期待に胸を膨らませていた
二学期が始まった。体育祭と文化祭に向けて学校全体から熱気が感じられる。僕も文化祭に向けて、というか小説大賞に向けて頑張ってきたので、暑苦しいとか思わなかった。
放課後、体育祭の練習で疲れた身体を動かして、担当の先生のところへ向かう。重力が強くなって身体が地面に寄せられるように感じる。
僕の教室は新校舎一階にある。下駄箱のある廊下を渡って、階段を上り、階段を上り、旧校舎の三階に着いた。右を見ると、文芸部の顧問、すなわち小説大賞担当の先生が、周りに生徒を集めて何か指示していた。そこにはタクミの姿もあった。生徒は数人ずつに別れて散っていった。顧問が、ポツンと立っている僕を手招きした。
「君も手伝いにきたのかね。ありがとう」
僕は近くに行った。顧問はガタイがよく、白髪が似合っている。威厳のある先生だと思った。
「いいえ。僕は小説の原稿を渡しにきただけです」
「さっきの人達はみな小説を応募したんだ。そのままボランティアで文化祭の手伝いをしている」
「だからと言って僕が手伝うことはないです」
「そうだ、手伝いは義務ではない。だがこちらも人出が足りていないんだ。手伝ってくれると助かる。君も文化祭に参加するんだ、準備するのが当然だろう」
この先生が本気を出せば、僕は何を言っても勝てないだろう。ならば丸め込まれるのが得策だ。
「わかりました。手伝います。」
そう言って原稿を渡した。
「ありがとう。読ませてもらうよ。あと、君の仕事は旧校舎二階の会議室にあるから」
僕は階段を降りて会議室に向かう。ふりをして帰ろうとした。しかし顧問が後ろからついてきたので、しょうがなく会議室に向かった。
会議室に入ると中は重苦しく、せわしない雰囲気であった。その中にはユウヤもいた。
「コウタ、手伝いにきたのか。じゃあこれやってくれ」
いつものような元気がなかった。僕は周りの人を見ながら真似をして作業をした。一人一人が集中して取り組んでいて、話す人もいなかった。
ひたすらに作業していると、先輩が作業の終了を告げた。
「お疲れ様です。今日の作業は終了です。片付けして帰りましょう」
そう言うと、場が一気に和らいだ。定期テストの最終科目が終わったみたいに、みんなが安らかな顔で話し始める。
「やっと終わった〜。今日も一日頑張ったわ」
ユウヤが身体を伸ばして言った。
「一日だけでも長いもんだな。」
「何言ってんだ、一日だけじゃないぞら、お前は明日からも手伝うんだぞ」
「何でだよ。俺は帰宅部だぞ」
「えっ?手伝わないの?」
他の部員からクレームが飛んできた。
「手伝わないとダメですよ」
文芸部の先輩も。
みんなの視線が一気に集まった。その熱視線に溶けそうになり、たじろぐ。
「大丈夫です。こいつは明日からも来ますから。僕が連れていきますよ」
ユウヤがそう言うと、みんなは安心の表情を浮かべた。
外はすっかり暗くなっていた。電気を消した後の自分の部屋のように、安心できる暗闇だった。夜空に浮かぶ光は小さいけれど、どれだけ僕達を導き、僕達を照らすか、計り知れないほどに大きいのだ。風は心地の良い冷たさで、自転車をこぐとちょうどいい温度になる。
「涼しい夜道っていいもんだなぁ」
ユウヤが空を見上げながら言った。
「そうだな、特に今日のような疲れた日には」
「俺は前から作業してるから、もっと疲れてるぞ」
「僕は夏休みに動いてないから、ユウヤよりも疲れを感じてると思う」
「お前は蝉か。一週間で尽き果てんなよ」
「心配無用。今日の体育祭練習でサボりのノウハウを掴んだから」
翌日からも手伝わされて、結局文化祭前日まで手伝うこととなった。
