最終話~エピローグ~
「ん…………?」
悠一が目を覚ますと、そこは病院だった。起きあがり、ウロウロしている看護師を呼びとめた。
「ここは?」
「あ、お目覚めになったのですね! 早く、ご家族にお知らせしないと!」
そう言い、看護師はパタパタと行ってしまった。なんとも忙しい人だ。
……助かったのか。……ん?
悠一は、何かを忘れているようなえ気がした。思いだしたい記憶の部分が、真っ白になっている。
俺は、何に対して助かったんだ? そもそも、何でこんな所にいる? 確か、修学旅行に行ったんだよな――?
頭の整理がつかないまま、悠一の父と母・が駆け込んできた。
「悠一! 大丈夫か!!」
「……あぁ、心配してくれて有難う。俺、どうなったんだ?」
すると、父の瞳が一瞬暗く染まった。そして、何もなかったように話を続けた。
「修学旅行の最中、倒れたそうだ。良かったな。明日には退院できるそうだ」
「そうだったのか」
口ではそう言っても、納得がいかなかった。
ダメだ。記憶が曖昧になっている。もっと、大変なことが起きたような――
「お母さん、すごく心配で……悠一?」
「っ…………!」
気づいたら、悠一の目から涙がこぼれていた。母とは毎日のように会っていた。だが、一生会えないような体験をした気がしてならない。
「どうしたの……?」
母と父は、顔を見合わせてから笑った。
「悠一が起きて、本当に良かった。――だが、安心はしてられない。あと少しで受験だ。父さんたちも応援するから、ラストスパート頑張ろう」
そうだ。俺は受験生なんだ。
たくさん勉強して、いい高校に入れるように――どんなに罵声を浴びせられても、進まないと。
悠一は力強く頷いた。
「母さんたち、退院の手続きしてくるから待っていてね」
「……分かった」
悠一は一人になると、不意に窓から見える山を見た。病院から結構近いところにあるので、はっきりと見えるのだ。
「ん……?」
一か所だけ、妙な光り方をしている所があった。
目を凝らして見てみると、一体の地蔵だった。紫色のほっかむりをして、こちらを見ている――ように見えた。
『もう、二度と愚かな行いはするな』
脳内に、直接響きわたってきた――ような気がした。全てが曖昧で、悠一には何のことか分からなかったが、すごく大切な言葉だと直感で感じだ。
妙な光が、フッと消えた。
「何だったのかな……?」
机に目をやると、一冊の本が置いてあった。古そうな本でだ。タイトル名は、
「――笠地蔵?」
「『悠一は天狐や地蔵と過ごした時の記憶を消されたが、元通りの生活に戻ることが出来た。今まで殺めた人も、地蔵の力でかえってきた。天狐――空狐は、一体どうなったのか。それは……」
一呼吸置いてから、輪廻は本を閉じた。
「全てを知ったら、楽しくないですよね?」
持っていた本を、棚に戻す。
すると、その本がガタガタと震えた。
――ダ……し……て…………
そして、本は床に落ちた。
あれ、ちゃんと封じ込んだと思ったのに……
輪廻は小さくそう呟き、本を撫でた。そして、ゆっくりともう一度戻す。もう、異変は起きなかった。
「さて皆さん。今回のお話はどうだったでしょうか? 僕自身まだ未熟で、皆さんに満足してもらえる本を見つけられていませんが――僕はいつでもここにいます。是非、またこの図書館に遊びに来て下さい。場所? ……さぁ、どこでしょうね。皆さんが何かの『物語』に出会いたいと思えば、目の前にあるでしょう」
輪廻は、華麗に一礼した。
「最後に一つ。絶対に人間が関わったらいけないものが、この世にはたくさんあります。それは、とても身近にあるかもしれません。例えばほら、あなたの目の前にある――」
最後まで読んで下さった皆様、有難うございました!
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