入学式と美少女とイケメンと腐女子と。なにそれカオス
季節は春。
高校の入学式で、うとうとしながら壇上をみつめていた俺、湖賀一樹はこれから始まってほしいと願う、甘酸っぱい恋と青春の妄想に胸を膨らませていた。
やっと校長の話が終わったかと思えば、次は新入生挨拶。
どうせ、入試で一番だったやつがお決まりの文を並べるだけだろう。
ああ、だるい。面倒くさい。
「新入生代表、荻野風吹!」
教頭の声と同時に舞台に上がったその女子はまるで女神のような、神々しい容姿を持ったひと。
腰まで伸ばした黒髪、白い肌、儚げな瞳。全てが俺の目を惹きつけた。
俺はさっきまでのだるさも忘れて壇上を見つめた。
周りの奴らも、彼女をみて感嘆の息を吐き出す。
皆の視線が集まる中、マイクの前に立った彼女はゆっくり、優雅に喋りだした。
「この春の麗らかな日差しの見守る中、こうして、新しい仲間と共に入学式を迎えることができ、 とても嬉しく思います。
私は、この高校生活の中で・・・____ 」
なんだ、やっぱりお決まりの、決められた台詞を読んでいるだけの優等生か。
容姿だけをみて彼女に何か期待してしまっていた自分が恥ずかしくなる。
「 ____・・・今日という日を迎えることができましたのは、今まで支えてくれた保護者の皆様のお陰と深く感謝しております。本当に、ありがとうございました。
新入生代表、荻野風吹。」
ぱちぱちと鳴り響く拍手。
彼女はそれに微笑すると、来た時と同じように優雅な動作で壇上を降りた。
彼女とは多分関わらないだろうなと思った。
住む世界が違う、そう感じさせるひとだった。
そう思っていた。
・・・なのに。
(うわ、同じクラスかよ。しかも隣・・・)
最悪だ。目立つ子の隣の席とか。
なんて面倒くさい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「いいよなあ、荻野さんの隣! 」
仲良くなったクラスメートの西田冬也が囁いてきた。
ぶっちゃけこのクラスは顔面偏差値が高い。
でもその中でも特に顔が良いのが西田。
本人曰く、取り柄は顔だけ。うん、そうだな西田。俺もそう思う。お前は残念なイケメンだ。
「美人の隣って、面倒くさくない? 」
野郎どもに恨まれそうで怖い、と答えると、西田はでも男のロマンだよね! 隣の席! とニヤニヤした。
「大切なのは顔じゃないだろ。」
まあ顔も! 必要だとは思うけど!
「そんなこと言っちゃって〜!
本心としてはどうなの?
学年一の美人の隣だよ?
授業中に消しゴムなんか落としちゃって、天使の笑顔つきで拾ってもらったりなんかしたらもう!
それで消しゴム返してもらう時に手が重なっちゃったりなんかしたらもう!
落ちるよね〜!
ピュアな一樹少年は恋に落ちるよね! 」
「あれ、俺喧嘩売られてる? 」
荻野風吹という名前の彼女は、知れば知る程、完璧な優等生だった。
性格は良く、気配りもでき、少しお茶目な所もある。
そして頭脳明晰、誰もが息をするのを忘れてしまうような容姿。
男の俺でも、神様はなんて不公平なんだと思う。
「そういえば、まだ入学から一週間なのにファンクラブまでできたんだろ?
すごいよな。」
少し前に他の奴らが話していたのを思い出して、そう言ってみると、西田は顔をキラキラさせた。
・・・西田、クラスの人達みんなこっちみてるから。あの窓際の女子なんてお前のイケメンフェイス拝んでるぞ。
「一樹君も入る? 」
何が、とはファンクラブの事だろう。
・・・ん? 一樹君 "も"?
いや、でもこいつにかぎって、ファンクラブとか・・・
思わず西田を二度見して、にんまりした西田と目が合う。
ああ、やっぱりこいつそういうの入りそう!
「お前まさか、」
「ふふふ、よくわかったね。」
「・・・」
まさか、ファンクラブに入るようなやつだったとは。
・・・俺の中で西田のイメージが崩れていく。
「そう、僕こそが、荻野風吹ファンクラブ会長! 西田冬也だ! 」
「・・・は? 」
西田冬也は思ってた以上に残念なイケメンだった。
お願いだから、神様からのプレゼントであるイケメンフェイスを無駄にすんな、西田。
俺はこんなやつをイケメンにした神様を哀れみながら、西田の肩を叩いた。
西田を拝んでいた窓際の女子から悲鳴があがる。
イケメン西田に俺みたいな平凡男子高校生が近づいたのがそんなに嫌だったの!?
泣きそうになりながら西田から五メートルくらい離れてみると、窓際の彼女に今度はため息をつかれた。・・・どういうことだってばよ。
女子への恐怖で顔面崩壊していたであろう俺に西田は言った。
「一樹君、腐ってるやつだからあれ。
気にしたら負けなやつだから。」
腐ってる!?
「俺が不潔だって言いたいの!? 」
「いや、そっちの腐ってるじゃない・・・」
「じゃあなんの話だよ、俺もう泣きそう」
「一樹君、見かけによらず純粋・・・?」
だからなんの話!?と言って机に突っ伏した俺の頭を西田の手がどんまい、と撫でる。
・・・また窓際から悲鳴が上がった。