そして、文化祭が始まった。今日は文化祭一日目だ。いろいろな企画が催されるので、いちいち全て見るとなると、とても忙しい。忙しい人はクラスの出し物をやっている暇などないので、僕みたいな暇な奴が任されることになる。まぁ僕にとってもいい暇つぶしになるけど。
僕のクラスの出し物はタコ焼きだ。中庭に店を構えている。中庭は激戦区で、焼きそばやカレーライスなど、多くの店が並んでいる。その中でも僕のクラスのタコ焼きは、よく売れていた。
売り始めて数分たってから、常に客足は絶えない。タコ焼きの美味しさには秘密があった。タコ焼き器は、家が料理店であるユウヤのものを使い、そしてユウヤが作ったソースを使っているのだ。
こうして、一味違うタコ焼きが売り切れようとしていた頃、行列の後ろにサヤさんの姿が見えた。多くの人の中で、スポットライトが当たったみたいに、鮮明に浮かび上がって見える。久しぶりに見た彼女は、髪が短くなっていて、僕の記憶にある彼女よりも美しかった。
胸を焦がしても、タコ焼きを焦がしてはいけない。彼女は美味しいタコ焼きを買いにきたのだから、僕も美味しいタコ焼きを作らなければ。胸の内は熱いが、手つきは冷静だ。
彼女が徐々に近づいてきた。高鳴る心臓の音が自分でもはっきりと聞き取れる。少し汗をかいた。出ては隠れてを繰り返す太陽が再び現れた。眩しい日差しが中庭を照らす。純粋な輝きだけを集めた自然のスポットライト。光を当てられた彼女はより眩しく、それでいて見られることを拒絶しない、やさしい光り方をしていた。
ついに彼女が最前列にやってきた。僕と彼女を遮るものが無い状態。けれど彼女を見ることはしない。顔はタコ焼きに向ける。僕がやることは彼女に美味しいタコ焼きを提供することだけだ。けど、見た目は少し整えた。とても美味しそうなタコ焼きだ。これが僕にできる最大の花向けだ。買うと、彼女は歩いていった。美味しい、思ってくれればいい、それで充分だ。
その後も順調に売り続けて、僕は休憩することもなく仕事を終えた。ドッと疲れが押し寄せてきたが、一緒に働いたクラスの人達や先生から、ねぎらいの言葉をいただくと、やって良かったなぁと思い、良い気分になった。この気持ちは文化祭準備を終えた時にもやってきた。達成感を感じることに、やみつきになっているのかも。
テントの中の椅子に座ってゆったりと休んでいると、ユウヤがやってきた。久しぶりに元気がよさそう。
「もう完売か?すげーじゃん、すげーじゃん」
ユウヤは隣の椅子に座った。
「やっぱり俺のソースが良かったんだな」
「いいや、俺の技量だ」
「それはやりやすいタコ焼き器のおかげでしょ。ところでずっと働いてたの?」
「そうだな」
「すげーな、お前はえらいぞ、立派だ。ご褒美にこれをあげる」
そう言ってしおりを差し出した。
「このしおりのイラストってサヤさんに似てるだろ?だから取ってきたんだ」
「似てないよ。いらない」
僕は不躾にことわった。
「いいじゃん、たぶん縁起がいいと思うぞ」
「僕は迷信を信じないタチなんだ。ましてお前は占い師以下、誰がそんなこと信じるものか」
「ひどい、お前は信じてくれると思ったのに」
男子高校生が美少女イラストのしおりを持って話をしている図。これを見た人は何を思うのだろうか。そう考えるとたまらなくなり、僕は席を立った。
「ちょっと、どこに行くのさ」
ユウヤは即座に反応する。しおりを持ったまま。
「昼飯を買いにいく」
「ちょうど良かった〜。俺も昼休憩なんだ。俺の分も買ってきてよ」
「はい?」
「ほら、しおりやるからさ。」
ユウヤはしおりを使ってくる。コイツはバカだ。僕はしおりを受け取ってポケットに入れた。後でユウヤのカバンに入れておこう。
「だったら、一緒に行こう」
「ヤダ、買ってきてよ、動きたくねーもん」
