プロローグ
あなたは、「笠地蔵」という昔話をご存知ですか?
おっと、失礼しました。僕は輪廻と言います。『初め』と『終わり』に登場させてもらいます。皆さんにお会いできる機会は少ないですが、宜しくお願いします。
では、本題に入りましょうか。
笠地蔵というのは――
昔々、おじいさんとおばあさんがいました。二人は大晦日にも関わらず、食べるものがありません。そこでおじいさんはわらで編んだ笠を売るために出かけました。しかし、朝早くから夜遅くまでねばっても全く売れないのです。
困ったおじいさんは途方にくれながら家に帰ります。いつの間にか、雪まで降って来ました。寒くて寒くて凍えそうです。
そんな時出会ったのが、六体の地蔵でした。
地蔵の頭にはすでに冷たい雪が降り積もり、少し悲しそうな顔をに見えました。それを見たおじいさんは、自分が持っていた笠を被せてあげようとしました。しかし、一つだけ足りません。おじいさんは、自分が被っていたほっかむりを最後の地蔵にかけてあげました。
「わしが被っていたものですまんな」
そう言って地蔵達に拝んだあと、おじいさんは家に帰りました。おばあさんに事情を話すと、
「それはそれは。いい事をしましたね」
と言い、満足そうにうなずきました。
ですが、結局お金は手に入ったわけではありません。まずしく二人で正月を過ごそうとしていた矢先、外から「よいさ、よいさ」と声が聞こえたのです。
それは、あの地蔵でした。地蔵達は、何かを持っておじいさん達の家に向かって歩いてきているのです。おじいさんとおばあさんは驚きました。
家の前にはご馳走がたっぷりと置いてあり、二人は幸せに暮らしましたとさ。
これが笠地蔵の話です。ハッピーエンドで良かったと思いますよね。感動的な話です。
ですが、本当はこれで終わりではなかったのです。
あの後、力を使い果たした地蔵は自分達の居場所に戻るのも精一杯でした。そして移動している最中に、村一番の乱暴者と、その子分がおじいさん達の家を発見してしまったのです。
「おい、あんなジジイとババアの家の前に、うまそうなもんがたくさんあるぞ!」
「本当だ! かっぱらっておらたちで食おうぜ!」
地蔵達は驚きました。おじいさんを助けないと、大変な事に……。彼らは、乱暴者たちの前に一列に並びました。もちろんのこと、彼らは目の前の光景にひどく驚きました。
「な、なんだお前らは!?」
『ここから先は、行ったらだめだ……』
彼らに聞こえるように、ほっかむりをかけた地蔵は言いました。
「き、気味がわりぃ……」
「逃げた方がいいんでねぇか!?」
子分たちは弱音を吐き、今にも逃げだしそうでした。しかし、村一番の乱暴者は、
「おい、こんなもの壊してしまおう!」
と言ったのです。彼は、呪いや祟りなどを全く信じていなかったのです。
「……そうだそうだ! こったらものが道のど真ん中にあったら逆にこえぇべ!」
彼に続くように乱暴者たちは意気込み、地蔵同士をぶつけ合って壊し始めました。地蔵たちは子供より小さな大きさだったので、誰でも簡単に持ちあげられるのです。
そして、地蔵は早く逃げられません。あっという間に、五体の地蔵が粉々になってしまいました。
最後に残ったのは、一番力を持っているほっかむりを被った地蔵でした。
『おめぇら、よくも仲間を……』
「うるせぇ! おらたちだって、うめぇもんくいてぇんだよ!」
この時、地蔵は力を発揮させました。崖から、大きな岩を降らせたのです。一瞬の出来事で、乱暴者たちはどうすればいいのか分からず、その場で立ちすくんでしまいました。
『よくも、よくも……』
地蔵は、彼らを強く恨みました。
人間は、互いを助け合い、心の綺麗なモノばかりだと思っていた。あのおじいさんはとても優しく、自分より私たちを選んだ。だから、褒美をあげたのに……こんなものたちに、とられてたまるか!!
