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パニック 1

 白い細い体に、赤い絵の具を撒き散らしたように広がる火傷の痕。

 胸から腹部にかけて、熱湯を浴びたかの様に炎症を起こした皮膚が一面引き攣っている。

 腕には赤い斑点が散らばっていて、それがタバコを押し付けられた痕だという事はすぐに分かった。

 肘から手首にかけては、カッターで切りつけたような細かい傷痕が無数に引かれている。

 リストカットが、切る場所がなくなってリストだけに留まらず、かなり上までいってしまった感じだ。

 首から上が白くて綺麗な肌であるだけに、対照的な傷だらけの体が更に痛々しく見える。


 驚きで言葉もなく、あたしを見下ろす彼の無表情な顔と裸になった上半身を見比べていた。

 あたしを見下ろしたまま、準一は何かを言っているように唇を動かしたが、聞き取れなかった。


「え、何!?分かんないよ。ノートは?」


 いつもの大学ノートを探そうと彼の下から這い出ようとしたが、準一に両腕を掴まれて、またベッドに押し付けられる。

 無意識に抵抗していたあたしに、彼は覆い被さり信じられない行動に出た。

 あたしが着ていたジャージのファスナーを引っ張り下げて全開にしてから、Tシャツを捲り上げてノーブラだった胸を鷲掴みにする。


「・・・!? や、痛っ・・・!」


 いきなり爪を立てられて、あたしは思わず悲鳴を上げた。

 その口を彼の大きな手が塞いだ。

 準一は終始無表情で、口を塞がれてモガモガと抵抗しているあたしを見下ろしている。

 彼が何を考えてるのか分からなくなって、あたしは急に恐怖を覚えた。

 暴れている内に、彼のもう一方の手があたしのジャージのズボンに伸びて、下着さら引き摺り降ろされた。

 下半身が急に外気に触れて、デリケートな部分が無防備に曝け出されたのを肌で感じる。

 準一は曝け出されたあたしの両足を割って、自分の腰を押し付けた。


「・・・!!!」


 こんなシチュエーションには慣れてる筈のあたしだったのに・・・。

 抵抗しても全く敵わない準一の力に、あたしは怯えた。

 彼の事は好きだったし、あたしも望んでた事だった。

 でも、こんなやり方で、なし崩しに抱かれるのは絶対に嫌だった。


 何とか脱出しようと無我夢中で暴れるあたしの首に彼の手がかかる。

 その手がグっとあたしの首を押さえつけて、一瞬、息ができなくて意識が飛んだ。


 その時、あたしは彼が云わんとしている事がやっと分かった。

 準一は再現しようとしてるんだ。

 自分がされてきた事、自分が抱えている闇をあたしに伝える為に。


コ・レ・デ・モ・オ・レ・ガ・ス・キ?


 さっき彼の唇はこう言っていたのだ。

 動けないように首を押さえつけて、彼は強引に足を持ち上げる。


 彼の気が済むなら・・・。

 これで彼のトラウマを共有してあげられるなら、あたしはどんな事でも受け入れる。

 そう覚悟を決めて、あたしは目を瞑った。


 目を閉じて彼の侵入を待ち構えていたのに、突然、彼は動きを止めた。

 首を押さえつけていた彼の手から力が急に抜けて、自由を得たあたしは急いで体を起こした。


 立った今あたしに襲い掛かっていた準一は、自分の胸を押さえて真っ青な顔で荒い息をしている。

 体はガタガタと震えて、苦しげに眉を寄せて声にならない呻き声が喉から聞こえる。

 尋常でないその様子に、あたしはビックリして準一にしがみ付いて背中をさすった。

 触った途端、凹凸のある皮膚の感触が手に伝わる。

 胸部と同様、背中も焼け爛れた痕が一面に広がってるのに気が付いた。

 でも、そんな事構ってられずに、あたしは必死で彼の背中をさすり続ける。


「どうしたの? 苦しいの?」


 体を強張らせて、あたしを押し退けると、準一は苦しそうにベッドから這い出した。

 あたしに背を向けて床に蹲り、大きく深呼吸している。

 ハーッ、ハーッという肺の奥から出てくるような大きな呼吸の音に、いても立ってもいられず、あたしもベッドから這い出した。


「どうしたの?大丈夫?」


 目をギュっと瞑って胸を押さえながら、準一はひたすら荒い呼吸を続けていた。

 尋常ではないその動作に、あたしはどうしたらいいのか分からず、バカみたいに見つめる。

 3分ほどそうしていただろうか。

 それはとても長い時間に感じられた。

 荒かった呼吸がやっと収まり出し、準一は最後にハーッと大きく息を吐いて座り込んだ。

 蒼白になった彼の顔があたしをチラリと見上げて、ガクンと項垂れる。


「ねえ、どうしたの? もう大丈夫? お水飲む?」


 矢継ぎ早に問いかけるあたしを制して、準一はフラフラ立ち上がるとノートとペンを持って丸テーブルの前に座った。

 ペンをギュっと握り締めて、すごい速さでノートに書き殴っていく。

 あたしは目を見開いて、それを見つめた。


『これ パニック障害 ぶっ壊れてるって言ったのはそういうこと セックスすると あの時のこと思い出して 息ができなくなる 発作がひどいと死ぬかもしれない これでもオレのこと 好き?』 






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