腹が立ったのでササッと、言葉でも掴まらないように、歩き始めた。
「ちょっと待ってよ」
すかさずユウヤがついてきた。ユウヤの趣向はかまわずに、自分の買いたい物を買いに行く。
「俺、カレー食べたいんだけど」
「じゃあ後で買えばいいだろ」
僕は焼きそばを食べたくて、少し歩いた。中庭の新校舎側にあるタコ焼き屋から、中庭の旧校舎側にある焼きそば屋まで歩く。中庭のステージはとても盛り上がっていて、見る人を虜にしていた。爽やかな熱気。文化祭を成功させるんだ、という思いと、見物人の暖かな歓声が、優しく包み込むような熱気を生み出すのだろう。熱気に触れると、彼らを応援したくなった。いつの間にか頑張る人を好きになったのかもしれない。
少し離れた所から焼きそば屋が見え始めた。焼きそばを作っている人も見えた。水色のクラスTシャツを着て、いかにもそれっぽい手つきで作っている。それは文芸部のタクミだった。女子生徒が列を作っているのは、焼きそばの味よりはタクミ自身にあるように思えた。僕のタコ焼きとは正反対である。今日はよく仕事をして、労をねぎらわれて、気分が良かったので、タクミを不愉快に思わなかった。タクミの所で女子生徒が並んでいるのは、この上なく不愉快であったが、きっと彼女達の目当ては焼きそばだろう。これで焼きそばが美味しくなかったらタクミを殴ってやる。
美味しい焼きそばを食べて(僕が空腹だったから美味しく感じた、というのもある)ユウヤの話を聞き流しているうちに、文化祭一日目は終了した。いつの間に、と思い、旧校舎の上にある時計台を見ると、三時になっていた。肌に触れる空気は心地よく、立っていても眠たくなるほどだが、肌に当たる風は、ぬるぬると冷たく、身体は無意識に反応し、頭が冴える。
後片付けをしていると、昔見に行った花火大会を思い出した。光の筋が駆け上がり、暗闇を抜けた光は頭上で爆音をあげて弾けた。真っ黒な空を覆いつくす赤と黄色。赤と黄色は下に伸びて、その大きさは世界中から見えるほど。落ちてくる火の粉は隕石に見えた。目を閉じると隕石は消えていて、新たな花火が打ち上げられる。花火が上がらなくなると、少しずつみんなが浜辺から立ち上がった。僕は何も分からずに母に手を引っ張られていた。その時の、帰り際の浜辺の様子が、今の学校によく似ている。切なさを漂わせている。終わった寂しさを背中が語る。
哀愁の片付けを終えて、久しぶりに一人で家に帰った。
ついに明日が発表か、と思うと気分が高まった。僕には不思議と自信があった。どこから湧いたのかは知らない。けど、なんとなく大賞を取れる気がする。自転車に乗れる幼児が、何処にでもいける自信があるように、僕には自信があった。
母の呼ぶ声で目を覚ました。毎朝同じ時間にニワトリが鳴くように、僕は同じ時間に夜ご飯を食べに行く。今日は寝過ごしてしまったが、寝過ごしたおかげでかなり疲れが取れた。
寝起きなので頭が回らず、母との会話は、うん、とか、すん、しか言わなかった。頭は回らないクセに箸は動くもので、すぐに食べ終えた。
頭は冴えてきたのに、不思議と落ち着きがない。 風呂には鏡がついている。風呂の鏡を使うのは、からだを気にする女性か、ナルシスくらいだろう。いつもは素通りするのだが、今日は横目で鏡を見た。子供みたいにまわりの物が気になる。そこに映ったのは、子供ではなく、たくましく若い男の身体。引き締まって腹筋も割れている。それを見て、嬉しいとも悲しいとも思わず、ただ、唖然とした。感覚としては恐怖に近い。見知らぬ男が立っているようだった。いつの間に成長したのだ、いつの間に鍛えたのだ、お前は誰だ。その顔は紛れもなく僕であったが、以前の僕とは違うくて、やはり鍛えられた感じのする、精神的な修練を積んだ男の顔であった。
