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走り出す  作者: 美濃部
7/7

文化祭

夏休みは終わり、二学期が始まった。去年の経験から学び、自分から文化祭の手伝いをした。発表があるまでの1週間は新しい小説を書く気になれない。だから手伝いはちょうどいい。放課後はユウヤと共に会議室に行った。去年も見た先輩達に加え、1年生の姿も見られた。そして手伝いを終えてると、達成感をともに味わった。

明日から文化祭が始まる。小説大賞は既に決まっていると分かっていても、祈らずにはいられない。取りたい。だけど僕だけじゃない。サヤさんも先輩達も、みんな取りたいんだ。1年間の頑張りが報われて、念願の大賞が取れる日を何度も夢見た。それが叶うかもしれない。大賞の近くまで来た。あとは掴むだけだ。受賞を祈って僕は電気を消した。

1日目は去年と同じように調理係になった。出し物はフライドポテトなので、またしてもユウヤのソースが活躍した。今年はローテーションがあったので休むことができた。テントにいると、ユウヤが来て話しかけた。

「コウタ、ちょっと来てくれねーか」

焦っているのが伝わった。

「どうした」

「今から美術部が部活対抗早食いリレーに出るんだが、先輩が腹痛で出れないって言うんだ。補充メンバーもいないし、お前が出てくれねぇか、」

ユウヤが懇願した。

「ステージでやるのか?恥ずかしすぎるだろ」

「大丈夫だ、食べるだけで全然目立たないから」

「ホントかよ。それなら出るよ」

僕はあっさりと承諾した。

さっそく舞台裏に行くと、運動部の人達が見えた。ガタイが大きく、早食いも強そう。一方で美術部は小さくて、こじんまりして食べるのが遅そうだ。なぜ出ようと思ったのか、イマイチ分からない。そして何故か、美術部じゃない僕がアンカーになっていた。運動部が食べ終わった後、面白いことも何もなく一人で食べて、会場が白ける様子が見えた。ユウヤは俺を不登校にしたいのか。

「おいユウヤ、どういうことだ」

荒々しい口調で言った。

「まかせとけ。勝算はある。お前はとにかくスピーディーに食べれば良い。急いで食べる必要はない」

「本当にそれだけでいいのか?」

「ああ、大丈夫だ」

不安でいっぱいだったが、すぐにステージに行った。ステージに立つと、視線は一気に運動部に集まった。ヤジがよく飛んでいる。美術部は本当に目立っていない。そこにいないかのように誰も見ないので、僕としては助かった。

第一走者は、ムキムキの坊主や、身長が高くほりの深い男など、身体の大きな人が並ぶ。ユウヤは小さく見える。そして、食べ物が出てきた。食べにくそうな物ばかりで、気分が萎えた。

「それでは始めます」

司会者の声でみんなが気合いを入れる。

「よーい、 ドン!」

始まった。運動部の連中は大きなオニギリをいきなり口の中に放り込んだ。半分以上が口の中に入ったまま むさぼり始めた。ユウヤはネズミのように少しずつ食べていく。運動部が優勢かと思ったが、かなりスピードが落ちている。中で何かが詰まっている。観客はゲラゲラ笑っているが、表情は苦しい。思うように食べられないまま、美術部はバトンタッチして、急がば回れ戦法で着実に食べ終えていく。そのまま1位で僕に回ってきた。目の前には緑色の食べ物があったが、かまわず口にした。甘さと辛さがマイナスに調和して不味かったが、とにかく無心で食べた。気がつくと優勝していた。運動部が食べ終えるのを待ち、苦笑いと拍手に包まれて僕たちは退場した。

「やったー。優勝だぁ。良かった良かった」

ユウヤは嬉しそうに言った。

「ホントに勝つなんて思わなかったよ」

「俺も優勝するとは思わなかった。三年生で賭けをしてるって聞いたから、がつがつ食べると思ってさ。生徒会の友達に頼んで中に餅いれてもらったんだ」

「それで口が詰まってたのか」

「そういうことさ。予想以上の効果があったね」

ユウヤはなかなかの悪だ。これが江戸時代なら、お主も悪よのう、とか言われてる。

「明日が発表か」

ユウヤが突然言った。一応気にしているのか。

「ああ」

「きっと受賞してるよ」

「そうだと良いんだがな」

受賞したい。切実に。

「サヤさんが」

「おい。俺じゃないのか」

コウタは激怒した。

「冗談だよ。ところで明日は用紙を探すんだろ?」

「もちろん。自分で自分の名前を見つけるよ」

「よしっ、その意気だ」



今日は寝れない。緊張する。胸がバクバクする。こんなに緊張するのは初めてだ。寝れないので適当に本を取った。それはあの恋愛小説だった。表紙を見て初めてサヤさんにあった日を思い出す。主人公のように彼女にアプローチしたかったけど、結局サヤさんに何もできないままで、話すらしていない。何やってんだ僕……。だけどライバルにはなったかな。あの日もタクミが本を読んでいたなぁ。あの時はタクミのことが嫌いだったのに、今ではタクミに心を開き、尊敬して師事している。本を読んで過ごすだけで充分だと思っていた。けれど、小説を書いて、悔しい思いをして、かつて嫌いだったタクミから学んで打ち込んだ。今の僕には、気にかけてくれる友達も、師匠も、ライバルもいる。こんなにも充実している。回想していると眠たくなった。 神様……お願い。

