ピカ子、その愛
おひさまは、今日もにっこりと微笑んでいる。けれど、ピカ子の心はどんよりと曇っていた。
「なんて、憎たらしいおひさまなの」
ピカ子は、おひさまを見上げながら呟いた。
おひさまには、ピカ子の声など聞こえはしない。尚も満面の笑みで、ピカ子を照らし続けている。
ピカ子が旅に出てから、もう幾日が過ぎたことだろう。それ以来ずっと、ピカ子の心は曇ったままだ。
曇った心でおひさまを見上げたピカ子は、ふいに目眩を起こした。目の前がゆらりと揺れて、まるで陽炎の中にいるような錯覚にとらわれた。気が遠くなるようにさえ思えた。
そのとき、その陽炎の中に突然、見慣れた顔を見た。それも笑っている。
「ボクだわ……」
ピカ子は思った。
ピカ子が見たボクの笑顔は、あの日のまま、変わらない。そしてピカ子は、胸が悪くなるのを感じた。
「どうして、ここにいるの?」
ピカ子がそう問いかけたとき、陽炎に浮かぶボクの笑顔は、一瞬にして掻き消されてしまった。
夢を見たのかとピカ子は思った。
ボクの笑顔が幻であることは言うまでもない。だが、ピカ子は旅立っても尚、ボクのことを忘れることができないでいたのだ。
「もうイヤだわ……」
ピカ子は呟いた。
行けども行けども、変わらぬ景色。ピカ子の心も、それと同じだ。ただ同じ処を回り続けている気がした。
そのとき突然、辺りの景色が大きく揺れ、ピカ子の体が、ふわりと宙に浮いた。
目の前に、巨大なボクの顔がある。そして、ボクの声が響いた。
「ハムスターのゲージ、ベランダに出したままだった。こんなところでカラカラ回って、よく平気だね」
ピカ子には、ぼくの言葉の意味が理解できなかった。
「エサの時間だよ」
その響きだけは、とって心地よかった。
ピカ子は旅を止め、ゲージと言われる柵にかじりついた。それは、さっきまでの憂いとは裏腹に、生きようとする本能だけの行動だった。