依存 3
一時間後、あたし達は彼の車で海の見えるリゾートホテルに到着した。
ホテルの中のレストランで評判のイタリアンバイキングを堪能した後、あたし達は彼が取っておいた一室に直行した。
部屋に入ってドアが閉まると同時に、ノブリンはあたしを捕まえて荒々しく口付ける。
もどかしそうにあたしのジャケットを剥ぎ取り、シャツを首まで捲り上げ、ブラをずらして胸に口付けた。
そのまま抱き抱えるようにあたしをベッドまで誘導してから、乱暴に押し倒す。
さっきまでの優男とは打って変わった豹変振りだ。
早速、獣と化したノブリンを、あたしは満足して眺めた。
彼の為に半分だけ脱がされた上半身は、敢えてそのままにして置く。
「半分脱がされた強姦されたっぽい服装」が彼の好みだって事を知っているからだ。
そして、あたしもそのシチュエーションは嫌いではなかった。
「や・・・やだ・・・ちょっと、待って・・・」
ベッドの上で悩ましげな声でそう言いながら、あたしは胸を隠して彼から逃れようと体を屈める。
もちろん、そのつもりで来てるので抵抗する理由は全くないのだけど、少し嫌がる事で彼がより早く着火するのを知っているから、一応やっておく。
計算通り、あたしの逃げの仕草に興奮したノブリンは更に欲情した。
強引にあたしの両腕を掴むと左右に大きく広げた。
仰向けでベッドに磔にされたあたしのブラから胸がはみ出して顕わになる。
それを獣のような目でノブリンは見つめてニヤリと笑ってから、ゆっくり口に含んだ。
日ごろは優秀な営業マン。
お金も持ってて、妻子を養い、社会的地位もある男性。
こんな人でも、セックスの時はただのオスだ。
高卒で手取り月収13万のOLのあたしと対等な関係。
それがあたしには快感で、心地いい。
人間はいつから動物でなくなっちゃったんだろうと、あたしは時々考える。
社会というルールの中では、同じ人間なのに、あたし達には敷居があり上下関係がある。
普段のあたしに、ノブリンが対等に接してくれる事はない。
彼にとってあたしは、お金目当てのバカ女だ。
でも、セックスの時だけは違う。
どんな人でも一匹の動物に戻って、快楽に喘ぎ、鳴き叫ぶことができる。
ノブリンだって、仕事の事、妻子の事や色んなストレスを抱えてる。
その彼が全てを忘れ、一匹の獣になってあたしに襲い掛かり、欲情して、腰を振る。
あたしは彼が野生に還るこの瞬間が好きだった。
いつまでも、この快楽に溺れていたい。
明日なんて来なくてもいい。
今だけでいいから、メチャクチャに壊れたい。
激しくなった律動に、あたしは泣きながら嬌声を上げ続けた。
◇◇◇◇
激しい行為の後のタバコは最高だ。
重い体に心地よい気だるさを感じながら、自堕落な一服を楽しむ。
ノブリンは、「オヤジくせぇ」って笑うけど、あたしは彼の腕枕で寛ぎながらのこの一服が止められなかった。
あたしが咥えていた一本をノブリンは自然な仕草で奪い取り、自分の口に持っていく。
彼が吐き出す緩やかな煙を、あたしはまったりと眺めた。
35歳のノブリンのお腹は、接待で飲んだアルコールでぷよぷよしている。
運動らしい事もせず、飲み会に明け暮れていては無理もない。
彼がメタボと呼ばれるようになるには、そう時間は掛からないように思えた。
あたしは彼のお腹に手を這わせて、その手触りを楽しんだ。
「・・・なんだよ。くすぐったいじゃん」
「ノブリン、またお腹出てきたね。もう中年だし、しょうがないけど」
あたしの言葉に彼は、ギョっとした顔でお腹を隠す。
もう、見ちゃったのに。
あたしは笑って、お腹の肉を摘んでやった。
「大きなお世話だ。これは接待太り。優秀な営業マンに与えられる栄誉の印だ」
「その事を、世の中じゃ『ビール腹』と呼ぶのよ。あーあ。ノブリンもオジサンなんだよね」
「オジサン言うな。大人の男と呼べよ」
「やだ、バッカみたい」
行為の後の他愛もない会話。
くだらない話をして、お互いの肌の温もりを感じながら眠りにつく。
これもセックスの醍醐味だと、あたしは思う。
ここまでは、恒例の儀式だった。
でも、今日は違っていたのだ。
ピピピ...ピピピ...ピピピ...
アラームみたいな携帯の着信音が、突如として静かな部屋に響き渡った。
ノブリンの携帯だ。
彼はその音にびっくりして飛び起きると、慌ててベッドを降りて床に転がっていた携帯を掴んだ。
液晶画面の着信番号を見て、頭をガリガリ掻く。
困った時の彼のクセだ。
「・・・出れば?誰から?」
気を利かせたあたしの言葉に、彼は弱気な笑みを見せた。
「・・・俺の奥さん。悪いな。ちょっと黙ってろよ」
ああ、そーなんだ・・・。
彼が言いたい事は分かったので、あたしは不貞腐れて羽根布団を頭から被った。
薄い布団越しに、奥さんと話す彼の声が聞こえてくる。
あたしは思わず耳をそばだてた。
「・・・今?だから、会社にいるって言ってるだろ?信じないのか?・・・・だから、そんなのいないって。・・・分かった。すぐ帰るから。・・・・ああ・・・まず話を・・・・ああ」
聞いている内に、あたしの体は恐怖で硬直してきた。
間違いない。
奥さんに、あたしとの事がバレてる。
だとしたら、彼とはもう会えなくなるかもしれない。
そう思っている間に、被っていた羽根布団が捲り上げられた。
目の前に、苦虫を潰したような顔のノブリンが座っている。
「ごめん、ミユちゃん。今から帰らなくちゃ。実家に帰った筈の嫁がマンションにいるみたいなんだ。どうやら、バレてるらしい・・・。取り合えず支度して。送るよ」
目の前が真っ暗になるのを感じて、あたしはベッドのシーツを握り締めた。