差し込む日差しが体に当たって、僕は目を覚ました。カーテンが少し開いていた。残りのカーテンを開けると雲一つない朝焼け。扉を開けて家を出た。

文化祭二日目が始まった。僕はユウヤと共に新校舎へ向かった。

「よしっ、なんとしてでも見つけてやる」

「そうだな、そして賞品は俺がもらう。完璧じゃん」

新校舎を探していると、近くで声が聞こえた。どうやら見つかったみたい。僕とユウヤは三階に上がったがここでも歓喜の声が聞こえた。しがなく旧校舎へ移動する。

もうすでに4枚見つかっていた。今回ばかりは自分で見つけたかった。

旧校舎の三階に行くと、タクミとサヤさんが用紙を探していた。僕はすぐに声をかけた。

「タクミも探してるのか」

「そうだよ。僕も気になるんだ。二人のうちどちらかが大賞を取ると思うから」

「ホントにそう思ってる?」

「思ってるよ」

サヤは一生懸命に、ひたむきに用紙を探していた。

熱い思いで探してるんだ、サヤさんも結果が知りたいんだ。

するとその時

「おーい、見つかったぜ」

ユウヤの声が届いた。

サヤは立ち上がってユウヤの元へ向かった。

「うわっ、びっくりした」

「はやく。開けて」

「お、おう」

僕とタクミも走って向った。

用紙はカモフラージュされた袋の中に入っていた。

封を開けるとサヤが奪った。

「ちょ、おい」

彼女が用紙を見た。目が開き、みるみるうちに安堵と喜びの混ざりあった表情になった。

結果が知りたかったが、不覚にも僕はサヤさんの顔ばかり見ていた。

「おーい、コウタも見なよ」

ユウヤが背中を押した。僕は近づいてサヤさんの用紙を覗いた。



あった。僕の名前が。 やった、 取ったんだ!

喜びと嬉しさ。

気付かぬうちに僕の目尻は赤くなっていた。涙があふれていた。

横を見るとサヤさんも泣いていた。きっと嬉しいに違いない。好きだった人のこんなに真横にいるなんて、しかも二人とも泣いてる。不思議な状況だね。

「おい、抱き合うなら今だぞ」

ユウヤが耳元でささやいた。

「うるさい」

「二人ともおめでとう。用紙は僕とユウヤで届けにいくね」

「おい、発見したのは俺だからな、俺が賞品をもらうぞ」

初めてあった二人は。気分が高まって年来の親友のように話しながら放送室に向かった。

「やりましたね!コウタくん!」

話しかけられた。初めて。そんなことはいい。

「おめでとう、サヤさん、受賞して本当に良かった」

自分が受賞した喜びもある。けれど、彼女の喜んだ姿を見ても嬉しい。

「僕の名前知ってたの?」

普通に話せた。もはや緊張も馴れも関係ない。

「うん。コウタもタクミに通ってたでしょ?タクミから名前聞いてたんだ」

サヤさんが僕のことを知ってたなんて。胸がドキドキする。彼女に初めて会った時の気持ちがよみがえった。

「来年は僕が勝つよ!」

「私だって負けませんから!」

「ちょっと、僕のこと忘れてない?」

戻ってきたタクミが言った。

「来年は出るの?」

「師匠、出るのですか!」

「そりゃ出たいよ。最後の文化祭だしね」

「だったら来年は師匠にも勝ちます!」

「お手柔らかに頼むよ」

「いいえ、負けませんから!」

サヤさんは元気がいい。僕もサヤさんのように頑張らなきゃ。いつかタクミを追い越せるように。

「みんな、良かったらこの後メシ食いに行かねぇか。サヤさんの受賞祝いだ」

「僕もじゃないのか」

「ぜひいきたいです!」

「タクミはどうする?」

「もちろん行くよ」

「じゃあ3人で行くか。6時に集合な」

「僕もいくからな」


夕焼けが星空に変わるのを僕は自転車をこぎながら見続けた。


遠いと思っていても、諦めようと思っても、頑張って続ければ、行動していけば、必ず何かが起こる。必ず近づいていく。少しずつかもしれませんが、近づいていくのです。一日一歩、この意味を持つことわざは、世界中、どの時代においても生まれてきました。それはこの言葉が全ての基本だからです。どんな発明でも、どんな立派な城でも、その下には膨大なエネルギーの積み重ねがありました。面白い小説も然りです。僕は未熟です。あらゆる経験が乏しく、小説を書いたのもこれが初めて。今は何も書くことができません。ですが、この主人公のように学んでいき、自分を変えていきたいと思います。この主人公以上に頑張って面白い小説を書けるようになりたいです。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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