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出会い 1

 彼・・・本田準一はあたしの初めての彼氏だった。

 人生のどん底にいた中学時代に、あたし達は出会った。



 中学3年生になった最初の日から、あたしの不幸は始まった。

 いや、再発したと言うべきか。

 始業式でクラス替えの掲示板を見たあたしは青褪めた。

 小学校の時、あたしを苛めていた女子集団が、あの頃とほぼ同じメンバーで同じクラスになってしまったからだ。

 人並みよりはかわいいと言われる顔立ちで、運動もあまり得意でなかったあたしには、小学校から女子生徒の標的にされやすかった。

 あたしが男子生徒と話しをするだけで「男好き」と陰口を叩かれ、下校時には下駄箱から靴が消えていた。

 今思えば、つまらない非モテ女どものやっかみだったんだけど、まだ今ほど度胸も座ってなかったあの頃のあたしにイジメは辛いものだった。


 そして、小学校の時の苛めより、知恵もついてきた中学校になってからの方が、陰湿さは確実にグレードアップしていた。

 今まで運良くクラスが離れていたのが、今年になって同窓会の如く小学校の苛めっ子集団が集まってしまったのだ。

 当然のように、小学校の時の悪夢はまた繰り返された。

 靴がなくなったり、机に落書きされるのはまだいい方だった。

 体育の着替えに教室に戻った時、制服が無くなっていて、それが男子トイレの便器の中から発見された時、あたしは学校に行くのを辞めた。


 それが6月だったのが、7月になり、夏休みも終わった時、あたしは登校するのを余儀なくされた。

 これ以上不登校が続いたらと心配する親から、煩くせっつかれ始めたからだ。

 周りはすでに受験モードに入っている9月の初日にあたしは久々に登校するハメになった。



 一限は始業式、二限は夏休みの宿題の提出と今後の進路指導についての話で終わった。

 三限は問題児のみ残されての担任との個人面談で、不登校で出席日数も足りないあたしは当然、メンバーに入っていた。

 担任に呼ばれるまでの待機中、トイレに行った時に事件は起った。


 用を済ませて個室のドアを開けると、待ち構えていた6人くらいの女子に取り囲まれた。

 人が用を足している間中待ってたんだから、敵もいい根性している。

 呆然と立ち竦んだあたしに6人の手が絡みつき、あっという間に掃除道具が入っている個室に押し込められた。

 この個室のドアだけは押さないと開かないのだ。

 脱出しようとあたしは体当たりしたが、6人の力で塞がれているドアはビクともしない。

 ドアの外からケタケタと笑う声が聞こえてくる。

 その途端、ドアの上から水の入ったプラスチックのバケツが投下された。

 水の中にはご丁寧に使用済みの雑巾が仕込まれていて、あたしは頭から汚水を浴びるハメになった。


 どうしてこんな目に遭ってまで、学校に来る必要があるのか。

 悔し涙で視界がボンヤリしてきたその矢先、ドアの外で大声が響いた。


「おい、そこにいるの誰だよ?」


 まだ変声期前の、凛とした少年の声だ。

 クラスに馴染んでないあたしには、初めて聞く声だった。

 ドアの前を取り囲む女子達が気まずそうにブツブツ言うのが聞こえた。


「・・・ボンビー本田じゃん。あんたに関係ないし。どっか行ってよ!」

「あるよ。その中にいるの林だろ?先生に連れて来るように言われた。出せよ」

「あんたに言われる筋合いないって言ってんのよ、給食費も払ってないくせに!」

「うるせえな!俺が貧乏なのが、てめえに迷惑かけたか!?自分だって扶養家族の分際で偉そうに言ってんじゃねえよ!」


 ドアの外で『ボンビー本田』なる男子とあたしを閉じ込めている女子との間でバトルが始まった。

 その男子に覚えは全くなかったが、話の流れから同じクラスの居残りグループらしいことは想像がついた。


 その内、ドン!とドアに何かがぶつかる衝撃音が響いた。

 主犯格の女子がヒイっと恐怖の悲鳴を上げたのがドア越しに伝わる。


「出せっつってんだよ!マジで犯すぞ、この腐れブス集団が・・・!」


 やけにドスの効いた暴言が、ドアの向こうから響いてくる。

 女子からの返事はなかった。

 やがてバタバタと廊下を走って去っていく足音がドア越しに響いて、ボンビー本田が女子を撃退してくれたことが分かった。



「・・・大丈夫?」


 外から開かれたドアの前にいたのは、あたしとさほど大きさの変らない痩せた少年だった。



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