『許せない、許せない……』
「う…………うわぁああぁぁぁ!!!」
彼らが石の下敷きになっても、地蔵は何度も恨みの言葉を呟いたそうです。彼らが息絶えるまで……。
その光景を、偶然にも見ていた盗っ人がいました。
「これは、使えそうだな……」
あの地蔵を利用して、村の人たちから儲けよう!
そう考えたのです。
次の日の朝、盗っ人は早速、村の人たちに伝えました。
「今日はめでてぇ日なのに、えれぇことが起きたぞ!」と叫びながら盗っ人は村へ下りてきました。
「あの山の奥にある地蔵は、実は『呪いの地蔵』だったんだべ!」
「なんだと!?」
あの地蔵は、おじいさんを助けるためにやっただけだが……まぁ、そんなことはどうでもいいべ!
盗っ人は信じ込んだ村人たちに言いました。
「だから、ありったけの食いもんをお供えしねぇと、おら達も呪われるぞ!」
「大変だ!」
村の人たちは急いで家にある食料を次々とほっかむりをかけた地蔵の足もとへ運びます。そして、「どうか呪わないでくれ……」と拝んで、去っていくのです。一日で、地蔵の周りはご馳走でいっぱいになりました。
地蔵は、何事かと慌てました。いつもは会釈や拝むだけで通り過ぎる人達が、一体どうしたのだと。そんな日の夜、盗っ人はしめしめと食料を取りに地蔵の前にきました。
「すげぇ。これなら、何日も生きていけるなぁ!」
と言い、次々と自分が持ってきた袋に放り込んでいきます。すべて、盗っ人の思い通りです。
『なにしている……』
不思議そうに聞いている地蔵を、盗っ人は押し倒しました。
「あんたには感謝しているよ! ありがとな!」
地蔵は、崖から落ちていきました。今にもほっかむりが取れそうです。
「あんな恐ろしいもんでも、壊れちまえばどうってことねぇべ」
盗っ人はもう、昨日見た光景を忘れていました。
落ちている最中、地蔵は思いました。
――村の声が聞こえる。「呪いの地蔵がいる……」もしや、今の人間が昨日のことを見て、勝手なウワサを広めたのか!? ……なんてやつだ。自分の利益の為に、私を使うなんて……許さない!!
地蔵が落ちた所は、雪がたくさん積持っている所で、なんとか割れずに済んだ。
『もう、人間は嫌だ……』
そう呟き――地蔵は、大きな、大きな地震を天から呼び込みました。
「なんだぁ!?」
盗っ人は強く揺れる地面に戸惑い、バランスが崩れました。そして、地蔵と同じく崖から落ちました。運悪く、盗っ人が落ちた先には折れた木がちりばめられた場所でした。
盗っ人は避けられる暇もなく、グサッと体中に木が刺さって息絶えました。
『恨めしい、この世の人間よ……』
その日から、本当に『呪いの地蔵』が生まれてしまったのです。心の汚い人間に、罰を与えるために――
これが、おじいさんが知らない「笠地蔵」の本当の結末です。驚きましたか? 視点が変われば、全く違うエンドになるのです。そう、一つ間違えば。
せっかくのハッピーエンドを壊したのは『人間』だったのです。あの地蔵は……きっと今も人間を恨んでいるでしょう。
恨みが募り過ぎて、なにか『別』のモノに姿なんて変えていれば、誰も分からないでしょうね。
そして今、『呪いの地蔵』がいる村に、とある学校のバスが通るそうです。この中に、心の汚い人間はいるのでしょうか? いたとしたら、大変なことが起きてしまいますね……
え? 僕はどこにいて見ているかって? ……どこにいるのでしょうね? ですが、そんなことどうでもいいではないですか。ほらほら、時間は待ってくれません。せっかくの『話』が見れなくなりますよ。
さぁ、舞台の幕開けです。
読んで下さり、有難うございますm(_ _)m
不定期になる可能性大ですが、ごゆるりとお付き合い下さい。
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