわかることはこの女性は自分よりも上。格が違うことだけ。
「それよりも魔法を解け!!早くシズクを探しに行かなければならない。もう遅いかもという最悪な展開が頭をよぎった。
どれだけ動こうとしてもずっと固定されたままだ。
「あー残念ながら動けないッスよ。もう少し話に付き合ってくれてもいいじゃん」
ムフフっと誇っているように笑みを浮かべている。何が面白いんだと苛立ちを覚える。
「それでハクアちゃんって水系魔法が得意なんだっけ? じゃあさじゃあさ雷系魔法の耐性とかってしてるのかな」
『雷影』
身体中に電撃が走る。
雷系魔法耐性はしてあるが、水系魔法に特化したため基礎の雷系魔法しか耐性をかけることが出来ない。
「くっ....うぁぁぁぁーー!!」
「あれれ? 耐性ついてなかったッスか? じゃあもう一度」
魔法を唱えようとしたその時。
『完全なる防御』
防御魔法によって彼女の攻撃は防がれた。だが、彼女は驚いている様子は見えない。
「なんッスか。新キャラ登場ッスか?」
「少しいじめすぎじゃないか?」
一人の半魔族がハクアの前に立ちはだかった。
「ルカ!! シズクは!?」
「森の中にいた、今は孤児院にいる。だから安心しろ」
ルカが森の中へシズクを探しに行ったら、いつも魔法の練習をしている場所にいた。十二支には襲われていなかったようでよかったと心から安堵した。
「何しに来んッスか? 邪魔ッスか?」
まだ彼女は不敵な笑みを浮かべている。全てが計算通りといった様子だ。
「どうせ、戦わないんだろ?」
「よくわかったッスね。ただの挨拶ッスから」
そう言うと彼女の背中から黒い大きな翼が出てきた。彼女は空高く舞い上がった。
「色々と楽しませてくれよお前ら」
先程とは違うドスの効いた低い声で彼女は言う。月明かりに照らされた彼女は暗黒の天使の様にも見えた。
彼女が消えるとハクアは自由に動けるようになったため魔法が消えたことがわかる。
「なんだったんだアイツ」
「わからない。けど、助けてくれてありが..とう」
恥ずかしそうに頬を赤くしながらもハクアは言った。
「いや、大した事はしてない。無事でよかった」
少しでも間に合わなかったらハクアの命が危なかった。これで少しは自分に心を許してくれたらいいが。
「もう疲れてるだろうから王宮へ行くぞ」
「え? ルカはどうするの?」
「....俺は少し用事がある」
その後はハクアは何も聞かなかった。ハクアが心配だったので王宮まで送る。
「ここまででいいよ」
「そうか? 部屋まで送ってくけど」
「ううん、大丈夫」
会った時よりは断然丸くなった気がする。警戒心が無くなってきているということであろう。
「ルカ」
「どした」
「ありがとう。気をつけてね」
ハクアは軽く微笑んで王宮に戻っていった。
ハクアの微笑んだ姿は月明かりに映えとても美しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「来ましたね、泥棒男」
黒いスーツの男がつま先を床に当ててコツンと音を鳴らす。スーツの男は中肉中背で髪は長くもなく短くもない黒髪である。
「1体1を要求するなんてな」
「愛するハクアのためですので、仕方ないかと」
ハクアに言ったことに嘘がある。シズクは森の中にいたが、シズクの近くにはヴァルデックがいたのだ。そう、攫われたのである。
シズクを返す代わりにルカとの1体1を要求され、それを承諾した。
ハクアを愛しているヴァルデックは近くにいるこの男が許せないのだ。
「貴方は絶対に殺します!! その後ハクアを戴くとしましょう」
「それが出来ればいいな」
「何を上から」
不敵な笑みを浮かべていたが笑みが消え、チッと舌打ちをした。
『精神支配』
