5.見合い話
本日二話同時更新です。
「とにかく、責任取ってください」
「……なんでそうなる」
一階の食事処で朝飯を食いながら、俺は頭を抱えていた。
雛原は八時にちゃんと起こしてくれたし、襲われたような形跡もない。あのまま諦めたんだろうと思っていたんだが。
「……先輩の責任なんですからっ」
顔を真っ赤にしながら雛原はだし巻き卵にぱくつく。
俺は何もしてないはずなんだが。なんで雛原の見合いに俺がついてって親を説得せにゃならんのだ。
というか、娘が男連れて現れた時点で婿確定じゃねえの。そんな罠に自らかかりに行くバカがいるかよ。
「俺がお前を抱いたからってそれでぶち壊せる見合いでもねえだろ」
「っ……だって、それで諦めようと……諦められると、思ってたんですからっ……鉄先輩のこと」
「馬鹿」
「……傷心の乙女にひどいです」
ぐすぐす泣き始めた雛原に、俺は額に手をやった。
これはまずい。思ったよりこじらせてやがる。
……なんで俺なんだ? 大して接点はなかったはずだ。婚約者がいるってのは聞いてたし、必要以上の接触はしないようにしてた。
前の席に座ってるって言っても、モニターが邪魔で顔が見えるわけじゃない。仕事で直接何か指導したこともない。
なのに、どうして俺なんだ?
「と、とにかくっ、明日ついてきてください」
このままだといつまでもこいつに付きまとわれかねない。それだけは御免だ。
妹の寮訪問してあの美人さんと仲良くなって口説き落として……。
「お前の田舎ってどこだったっけ」
雛原は山陰地方のとある村の名前を口にした。
「わかった。……まあ、特急で行けるか。今日のうちに移動するのはアリか?」
「えっ……ほんとに来てくれるんですか……?」
「……来いと言ったのはお前だろ。但し、見合い自体はきちんと出ろ。俺は今日のうちに移動する。明日の見合いはどこでするんだ?」
「えっと、E駅の駅前のホテルで……」
スマートフォンで駅前を検索する。参院ではそれなりに大きな町らしく、いくつかビジネスホテルがある。
「んじゃ、明日お前が乗る列車の便と時間、教えといてくれ。で、見合いが終わったら俺に電話しろ」
「あの……先輩」
「ん?」
顔を上げると、雛原は茶碗と橋をテーブルに置いて俺の方を目を丸くして見つめていた。
「なんで……わたしの頼み、聞いてくれるんですか……?」
俺はしばらく雛原の顔を眺めて、ため息をついた。
「お前が後輩だから、かな」
その答えはお気に召さなかったようだ。唇を尖らせて食事を再開する雛原に、俺はもう一度ため息をついた。