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4.力をよこせ

「ああぁ……嘘だろ……」


ファンスが、いた。


横たわっているファンスが。

洞窟の奥、蜘蛛の糸で作られた球体の中に。


両腕と両足。

いや、体中に蜘蛛の糸が何重にも巻き付いていて、指一本動かせていない。


――巣に入って、すぐ捕まったんだ。


ファンスの体の上を、小さな蜘蛛が三匹、這い回っている。


……この光景、見覚えがある。


何度も。

何度も、森の中で見てきた。


俺が修行していた森には、冒険者がたくさんいた。

だから、俺はいつも“運良く”助けられていた。


でも――

助けられなかった人も、何度も見た。


魔物は、殺すだけじゃない。

喰う。


生きたまま、残酷に。


初めてその光景を見たのは、二歳のときだった。


『魔物を、見た目で判断するなよ』


『俺はそれで、何人も仲間を失った』


冒険者の言葉が、また脳裏をよぎる。


……俺は、いつも一人だった。

いつも運が良かった。


幼い頃から魔物と向き合ってきたせいで、

“魔物への恐怖”が、どこかで薄れていたのかもしれない。


「……やめろ……」


声が、震える。


「離れろ……」


考えるより先に、体が動いた。


俺は、蜘蛛の糸が何重にも重なった場所へ手を突っ込んだ。

力任せに、引き裂こうとする。


――硬い。


ギチギチと音を立てて、糸が指に食い込む。

皮膚が裂け、血が滲む。


それでも、止まらない。


「……離れろ……!」


俺は、我を忘れて糸をかき分けた。


「離れろって――言ってるだろ!!」


叫び声が、洞窟の中に響き渡る。


我を忘れていた。


正直、このときのことは、後になってもほとんど思い出せない。


ただ――

体が、勝手に動いていた。


俺は両手で蜘蛛の糸を引き裂き、無理やり中へ入り込んだ。

ファンスの上に乗っていたダイヤモンドスパイダーを、ただ、殴った。


何度も。

何度もだ。


奴らの体にはダイヤの結晶が付いていて、

一匹殴るたび、腕に強烈な痛みが走る。


あれだけ修行したのに。

あれだけ、色んな魔物と戦ってきたのに。


――硬い。


他の魔物と比べても、異常なほど硬かった。


「離れろ……!」


拳が砕けそうになる。


「離れろよ……!!」


それでも、殴るのをやめなかった。


「離れろって言ってんだろ!!!!!!」


頭の奥で、また声が響く。


『いいかブレイブ。お前はまだ弱い

その歳で森で魔物と戦ってる奴なんて、俺は知らない』


『でもな、一人には限界がある』


『魔物には知性がある。特性がある。群れで動くことも多い』


『相性が悪けりゃ勝てない』


『死ぬって思ったら、すぐ逃げろ』


『お前は足が速いんだ。逃げられるだろ?』


……まただ。


冒険者の言葉が、頭をよぎる。


「逃げたら……意味ねえだろ……」


俺は歯を食いしばる。


「離れろ……」


「俺の友達から、離れろよ!!」


何度殴っても、奴らはファンスから離れない。


このままじゃ、俺の腕が先に壊れる。

そうなれば、二人とも死ぬ。


――俺は、いい。


ここで死んでもいい。


でも、こいつは違う。


ファンスは、ここで死ぬべきじゃない。

死んでいいやつじゃ、ない。


『ブレイブ! お前は勇者になるんだ!!』


『俺の血を引くお前なら、必ず勇者になれる!』


『誓え! 勇者になると誓うんだ!!』


「やだ!」


「僕は勇者にならない!」


「父さんの夢を、僕に押し付けるな!!」


『なにぃ!! まだ修行が足らんみたいだな!!』


「俺は、勇者になんてならないからな!!」


……父さんとのやり取りが、脳裏をよぎる。


くそ。

なんで今、こんな会話を思い出すんだ。


「俺は……勇者になんて、ならねえ……」


「勇者になんて、なりたくない……」


勇者は、特別な力を持った奴がなるものだろ。


俺は修行しても、逃げることしかできなかった。

少し足が速くなっただけだ。


俺には、特別な力なんて――


「何が勇者だ……」


「何が勇者候補だ……」


「俺が勇者になるって言ったら、何か変わるのかよ!!」


「俺が勇者になって!」


「この世の魔物を全部殺して!」


「平和にすればいいのかよ!!」


「なんで俺が!」


「そんな責任、背負わなきゃいけないんだよ!!!!」


『お前は、勇者になるために生まれてきた』


『勇者の素質がある』


『勇者になるべくして、生まれたんだ』


やめろ。


俺は、父さんのために生きてるんじゃない。


俺は――

普通に、生きたいだけなんだ。


「……素質があるなら……」


「力をくれよ……」


「今すぐ、力を寄越せよ!!」


「勇者にだって!」


「なんだって、なってやるから!!」


「この世の全部を!」


「ぶっ壊す勇者に、なってやるから!!」


「――俺が、勇者になるって言ってんだろ!!!!」


叫び声が、洞窟を震わせた。

森の奥まで、響き渡るほどの声だった。


その瞬間――


【勇者認証システムが作動しました】

【勇者を希望する個体を確認】

【スキル付与を開始します】


……何だ?


洞窟の中じゃない。

俺の――頭の中に、声が響く。


「……は?」


「勇者……システム?」


体が光り始める。

内側から、熱が込み上げてくる。


【希望するスキルを選択してください】


さっきと同じ、

知らない女の声。


「誰だよ……」


「どこにいるんだよ!!」


【希望するスキルを選択してください】


目の前に、文字が浮かび上がる。


〈肉体強化〉〈視覚強化〉〈聴覚強化〉〈知力強化〉〈猛毒耐性〉〈麻痺耐性〉〈状態異常無効〉

〈炎耐性〉〈水耐性〉〈氷耐性〉〈雷耐性〉〈超自動回復〉〈即死耐性〉〈全魔法属性〉〈魔力無限〉

〈隠密〉〈鑑定妨害〉〈運上昇〉〈剣術〉〈勇者〉〈不老〉〈俊敏〉〈無詠唱〉〈想像〉


――数えきれないほどの文字。


光る文字が、視界を埋め尽くす。


「……なんだよ……これ……」


【希望するスキルを選択してください】


「……ふざけんな……」


【希望するスキルを選択してください】


「……うるせぇ……」


【希望するスキルを選択してください】


「…………」


【希望するスキルを選択してください】


「……うるせぇよ……」


俺は、歯を食いしばった。


「全部だ……」


「ここにあるスキル……」


「全部、寄越せよ!!!!」


【確認しました】

【要求を承認します】


【――勇者に、スキルを付与します】

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