風呂から出て部屋に戻る。本を読むと心が落ち着いた。そしてそのまま眠りについた。
文化祭二日目、今日も様々なイベントが目白押しだ。今日は一般人はおらず、生徒と保護者のみの参加だ。坂上高校小説大賞をはじめ、計6種類の結果が発表される。しかし普通に発表されない。結果の書かれた用紙は学校内の6つのエリアにそれぞれ隠され、見つけた人は放送室まで持っていく。係員に渡すと賞品がもらえる、そして結果がアナウンスされる。
賞品は良いものが揃っており、この地域では手に入らないものが多いので、たくさんの生徒が用紙を探す。賞品は数人の係員と先生しか知らないらしい。探す生徒には知らされないのだ。かつて、文化祭前夜に学校に忍び込んで放送室を覗いた生徒がいた。また、用紙を隠す瞬間を捉えるため、朝から学校を巡回する人もいた。係員を恐喝する人もいた。その他にも、賞品を獲得するために手段を選ばない人は大勢いたが、この企画が潰れたことはない。というのもこの企画は、先生がメインになって行われるからだ。先生方はありとあらゆる手を使い(職権濫用はしない)生徒の裏をかいているのだ。
9時までに全ての用紙が隠される。その間も生徒は学校内にいるのだが、9時以前に発見されたことはない。9時になったので僕はユウヤを誘って体育館に行った。
「見つけたら俺が賞品もらうからな」
「いいよ。僕が見つけても賞品はあげる」
小説大賞の結果が知りたい、その一心だ。
「お前が見つけたら奪おうと思ってたわ」
ユウヤは笑いながら言う。
「やっぱりあげない」
30分後、同じ体育館から嬉しい悲鳴が聞こえた。手には紙を持っている。見つけたんだな、と思うと、スカートを抑えながら必死で走り出した。見つけた人の用紙を奪うのは最も効率が良いが、それは出来ない。風紀委員が取り締まるからだ。風紀委員が見回りをするようになったのは、昔、用紙をめぐってケンカが起こったからだ。風紀委員が、ケンカをしている所を見つけ、仲裁に入り、先生に報告し、生徒の証言を得ると、その用紙は風紀委員のものになる、という仕組みがある。
「体育館エリアから見つかりました。発表するのはミスター坂上高校です」
アナウンスが響く。僕たちは、まだ見つかっていない旧校舎Aエリアに向かった。生徒が荷物を置いている教室を除く、旧校舎1.2階が範囲だ。1階に行くと、すでに10人以上の人が探していた。これだけ探してなぜ見つからないのか、不思議でたまらない。1階を一通り探したが見当たらず、階段を探して2階に上がった。探していると目の前にいた生徒が、壁に顔を近づけ手をかざした。
僕とユウヤは後ろから覗いた。壁とほとんど同化した灰色のシミはよく見ると文字だった。透明なシールと壁の際は触らなければ分からない。生徒は触った感覚でシールの位置を正確に特定し、シールを剥がした。
「やったぁ!」
静かに押し殺すように小声で喜びをあらわした。彼は一目散に放送室へ向かった。
「見つけれる気がしねぇ」
ユウヤは階段を上りだした。声には熱が感じられる。
「次は見つけよう」
僕は探すのが楽しくなっていた。用紙を見つけた喜びと、僕の名前が載っている嬉しさを味わいたい。
階段を上っていると、上からサヤさんが降りてきた。用紙の事ばかり考えていて、気づいた時には彼女は僕より下にいた。
「手に紙があったな」
ユウヤはしっかりと捉えていた。
「見たか?コウタ」
「いいや、見てない」
すまなさそうに、後ろめたそうに言った。
「旧校舎は2枚見つかったから、もう残ってない。次は中庭を探そう」
「分かった」
中庭に向かっている間に3つが立て続けに発表された。旧校舎Aと旧校舎Bと新校舎B。残るは新校舎Aと中庭のみ。
