表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

六話

 あれから、半年の月日が流れた。

 悠一は本のことを忘れ、冗談でも、「死ね」なんて思わないようにしていた。


 だが、いままで殺してしまった人は戻って来ない。

 クラスのメンバーは半分以上いない。どんどん転校生が入ってきた。席が埋まるにつれ、殺してきた人のことさえ少しずつ忘れていった。


 そして、

「今の成績と学力点があるなら、県内トップを受けても大丈夫だな」

 先生にそう言われた時、悠一は叫びそうになった。今までの努力が、ついに実を結ぼうとしているからだ。だが、ここで気をにいたら今まで勉強してきたことが全部泡となって消えてしまう。

 悠一は、一段と力を入れて勉強を始めた。


 学校では、ちょっとした人気者になった。宿題を教えて、レポートの作り方などを教えるのに、時間は費やされてしまった。だが、悠一にとっては構われないより嬉しかった。

――あの時、浩二だけは消しておいて本当によかった。まぁ、他のやつらは名残惜しいものもあったが……まぁ、いいか。


 そんな事を思っていた矢先。

 事件はほんの些細なことで起きてしまった。


「ねぇ、悠一」

 学校の帰りでへとへとな悠一を、母が呼びとめた。

「……なに? 疲れているんだけど。勉強もしたいんだけど……」

 別に何かがあったわけじゃないが、悠一は少しイライラしていた。勉強疲れと、ストレスがたまってきたのだろう。

「悠一が頑張っているのは、お母さん嬉しいわ。でも、そんなに自分を苦しめても辛いだけよ? 少し休憩したら……?」


 いつもは母に逆らったりしない悠一が、つい反発してしまった。

「別に。俺のことは心配しなくていいから。ちょっと黙っていてくれないか」

「そんな言い方、ないじゃないの。お母さんは悠一を心配して……」


「あーあー、分かった。俺が悪かったよ。ゴメン。だから今日はほっといて」

「でも……」


――うるさいな……早く失せろよ……


 心配しすぎる母に、嫌気がさしてついそう思った。

 すると、背後から声が聞こえた――後ろ?


「久しぶり。呼んでくれて有難う」

「っ?!」


 そこには、忘れかけていたであろう天狐の姿だった。

「だ、誰なのこの子?!」

 母は、口をパクパクさせている。当然だ。今まで家の中にいなかった人が、突然現れたのだから――


「惜しかったなぁ。改心さえできれば……ね」

 しまっていたはずの本が、天狐の手の中にあった。

「ち……違う! 今のは……」

「キャンセルはできません」


 天狐は笑みを残したまま、悠一の母の首を片手でつかんだ。

「悠一くんのお願いです。死んでください」

 悠一は、天孤めがけて走りだした。

「やめろ! 離せ! 俺の大切な人だ!」


 でも、一瞬でも思ったじゃない。「失せろ」って。

 そんな言葉が、脳内に直接響いた。


「っ……悠……一……」

 母は必死に天狐の手を掴んで抵抗したが、天孤は笑顔のまま力を込めた。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉーーー!!」


 グシャッと、鈍い音がした。


「ククッ。力入れすぎちゃった」

 天狐の手には、目から涙がこぼれている母の生首が残っていた。本体からだは、床に伏せている。


「あ、あ…………!」

 目まいが悠一を一気に襲った。だが、今ここで自分が気絶したら――殺される。


「なんで、なんで……」

「さぁ、願いは叶えた。悠一くん、気分はどう? スッキリした?」


 笑顔で振り返った天孤を、悠一は思いっ切り蹴り飛ばした。

「おぉーっと……っ!」

 天狐は、テレビに頭を思いっ切りぶつけた。すぐに、首がうなだれた。気絶したのだろうか。


「はぁっ……はぁっ……」

――殺す!


 悠一は台所にかけ込み、包丁を取り出した。手が震えているのは、包丁を握ってから気づいただろう。すぐにリビングへ戻り――母の体の横を通る時は、泣きそうな気持でいっぱいだった。

「……やめた方がいいよぉ?」


 天狐は、ゆっくりと起きあがった。

 もう少女の姿ではなかった。大きな尻尾に、つり上がった目。一匹の獣が、リビングに居た。ニヤリと笑うだけで、悠一は天孤に恐怖を覚えた。足の震えが止まらない。今まで話していたやつが、本当に狐だったなんて――信じたくなかっただろう。


『……時はきた』

 先ほどまでの幼い声は、もうどこにもなかった。天狐が大きく手を広げると、大きな尻尾が消えてなくなった。耳も、だんだんと薄れて消えた。だが、顔には何かの模様が浮き出ている。

「な、なんだ……!?」


『どういう意味か分かるかい? 天孤はね、3000年生きると【空狐】って狐になるんだよ。もう、私は神に近づいた……お地蔵様、あなたも必要ない!』


 ふわりと、何が空狐の体から出てきた。それは、きっと地蔵の魂だろう。悠一は直感でそう思った。

「私の力がいらない……? どういうことですか」

 地蔵は、自分の身に何が起きたか分からなかった。


『もう、仏の力は必要ないって事ですよ! 私は神に限りなく近い存在になったのです!』

「話が違う……!」

 地蔵は、すぐ近くにあった置物にのりうつった。その瞬間、その周りの空気が一変した。

『私を、甘く見るんじゃないぞ……』


 目の前の光景に呆気をとられた悠一は、手に持っていた包丁を落としてしまった。

――お、俺は……どうすればいいんだ……


『戦いに、邪魔なやつがいますね。先に、消してしまいましょう!』

 空狐は、手をあげた。悠一は、死を悟った。



 すると、突然空狐は頭を抱えて倒れ込んだ。

『あ……っ!?』

 空狐の脳内に、何かの言葉が響き渡った。




 そんなつもりで、貴方に力をあげたわけではなかったのに。




『あの時の人間?!』

 空狐は、部屋を見回した。だが、目に映るのは悠一と地蔵のみ。


『あぁ、あなたもそうやって私を見捨てるのですか! もう、人類全て消し去ってやる――!』


 空狐が、手を大きく振りかぶろうとした。すると、地蔵の周りにまとっていた空気が天狐の所まで届いた。

『間違っている……人間も、あなたも! 自分勝手で、力があれば何をしてもいいと思う思考……皆、平等に生きていけばいいものを……!』

『や、やめろぉぉぉぉ!!』


 何かにつつまれた空狐は、だんだんと小さくなって――消えた。


 悠一は、その直後の記憶はない。地蔵に睨まれたと感じた瞬間、次こそ完全に目の前がブラックアウトした。

お待たせしました……。

更新がストップしていましたが、あと数話で完結なので、最後までお付き合いして下さると嬉しいです。


意見等、ポイント評価などお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