表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

2.雛原

本日三話同時公開しています。

「1.鉄」をお読みでない場合はそちらからお読みください。

 仕事は面白いし、給料も悪くない。

 大阪の中心地と言って差し支えない場所で働けるとは正直思っていなかった。

 人の姿を持って十八年。修行で大阪に来て六年目、就職して今年で三年目だ。

 会社は忙しすぎることもなければ暇なわけでもない。基本的には自社オリジナルのソフトウェアを作ってるから、厳しい納期が設定されていない。カスタマイズ部門の奴らはクライアントに納品する期日があるから連日徹夜ってことも少なくないが、幸い俺は次期バージョンの開発部門だからそれほど遅くならなくて済む。


「お先に」


 おつかれーと声をかけられて事務所の扉を開けたところに雛原が立っていた。顎のラインでバッサリ斬られたふわふわの茶髪が顎の下に見える。


「おっと、悪い」

「いいえ」


 扉を大きく開けて雛原は俺が通るのを待ってくれた。


「なあ。……今日暇?」


 事務所に入りかけた雛原に声をかける。

 たぶん、単なる気まぐれだった。と思う。

 驚いたように顔を上げた雛原は、目を丸くしていた。

 が、その表情に困惑の色を見て取って、俺は背を向ける。


「悪ぃ。……じゃ」


 ぱたん、と事務所の扉が閉じた。

 なんで誘ったのか。本当にはずみだったとしか思えない。

 エレベーターまでの廊下を頭をかきながら歩いていると。


「あのっ」


 事務所の扉に吸い込まれたはずの雛原の声が聞こえた。

 足を止めてゆっくり振り向くと、手に持ったステンレスマグをじっと見つめる雛原が立っていた。


「……五分待ってください」

「ああ」


 ぱたぱたと扉に足音が消えていく。

 再び扉が開くまで、俺はその場に釘づけになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