街の人を精神支配した時と同じ魔法を使う。実力があっても精神支配魔法はかかる。一部を除いて。
「貴方は何者ですか」
「ただの契約者」
精神支配魔法は十二星座ノ姫君に通用しない。なぜなら、星座の加護で護られているからだ。契約者でも精神支配魔法はかかる。
だが、ルカは天秤座の加護で護られていたので、ルカには通用はしない。
「契約者。そうですか、何かの加護で護られているいるようだな」
『神主の矢』
ルカの頭上に多数の矢が飛んできた。当たったようにも見えたが、1本もルカには当たらない。
「なぜだ!! なぜ当たらない!!」
『神速』
「遅いんじゃないか」
矢の全てを避けたのだ。神をも凌駕する技をあっさりと避けられ口調が荒くなる。
「ま、まぁ。これぐらいは予測しているさ」
「遠距離だけじゃなく近距離で攻めてこいよ」
「そうしましょうか」
『馬龍転生』
ヴァルデックの姿は午というよりももっと異質な姿であり、戌のファングよりも異質である。
今まで見てきた者よりもヴァルデックは速い。足にはヴァルデック自身も自信がある。
「なぜ当たらないのだ!!」
どんな異質な姿になろうが、足が速かろうがルカに攻撃は一切当たらない。
「こんなんでハクアを護ろうとしてんのか」
後ろに少し後退し、溜息をつく。
「弱いな、お前」
言葉を投げ捨てるように放った。
「この私が弱い?」
「あぁ、弱い」
異質な姿のまま靴のつま先を床にカツカツと強めに当て音を鳴らす。ヴァルデックのこの行為はただの癖だ。
「私のどこを見て弱いと?」
「ただ単に力が無い。それだけだ」
ルカの言葉は未だに理解できていない。むしろ、理解するつもりも毛頭ない。
『馬蹴』
高く上げられた足が下ろされ、斬撃がルカを襲う。
『水流壁』
水の壁が斬撃を防いだ。
「 愛するハクアと同じ魔法を使うな!!」
使うなと言われてもルカは色々な系統の魔法が使える。全てはユウリのお陰なのだが。
「愛するハクアと同じ魔法に防がれてんじゃねぇよ」
「くそが」と呟き襲いかかってきたがピタリと動きが止まった。
「 アリアステリア」
上空には漆黒の天使の姿がそこにはあった。彼女はさっきルカと会っている。
「ヴァルデックってこんな弱かったッスか?」
後ろで結んでいた長くて美しい黒髪を解きながら彼女ーーアリアステリアは笑っている。
「ちょっと期待はずれ」
またしても声色が変わり、目線だけをルカに向けた。
「彼に負けそうになるなんて思ってもいなかったッスよ」
アリアステリアはこの事も全てが予測済みであるだろう。その証拠に一切笑みを崩さない。
「まぁ私は見てるだけなんッスけどね」
ヴァルデックに加勢する訳でもないらしい。アリアステリアはただの傍観者にしか過ぎない。
アリアステリアは制御魔法を解除すると、ヴァルデックは身体の自由を取り戻した。
「そうか。そうだよな」
確かにヴァルデックは強い。十二星座ノ姫君と渡り合える力はある。戌のファングにも同じことが言える。
彼らは強いが十二支の中では最弱。十二支は頭のおかしい集団だは彼らははまだマシ、いや、断然マシの部類だ。
ふぅとヴァルデックは息を吐いて落ち着く。
「おい、契約者」
先程の荒れた口調とは全く違う落ち着いた口調で話しかけられる。
「取り乱してすまなかった」
敵であるルカに対して頭を下げる行為に少しながら困惑した。
アリアステリアとの少しのやりとりでヴァルデックはどこか変わった気がする。
『馬神武』
異質な姿ではなかった。あれを俗に言う麒麟。美しい姿である。
その姿のままヴァルデックはルカに攻撃を仕掛ける。
だが、攻撃はルカに当たる気配がない。
『氷結凍結』
氷の塊がヴァルデックを包み込んだ。
「フレイヤさんと同じ技ですか。皮肉なもんですね。最後に聞いていいですか? 契約者」
「あぁ」