今日の中庭は自由で楽しそうだ。ゲラゲラとした笑い声がよく聞こえる。昨日は、入念に用意された、時間をかけたと思われるものばかりで、緊張感があり、迫真の企画だった。
やはり中庭にも用紙を探しているトレジャーハンターが多い。一面に草が生えて、中央には大きなヤシの木が
植えてある。この場所においては、先入観にとらわれては見つからないだろう。時刻は既に11時。あと1時間で文化祭が終わる。なんとしてでも自分で見つけたい。
見つからないまま30分が過ぎた。一体どこにあるのだ、僕はまわりを見渡した。すると新校舎2階にポスターを剥がしている人が見えた。タクミだった。もしや、ポスターが用紙だというのか?あまりに奇抜すぎる。発表が残っているのは小説大賞とミスター坂上高校のみ。
タクミの用紙にはどちらが書かれているのか、僕は耳を傾ける。
「見つかりました。坂上高校小説大賞です。受賞者は」
一拍の間が空く。こい。僕の名前を言ってくれ。
「タクミです」
立ちすくんだ。自信が足元から崩れ落ちた。魂が足の裏を抜けて地面にめり込むような感覚。
「タクミだったか、残念だったなコウタ」
ユウヤは慰めたが、僕は完全に上の空だった。思えば、小説は生まれて初めて本気になって取り組んだことだ。夏休みも頑張って取り組んだ。けど、選ばれなかった。サヤさんにも選ばれてないだろう。つまらないと、思われたかもしれない。悔しかった。こんな気持ちは初めてだった。
中庭の用紙は見つかり、体育館に行くようにアナウンスがかかった。ステージに上がると実行委員が思いを述べる。嬉しそうにむせび泣いている人もいる。良かったな、と思うけど、何も感じられない。終わって弁当を食べると、後片付けをロボットのように淡々とこなした。ユウヤは美術部で集まりがあって、僕は1人で帰る。坂上高校の由縁たる長い坂を降りて駐輪場に行った。遠くから男女の姿が見えた。彼らは僕の自転車の近くにいた。少し近くに行くと誰だか分かった。タクミとサヤさんが話していた。ああ、そうか、と思い、暗い顔のまま自転車に乗って帰った。風が冷たかった。
家に着いても気分は同じ。鬱屈として、晴れない。着替えてから、ぼーっとしたまま椅子に座っていると眠たくなった。今日のことは忘れよう、寝て忘れようと思い、布団に入った。なぜだろう、布団に入ると涙が出た。人前で晒せなかった涙が一気に溢れ出す。拭いても拭いても涙は止まらず、やがて嗚咽に変わった。悔しい。ただ悔しい。自分の自惚れが忌まわしい。タクミに勝てるはずが無かったのに、勝てると思った自分が憎い。自分一人で勝手に書き始めて勝手に思い上がる。僕は愚かな間違いを犯した。タクミに教えてもらえば良かった。少なくとも今の自分よりは良い小説が書けた。この数ヶ月は何だったんだろう、僕は何がしたかったんだ、結局サヤさんとは一言も喋っていない。図書館で初めてサヤさんを見た時に読んだ本を取り出した。この本を読んで希望を持った。しかし、僕は主人公と違って何も行動を起こしていない。主人公に憧れたのに、主人公に近づこうともしなかった。情けなさと自分のみっともなさが手に取るように見えて、またしても涙が溢れる。
呆然としたまま夜を迎えた。すると、外からユウヤの声が聞こえた。
「おーいコウタ」
はっきりとした声が聞こえて、周りの家から苦情がくるかもしれないと心配した。僕はすぐに外に出た。
「どうした、こんな時間に」
「部活の打ち上げがあってな。お前明日ヒマかっ?なんなら遊びにいかねーか」
酒を飲みたいと思うほどに気分の落ち込んでいた僕にとって、この話は渡りに舟だった。
「ぜひとも行きたい」
「おっけー。じゃあ、明日の9時にここにくるから。隣町に行く予定な」
「わかった、じゃあな。また明日」




