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走り出す  作者: 美濃部
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部活見学

日曜日はあっという間に過ぎて、休みが1日しかなかった感じ。月曜日はなんとなく憂鬱だった。

学校が始まって一週間近く経った。風船がしぼむようにクラスの緊張感が和らぎ、だんだんと掛け合う声が多く聞こえるようになってきた。友達を増やすことはいいことだと思う。僕も多くの本と友達になったおかげで、たくさんのことが得られた。そういうわけで今も友達を作るべく本を読んでいる。

「おはよっ!コウタ」

ユウヤが元気良く話しかけてきた。僕とユウヤは小学校からの友達で、本を除くと僕の唯一の友達である。

「おう、おはようユウヤ」

「今日から部活見学じゃん。一緒に美術部見に行こうぜ」


部活見学か。僕は本が好きなので文芸部に入る予定。文芸部の活動内容は分からない。風の便りで聞いた話なのだが、文芸部に入部する今年の一年で、一人文才がいるらしい。どんな文を書くのだろう、せっかくだし教えてもらおうかな、と思った。


「ああ、そうしよう。その後文芸部に行こう」

「オッケー、掃除終わったらまた来るから勝手に1人で行くなよ」

と言ってユウヤは新しい友達を作りにいった。

掃除終了を知らせるチャイムが鳴って、ユウヤがやってきた。

「いざ行かん、美術部!」

ユウヤは意気揚々としている。楽しみにしていた遠足に行く子供みたいに。前々から坂上高校の美術部に入りたいと言っていたから、嬉しいに違いない。

「嬉しそうだな」

僕は落ち着いた口調で言った。

「そりゃそうだ。念願の美術部に入れるんだ。すげぇ嬉しいさ。興奮して昨日寝れなかったくらいだ」

「寝てないわりには元気が良すぎるぞ」

新校舎を渡って旧校舎へ。話しながら歩くうちに美術部の前まできた。時代を感じさせるノスタルジックな扉の前に立つ。

「ついに俺の高校生活が始まるんだな」

ユウヤが目を輝かせて言った。

「よーし!」

一呼吸ついて扉を開ける。

「お願いします!」

部員達の姿が見えた。仲良さげに、真剣に、部活に取り組んでいる。僕がダンゴムシのようにじっと固まっていると、ユウヤは先生や先輩に話しかけて、輪の中に入っていった。すごい、さすがユウヤ、と思った。僕は場違いさを感じたので廊下に出た。戦略的撤退。

窓のシミを数えたり、新校舎と旧校舎の間にある中庭のヤシの木の葉っぱを数えたりして、時間を潰していた。その時、一人の生徒が僕の後ろを通った。

「え?」

振り向くと、その生徒は図書館によくいるイケメンだった。彼は同じ学校だったのか。僕は少し驚いた。かといって、何か関わりがあるわけでもないし、仲良くなろうとも思わない。むしろ気に食わないので、あまり姿を見たくない。

それからユウヤが出てきた。

「ごめんコウタ。俺今日から作業することになった。」

親切な口調で申し訳なさそうに言った。しょうがない。一人で文芸部に行こう。少し心細いけど。

「ああ、じゃあな。また明日」

一人で文芸部の部室に向かった。その方向はさっきのいと同じ方向だった。

初めて歩く場所なのに、気分は落ち着いている。旧校舎は居心地がいい。僕と旧校舎は、コウモリと洞窟のように相性がいいのかも。そして文芸部の部室の前に立った。僕の高校生活が始まるんだ、そう思うと気分が高まる。思い切って、そっと扉を開けた。

「え?」

思わず声を出した。そこにはイケメンを中心とした集団ができており、みんなイケメンに話しかけている。初めてワサビを口にしたような衝撃。呆然と立ち尽くしていると、ふと女子生徒と目が合った。僕は目で訴えたが、彼女は無視してイケメンに話しかけた。僕は扉をしめて外に出た。

こんな屈辱は初めて味わった。ワサビよりも辛かった。

空はうっすらと茜色に染まっていた。自転車は重く、吹く風は暖かい。散り終えて枯れた桜。僕は咲くこともなく枯れた。

文芸部で見た彼は普通のイケメンだった。文学青年という化けの皮をかぶり、先輩にたらしこむ。彼女達を文芸から好色へと誘う悪魔なのだ。全くけしからん。僕が成敗してやろう。靴の中に砂を入れてやろう。


翌週の火曜日、教室を移動している時だった。すれ違う人の中で一際美しい女子がいた。黒髪の少女を見つけたのだ。夢かと思い、ほっぺをつねったが痛い。これは現実なのか。そう思うと急に顔が火照り始めた。柿のような顔になった。図書館の時と同じ轍を踏まらぬよう、立ち止まらぬよう、彼女の反対側、窓を凝視して歩いた。近くにいた人は

「変な奴。気持ち悪い」

とおもって、コウタを見ていた。

昼休み、僕はユウヤと弁当を食べた。おかずが少し喉につまる。ユウヤに打ち明けるようとも思ったが、彼女に何かしようとも思わなかったし、からかわれたくもなかったので、言わないことにした。しかしコウタは犯罪者のような挙動不信であったので、すぐにユウヤに見抜かれた。

「おーい、どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「いつもの落ち着きがないよ」

「そんなことないよ、大丈夫だから」

「さっき窓を見つめてたけど」

確信を持ってコウタを問い詰める。反応がないコウタにさらに質問を重ねる。

「黒髪の女子を見て顔が赤くなった」

少し笑いながら言った。いきなり急所をつかれた。獲物の急所を撃ち当てたスナイパー。撃たれた僕は倒れるだけ。しかしユウヤは僕を殺す気はなかった。すかさず特効薬を差し出す。

「部活の帰りに文芸部の近くを通るんだけど、黒髪さんが出てくるのを見かけたよ。彼女は文芸部なのかも」

「それは本当か?」

顔をおこして言葉を返した。必死な目は釣られた魚の目みたい。

「うん、本当だよ。今日も放課後いると思うよ。行ってみたら?」

僕は考える。黒髪に近づきたいが、イケメンに会いたくない。これがアンビバレンスか、さっき現代文で習ったことを実感する。もしも黒髪とイケメンが話していたら。その場面を見ると、体がアレルギー反応を起こして倒れてしまうかもしれない。脳内会議が始まった。様々な意見が出て、会議は大変な盛り上がりを見せた。結果、僕は文芸部に行くことにした。

「分かった。行ってみる」

小さな声でつぶやいた。







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