ヴァルデックの肩までは氷が包んでいる、全てが包終わるまでは時間の問題だ。
抵抗はしない。というか出来ないのだ。
「ハクアは振り向いてくたのだろうか」
「....無理だろうな」
「残念だな」
そう言い残しヴァルデックは氷に包まれていった。
「死んじゃったッスか。残念」
この事を予測していた通りといった様子でこちらを見ていた。
「まぁ仕方ないッスよね」
氷の塊の近くに降り立ち、目をつぶって合掌する。
「....こいつ私のこと好きだったんッスよ」
氷の塊を触りながらアリアステリアは語り出す。
仲間を亡くなる事に少し悔いている様子でズキッと心が痛む。
「ハクアちゃんに会うまでずっとこいつは私に告ってきたんッス。まぁ振り続けてるんッスけどね」
「そうか、悪かったな」
「戦いなんだから仕方ないッスよ」
氷から手を離しこちらに向き直る。その目に少し涙が流れていた。
「やっぱり死ぬのってキツイね」
その姿にルカは驚愕した。
意外だと。十二支は頭のおかしい連中だと聞いたがアリアステリアは仲間の死に涙を流す様な人だ。
「本当にしょうがないッスよ。十二支になった時点でこういうのは覚悟してるッスからね」
アリアステリアは微笑んでいる。
微笑みんでいる姿はアリアステリアの綺麗な顔立ちをもっと際立たせる。
「変なとこ見したッスね」
黒い大きな翼がバサバサと音を立ててアリアステリアは空高く飛んで去っていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦いがあった翌日。
ヴァルデックの死体は無くなっていたため何者かが回収したのであろう。
ルカは王宮で用意してくれた部屋で大して疲れてはいないが疲れを癒し部屋を出るとハクアが走ってきた。
「ルカ!! 大丈夫だった!?」
「あぁ」
昨夜の事はハクアには言ってはない。用事があるとだけ伝えただけだがハクアはもうこの事は知っているだろう。
「よかったぁー」
心底安心したようで抱きつかれる。天秤座の国でもそうだが女性に抱きつかれるというのはなかなか慣れない。
ハクアは最初会った時よりも確実に心を許している。その証拠に名前呼びになっている。抱きつくという行為も前ならしなかった。
「心配させて悪かった」
「ううん。無事でよかったよ!!」
天真爛漫な笑顔がそこにはあった。ハクアは笑っただけでもこんなにも絵になる。
「契約のことだけどさ、契約していいよ?」
そう言うとハクアは手を合わせ祈りを捧げ、目を閉じた。
「魚座の加護は貴方を救うことを願います。あなたが困難な道に進もうといつでも魚座の加護がお守りするでしょう」
蒼白い光がルカを包んだ、身体中が少し暖かくなっている気がした。祈りが終わると目を開ける。
「これで契約は以上」
契約が終わったのならば次なる国を目指さなければならない。
「ここから近い国はどこだ?」
「獅子座の国が近いよ」
獅子座の国か。
ハクアが言う獅子座の国の姫君は戦いを好んでいるらしい。戦いが好きすぎて十二星座ノ姫君にもよく挑んでくる。
「ルカなら大丈夫そうだけどね」
肩をバシバシと叩かれる。
最初に会った時も叩かれた記憶があるため少し懐かしい感じがする。
「馬車貸そうか?」
「いや、大丈夫だ。速度魔法をかければすぐに着く」
国と国の間は離れているため2、3日はかかるがルカの速度魔法があれば大して時間はかからないで済む。それに、急がないと十二星座ノ姫君が十二支に襲われてしまう。
「また、来てくれるか?」
「あぁ。必ず来る」
微笑みながら言われたため、無意識に微笑み返してしまう。
あまり表情が変わることがないため自分でも驚いた。この世界に来て何か自分が変わった気がする。
別れの挨拶を済まし、準備を進め国を出た。次なる国『獅子座の国』を目指すために。




