7.助けてくれ
「ファンス…終わったよ…」
俺はファンスの横に倒れこむ。
勇者スキルが切れたせいか、体に力が入らない。
全身の筋肉が、まるで何百本もの針で突き刺されているように痛む。
腕を少しでも動かすと、痛みがビリビリと走り、肩や背中、脚まで裂けるように痛む。
呼吸するだけでも胸の筋肉が張り裂けそうで、息を吸うのも一苦労だ。
「ブレイブ…俺の手、見てくれ…」
ファンスが小さな声で言う。
痛みで全身が重い中、俺はファンスの手を見る。
手の中には、青色のダイヤが三つあった。
「あいつらにさ、謝っといてくれないか…俺が独り占めしてごめんな、って」
涙が止めどなくこみ上げる。
嫌だ。死なないでくれ。だめだ、死んでいいはずがない。
「自分で渡せよ!なんで死にそうな雰囲気出してんだ!!おい、ファンス!」
「俺…もう死ぬのかな…。でも、話すのもしんどいんだ…頼むよブレイブ。
二人のこと、頼むよ…良いやつらだから…」
「やだよ…生きて、自分で渡せよ…」
「俺、お前に憧れてたんだぜ…いつも頑張ってるお前を見て、俺も勇者になりてぇなぁとか思ったり、一緒に遊びてぇなって思ったりさ…だから今日、一緒に遊べて嬉しかったんだ…ゴホッ」
話しすぎたのか、ファンスがせき込む。
「もういいって、話すなよ…後で聞くから」
「俺もさ、一緒に旅に出たいなとか考えたりさ…あとさ…」
ファンスの声が止まる。
「ファンス?」
体が動かないから、なんとか首だけ向けてファンスを見る。
「死んだと思った?ハハハ…あぁ、しんどいなぁ…死ぬって思ったら母ちゃんの怒鳴り声も聞きたくなってきた…はは」
「冗談きついって…」
「ごめん、ごめん…お前は…勇者になれよ…俺の自慢の友達なんだから」
「もう話すなって…」
これ以上話したら、本当に……
「ファンス?」
「おい、ファンス?冗談やめろって」
返事がない。怖くなる。
力の入らない体を少し起こして、ファンスの顔を覗き込む。
息をしていない。「ファンス?おい、なんか言ってくれ…怒らねぇから」
カンカン、と音がして、ファンスの手からダイヤの石が床に落ちる。
「ああ…ファンス…やだよ…やだやだ。起きてくれ、起きてくれ…」
あんなに話していたファンスが、もう返事をしてくれない。
なんで…
森でいろんな死を見てきたはずなのに。
死には慣れているはずなのに。
胸が苦しい。息ができない。どうやって呼吸したらいいかわからない。
「ファンス、ファンス、ファンス…起きてくれ、お願いだ…返事してくれ…怒らねぇから…話そう。そうだ、お前と一緒に旅に出て冒険したいって思ってたんだ。俺は勇者に向いてないから、俺は相棒で、お前が勇者だ。元気になったら、俺の父さんに言って二人で修行しようぜ…なぁ、起きてくれよ…なんで返事してくれないんだ…ファンス…」
本当は分かっている。
もう、ファンスは死んだ。
でも、受け入れられない。
「おい!こっちだ!」
遠くから声がする。聞き慣れた声。父さんだ。
「あなた!!」
母さんの小さな叫びも聞こえる。
俺たち二人を、見つけたのだろう。
「なんだこれ…」
巨大な蜘蛛の背中に何本もの剣が刺さり、横には血だらけで倒れている子供二人。
そりゃ、父さんだって驚く。
「おい!!ブレイブ!!いったい何が…」
「父さん…ファンスを…母さんに…」
「ナタシア!!俺はブレイブを連れて外に出る!!ファンスを見てくれ!」
父さんが俺を抱え、母さんを呼ぶ。
今にも倒れそうな母さんはフラフラになりながら、俺たちの傍に来てファンスを見る。
「あなた…これじゃあもう…」
母さんは父さんを見て首を横に振る。目に涙が光る。
「母さん…ファンス助けて…」
俺は意識が消えそうな中、必死で頼んだ。
父さんに抱えられ揺られながら、遠くなるファンスと母さんの姿を見る。
母さん…なんで泣くんだよ…
父さんも…なんで泣くんだよ…
俺の意識はそこで途切れた。




