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1.鉄

本日三話同時公開しています。

「テツ、この間言ってたヤツ、どんな感じ?」


 三十二インチ液晶モニターの向こうから上司である片野の声が飛ぶ。

 俺はキーボードの手を止めて顔を上げた。

 高校球児みたいな刈り上げ頭が半分だけ見える。


「こないだのって、どれですか」


 上司と言いながら俺よりは年下の片野だが、仕事上では一応敬語を使うことにしている。

 幼馴染でも、そこはけじめをつけるべきだと俺は思っているのだが、ヤツの方はどうも座りが悪いらしく、嫌そうに顔を上げた。視線がようやく合う。でも、俺がそのルールを変えないのもわかってるから、眉間にしわを寄せるだけで文句は口にしなかった。


「開発に使ってるツールの新しいプラグインが公開されたって言ってたろ。使ってみるって言ってなかったか?」

「ああ、あれですか」


 片野と先週話したあれこれを思い浮かべてはいたが、それは欠片も思い出していなかった。


「あれはまだダメですね。二バイト文字への対応ができてないから、漢字放り込んだら文字化けしました」

「ちぇ、マジかよ。今時中国語への対応は必須だろう?」


 往々にして、欧米で作られるこういった開発ツールやプラグイン、モジュールは、英語圏で使われることを想定してる。

 小さなソフトハウスや個人が開発したソフトなんかは日本語や中国語など、二バイト文字への対応はよほど利用者が増えてマネタイズできなければやってくれない。

 まあ、最近は中国の開発者が増えたおかげで、大手ソフトハウスのリリースするソフトは、最初から中国語対応されてるのが増えた。

 そのついでで日本語や韓国語対応もしてくれることが多いのだが。


「ですよね」

「で、もう一つの方は?」


 ヤツの言葉に俺は首をかしげる。はて、他に使ってみると言ってたプラグインなんてあったか?

すると片野はニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。


「合コン、行ったんだろ? お持ち帰りしたって聞いたぞ」

「……は?」

「え? 違うのか? 酒井がギャンギャン騒いでたけど」

「酒井が?」


 話題の人物の席を見る。が、今日は確か休みを取っていた。


「それ、いつのことです?」

「先週だったか。なんかお持ち帰りしたら、彼女と鉢合わせして修羅場ってたってきいた」


 修羅場? 少なくとも俺は合コンには行ってねえし、ましてやお持ち帰りなどしていない。

 それに、彼女もいない。

 誰かと間違えてるんじゃないのか?


「身に覚えがないんですが」

「またまたー」


 にやにやと俺を見つめる片野に俺はため息をつく。


「知らないのは本人だけってヤツだよな。お前さあ……」

「そういう話は終業後か休憩にしてもらえませんかねえ」


 片野の声をぶった切って広くないオフィスに女の声が響き渡る。

 俺の向かいに座っている事務所の紅一点、雛原ひなはらほのかだ。モニターの向こう側だから顔は見えないが、声から怒っている、というか不快に思っているのがありありとわかる。


「えー、これくらい……」

「すみません」

「……テツの裏切り者〜」


 片野が唇を尖らせるが、俺はさっさと謝罪する。彼女の言い分はわかるしもっともなことだ。

 就業時間中のオフィスて、しかもデカイ声でする話でないのは事実だ。

 まだ片野はブツブツ言っていたが、俺は仕事に集中することにした。

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