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イベントウェーブ 1話

俺は人生に退屈していた。

子供の頃は何でも輝いて見えた。何もかもが初めてで新鮮で刺激的だった。

今は何も感じない。人生の不感症だ。

どうにかするために色々試した。最新のゲーム機を買ってみたり、入った事の無い店に入ってみたり、ギターを始めてみたり、旅行に行ったり。

意味が無かったとまでは思わない。楽しかったりした。でも俺の人生までは変わらなかった。

人生の退屈を潤すって行為は大抵は金がかかる。もしくは努力とか大変な事をしなきゃならない。

分かったよ。俺は人生を変えるために金を払う事も努力する事もしたくない人間なんだという事が。

こんな奴、人生退屈で当然だったんだ。なるべくしてなった。そういう事だ。


……そんな自分が嫌いだ。俺はいつからこうなっちまったんだろう。ここで終わりにしたら駄目だ。

発想を変えよう。そう、思った。俺自身の基準ではあるが、金もかからなくて努力もそこまでせずに人生の退屈を潤せる方法を考えて実行しようと思った。

ベッドで天井を見上げながら考える。

思い付いた。ウォーキングだ。ウォーキングなら健康にも良いだろうし、ランニングとかと違ってそこまで努力は求められない。歩くだけだ。簡単だ。

そう思ってさっそく俺は外出の準備をした。どうせ歩くなら意味もなく歩くのは嫌だな。歩きながらGPSでゲーム出来るアプリなんかがあった筈だ。でも課金とかで金かかるだろうな。そうだ、ポイ活だっけか。あれはどうだろう。確か歩数かなんかでポイントが貯まってお金に換えられるみたいなやつだ。でもそれでお金に換える程ポイント貯めるには相当努力しないと駄目だろうな。

ネットで地図を開く。お店、買い物…金がかかるのは駄目だ。公園…神社?神社、良いかもしれない。神社に行って神頼み、退屈しない人生を送れますように。良いじゃないか。ウォーキングの初めての目的地が神社は良いかもしれない。


外に出た。辺りはすっかり夜だ。今は19時頃だ。行かなくても良い場所に行くために出た夜の街って良いな。微かな夜風を感じながらそう思った。

暫く歩いて神社に着く。自宅から20分程歩いたすぐのところにある小さな神社だ。あ、お賽銭用のお金忘れた…。よく考えてみればこれも結局お金のかかる事だった。まぁ最低1円でも良いけれど、神主さんは小銭の賽銭に迷惑していると聞いた事がある。

神様って0円でも願い叶えてくれるのかな。子供の頃に短冊書いた事とかをふと思い出しながらお願いをした。

人生を退屈から救ってくれますように。


俺は神社を後にした。帰り道。もう既に歩く事に飽きている。ウォーキング生活1日で終了だな。それを実感しながら自宅を目指した。

家に着くなりベッドに向かう。久々にまともに歩いたから疲れた。普段の移動は乗り物に頼っている。寝ながら次の打倒人生退屈のアイデアを考えた。


起きた。朝だ。いつの間にか眠っていた。難しい事を考えると大体眠れる体だ。難しい事から逃げるように眠りに落ちる体だ。重いものを長時間持っていられない体だ。

外に出る。今日の打倒人生退屈は決まっていた。人助けをする。1日1善とやらでは無いが誰か困ってる人を助ける。…とは言っても俺はコミュニケーションが得意ではない。ましてや知らない人間と話すのも得意ではない。だから、何か然り気無い方法で人助けをしようと思った。例えば、風で倒れた他人の自転車をこっそり直してあげるとか…。それならハードルは低い。さっそく街のパトロールだ。気分はヒーローだった。随分と小規模なヒーローだが。

今日は自転車で廻る。昨日のウォーキングがたった20分歩いただけで結構な疲労を脚に残していた。自転車は移動に便利だが日本の道路は狭いから小回りは効きづらい。ふと、信号待ちをしていた時だった。視界の中央に金色の線が走る。え?そう思った直後だった。

″イベント1 目的、男を救出″

金色の文字でそう視界に表示された。何だこれ?人の目も気にせず俺は目の前に広がる文字を空中で扇ぐ動作をする。完全に視界にだけ文字が映っている。空中に文字が物理的に浮かんでいる訳ではない。…イベント1?文字の上には矢印が表示されている。辺りを見回すのに合わせて矢印も動く。コンパスのように方向を示している。おかしくなっちまったのか俺は。ドラッグ無しでドラッグをきめているみたいだ。ドラッグやった事ないけど。家に帰って今すぐ寝るか病院に行った方が良いのかもしれない。でも、この馬鹿げた現象を楽しみたいと思っている自分もいた。幻覚?分からない。俺は自転車をゆっくりと走らせて矢印の方向に進んでみる事にした。


ある程度進んだところで何かが見えてきた。あれは、公園だ。矢印の先を目指して公園の中に入る。大きな遊具の裏でスーツを着込んだ男が柄の悪そうな男2人に挟み込まれていた。スーツの男は明らかに困っている様子だ。どういう状況だ?カツアゲ?

イベント1 男を救出…あのスーツの男を助けろって事なのか。気付けば矢印は消えていた。…なるほど、無理だ。あの体格の良さそうな男2人相手に勝てる気がしない。というか警察呼ぶべきだ。というか何でこんな公園の子供の遊具の裏でこんな事が起きてるんだよ。確かにこの大きさの遊具の背後なら人目には付かないが…。もう警察呼ぼう。よく考えてみれば警察を電話で呼ぶのは人生で初めてだった。男を救出、どんな形であれ男が助かれば良い筈だ。電話、携帯…スマホ…あれ?家に忘れた。というより別に忘れた訳ではなく持って来ていなかった。こんな事が起きるなんて思っていなかったから。どうすれば良い。スーツの男は胸ぐらを掴まれていた。叫ぶか?しかしこの公園、人の気がまるでない。遊んでいる子供も親子もいない。何で今日に限ってこんなに過疎なんだ。普段からこうなのか?分からないが…。もう俺が行くしかないのか。いや、俺が行ったところで何になる?戦闘力ほぼ皆無だ。人生で喧嘩なんてまともにやった事が無い。

どうすれば良いんだ…。

俺が今助けに行かない理由、一緒にボコられるオチが見えてるからだ。勝算なんか無い。そもそもこいつらの事を何も知らない。何であんな風に争ってるのかも知らない。意外とスーツの男の方が悪いかもしれない。スーツの男は今、頬を掴まれている。全く嫌な光景だ。ごめん、俺はヒーローじゃなかったな。急にそう思った。

てか、帰ろうかな。そして俺は、帰った…。


何も見なかった事にして。

数日後、その公園の奥にある草蔭から遺体が見つかった。その事を俺はテレビのニュースで知った

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