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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

TSっぽいの短編

作者: ロベリア
掲載日:2016/05/28


 一人の少女が、学校の図書館でチーズとワインを片手に悩んでいた。


「何を書こうか……」


 飛び級で卒業した彼女は、実績作りのための書物を作成しなければならなかった。

 というのも、元男の転生者であり、女の身でありながら男らしく振舞う姿が、疎ましく思われているためである。

 前世の知識を元に解明していけば、それこそ天地が引っくり返る程の内容と量を提出できるが、しかしそれはできない。

 なので適度に普通の人ができず、且つ世界を混乱させない程度のことを書かなくてはならなかった。


「めんどくせぇ……」


 本当は実績なんていくらでもあるのだが、公の場で公表するのを用意しろとのことなので、面倒極まりない。

 もうどれだけの間悩み続けただろうか。少なくとも数日はろくに寝られていない。


「くそ! あれもこれも危険すぎて発表できん。いっそのこと神の電波を受信する魔法でも開発してやろうか」

「ね、ねぇ……!」


 ぐるぐると同じ問題に追われたため、だいぶ頭が煮え立ち始めたそんな時、一人の少女が新たに入ってきた。


「あん?」

「こんにちはレージュさん」

「……こんにちは、ナウステル・ダーダルド様」


 ナウステルと呼ばれた少女は、意外そうな顔をした。


「私のことを知っておいでなのね」

「位の高い人を全て覚えるのは、貴族の常識だろ」

「常識に当てはまらない人が仰っても、説得力が無いわ」


 確かにと呟き、レージュは不敵に笑った。

 転生者であるレージュは貴族であるが、目の前にいるナウステルのほうがより爵位が高い。

 そのためレージュは最上級の敬意を払わなくてはならないが、その素振りすら見せずにいる。

 椅子に座ったままだったり、喋り方だったり、本来なら不敬罪で殺されてもおかしくない。


「それで、俺に何の用で?」


 目の前の問題から一旦離れ、気分転換にでもとナウステルに訊ねた。


「えーと、その、貴女にお話しがありまして……」


 しかし当の本人は歯切れが悪い。

 レージュの記憶では、彼女はいつも堂々としていた。どうにも喋りにくい内容のようで、目線もさ迷わせてもじもじしている。


「なるほど、残念だがお前のパンツを盗ったのは俺じゃない。探すなら情報通のヨースティミスあたりに聞くんだな」

「盗られてないわよ! それに下着を盗まれた程度で神様に尋ねられないわ!」

「じゃあなんだ? 薬の材料で処女の経血が必要なのか? それも悪いが既に自分の指で開通済みだ。他を当たるんだな」

「それも違うわよ! トイレに行きたい訳でも、そのワインが欲しい訳でもないわ!」


 強く否定し、レージュの目線から次に言いそうなことを潰した彼女は、一息吐いた後リラックスしたように切り出した。


「あーもぅ、貴女に縁談があって来たのよ」

「縁談だと……?」


 貴族の世界はほぼ全て政略結婚だ。そのため縁談自体は珍しくないのだが、レージュはその全てを断ってきている。

 幾つかあるレージュの噂話の一つにもある程だ。彼女が知っていない筈がない。


「お前も知っているだろう。俺は全ての縁談を断ってきた。それとも地位で脅せば頷くと思ったのか?

 残念ながら否だ。俺は男と結婚するつもりはない」

「ええ、知っているわ。それで……その……」


 再び目線がさ迷い始める。その仕草にレージュはまさかと思い、次の言葉を待った。


「縁談の相手は、私なの」

「あー、なるほど」


 今度はレージュが言いよどむ番だった。

 普段の言動や、縁談の断り方から、女性が来るかもしれないと期待はしていた。

 実際、断ってきていた一番の原因は相手が男だったからだ。

 迷ったレージュはワインを口にする。


「……すぐに断らないのね」

「赤ワインが欲しいのに、白ワイン出されたら誰だって断るだろ?」

「今回はどうかしら? ブドウの品種自体は悪くないと思うのだけれど」

「悪くないどころか、勿体無いぐらいだ。俺じゃなく、目上の奴に飲ませたほうがいいと思うぐらいな」


 ここで気づかれないように、レージュは魔法を使った。

 細部までは分からないが、大雑把に嘘かどうか分かるという魔法である。


「簡単な理由よ」

「ほう、どんな理由だ」

「……貴女が好きだからよ」


 ポロっと、手に持っていたチーズを落としてしまった。

 茫然自失の見本と言わんばかりに、反応らしい反応が無い。


「な、何か言いなさいよ」

「あ、いや、そうか、うん……」

「そんな哀れみな目で見ないで! 違うわよ! 貴女と違って女性を好きなんじゃないわ!」


 言外に『レージュだから好きだ』と言っているのを、ナウステルは理解しているのだろうか

 そして魔法による真偽の判定は、まごうことなき真。一片の嘘も吐いていなかった。


 レージュにとって、世界の全てが敵だった。

 家族、従者、大人、同級生――目に映る全てが、自分を否定してきた。女のくせにと。

 そしていつしか、自分で自分を否定するようにもなった。どうして男に生まれてこなかったのかと。

 故にナウステルの肯定が、レージュにとって涙が流れる程の喜びとなった。


 しかし悲しいかな。今までの弱みを見せず敵対するかのような生き方のせいで、どう表現をすればいいのか分からない。


「それで、どうかしら。縁談を受けてくださるの? 断るの?」

「喜んで受けさせてもらう」


 レージュは彼女の手を取り、親愛を示すように軽く指先に口付けをした。

 その仕草にナウステルは耳まで真っ赤に染まる。

 これぐらいのこと、社交界などで数え切れない程されてきただろう。しかし恥ずかしがる初々しい姿に、レージュへの想いが垣間見え、そのことを嬉しく思った。


「貴女の笑ったところ、初めて拝見したわ」


 無意識に笑っていたらしい。口元に手を当ててみれば、確かに笑っていた。


「そういえば、最後に笑ったのはいつだったかな。もう覚えてねえや」


 笑うどころか、感情を動かすのさえ久しぶりな気がする。

 全員から否定されていたレージュは常に気を張っており、心休まるときがなかったからだ。


「そうだ」


 レージュはあることを閃く。そしてそれは素晴らしいことのように思えた。


「どうしましたの?」

「今度発表する内容を思いついたんだ」

「ああ、特例を認めるために、国益になることを提出するというものでしたわね。

 実績があるから特例の申請をしているのに、酷い話ですわ。

 それで、どんなことをお書きになられるのかしら?」


 レージュは薄く微笑んだ。重圧から開放されたような表情である。

 もう世界がどうなろうと知ったことではない。彼女さえ肯定してくれるなら、どうでもよくなった。

 そんな思いのもと、晴れ晴れとした顔で言った。


「女同士で子供を作る方法」



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