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3.森の中

「あれって……魔物だよね?」


俺たち四人は、森の中にいた。


まだ浅い場所だ。

奥の森に比べれば魔物は少なく、木々の隙間から光も差し込んでいる。

辺りを見渡せる程度には、明るい。


「あれは、ジャイアントラビットだね」


レイの視線の先には、村の牛ほどもある巨大な魔物がいた。

長く大きな耳。

そして、耳よりもさらに大きな一本角。


――あの角には毒がある。

何度も、あれで死にかけた。


動きも速い。

……けど、今回の“遊び”には関係ない魔物だ。


「みんな、こっち来て」


初めて見る魔物に釘付けになっている三人を、

俺は草むらの中、一本の太い木の陰へと呼び寄せた。


「ここに隠れて」


俺が身振りで示すと、三人は慌てて身を寄せてくる。


ガサガサ……ガサガサ……


向かい側の木々の奥から、音がした。


「な、なに……今の音……?」


ダブが怯えた声で呟き、ファンスの背中にしがみつく。

服を握る手が、強く震えている。


「……しー。見てて」


声を潜めて、茂みの奥を指差した。


ガサガサ……ガサガサ……


「あっ……!」


レイが思わず声を漏らし、慌てて自分の口を押さえる。


茂みから姿を現したのは、

全身にキラキラと青い結晶を纏った蜘蛛だった。


ダイヤみたいな石が、体中に張り付いている。

大きさは、俺たちの手のひらほど。


さっきのジャイアントラビットに比べれば、ずっと小さい。


蜘蛛は一度だけ周囲をキョロキョロと見回し、

そのまま反対側の茂みへと消えていった。


……行った。


魔物が完全に姿を消したのを確認して、

三人は一斉に俺を見る。


「あれ……蜘蛛だよな?」


「うん……蜘蛛だったね。

魔物……だよね? でも、キラキラしてて……綺麗……」


「で、でも魔物だよ……? こ、怖かったぁ……」


少し震えた声。


「うん。魔物だよ」


俺は頷いた。


「あれはダイヤモンドスパイダーっていうんだ。

背中の石は本物のダイヤじゃないけど、珍しいって冒険者の人が言ってた」


「「すげぇぇ……!」」


三人は一気に盛り上がる。

さっきまでの恐怖が嘘みたいだ。


「この先に、あいつの住処があるんだ。

そこに石を隠してる。

その石を取って帰ってくる――って遊び、どうかな?」


「住処って……住んでるってことでしょ? 危なくない?」


「小さいけど……一応、魔物だよね?」


一瞬、迷いが走る。


「俺はやる」


ファンスが即答した。


「え? ファンス、蜘蛛嫌いじゃなかった?」


「嫌いじゃねぇ。

怖くねぇし、俺が取ってくる。

ブレイブ、俺が一番でいいか?」


「うん! もちろん!」


「じゃあ、次は私!」


レイがすぐに手を挙げる。


ファンスが最初に名乗り出たことで、

空気が一気に変わった。


さっきまで不安そうだったのに。


「ファンス……ありがとう」


「ん? なんでだよ。

巣にある石、全部持ってきて一人勝ちしてやるだけだ」


そう言って、くしゃっと笑い、

俺の頭をぐしゃっと撫でる。


同い年なのに、背が高いせいか……

兄貴みたいな安心感があった。


みんながファンスを慕う理由が、よくわかる。

……俺も、今日一日で、すっかり信頼していた。


「無理はしないでね」


「おう!」


俺たちは、茂みに身を隠して待つことにした。


――俺がこの“修行”をやったのは、三歳の頃。


ダイヤモンドスパイダーは動きが遅く、

昼間は寝ていることが多い。


静かに近づいて、石だけ取れば、怪我なく戻れるはずだ。


さっき見た個体も、

以前よりずっと小さかった。


……子ども?


前は、一匹しかいなかったはずだ。

しかも、もっと大きかった。


――おかしい。


『いいか坊主。ダイヤモンドスパイダーは、めちゃくちゃ珍しい魔物だ。俺たちだって、一度しか出会ったことがねぇ』


『前に会ったときは、死にかけたもんな』


「でも、僕が見たときは寝てたし……

簡単に石を取れたよ?」


『それは運が良かっただけだ』


『あいつは子どもを頻繁に産む。

腹に子がいる間は、眠ってることが多い

子どもが生まれたら、食い物が必要になる。

巣の周りは罠だらけだ』


『子どもを守るために、気性も荒くなる……』


『……正直、俺たちでも勝てねぇ』


「……」


冒険者のおじさんの言葉が、頭の中で蘇る。


「……なんで忘れてたんだ……クソ……」


俺は、咄嗟に走り出した。


「ファンスが危ない!!

村に戻って、助けを呼んで!!」


「ブレイブ!? どうしたの!?」


振り返らず、茂みの奥へ飛び込む。


中は、すぐに真っ暗になった。

嫌な空気が、肌にまとわりつく。


外はあんなに明るかったのに……

ここは、森の奥と同じだ。


「ファンス!! いるか!!」


返事はない。


木々の間には、蜘蛛の糸。

空からの光を遮るほど、張り巡らされている。


足元にも、無数の糸。

踏めば、即座に引きずり上げられる。


「……くそ……」


罠のせいで、全力では走れない。


急がないと――。


茂みを抜けた先に、洞窟があった。


ダイヤモンドスパイダーの巣。


――ここまで来て、姿が見えない。

つまり……


「中か……」


洞窟の中も、糸だらけだった。

真っ直ぐ進めない。


ギギギギギ……


魔物の鳴き声。


奥から聞こえる。


ギギ……ギギギ……


近づくほど、音が大きくなる。


足元には、ダイヤのように光る石。

いくつも、転がっている。


……俺のせいだ。

俺が提案したから。


頼む。

無事でいてくれ。


目の前に現れたのは、

蜘蛛の糸が幾重にも重なってできた――巨大な球体。


「……こんなの、前はなかった……」


糸をかき分け、覗き込む。


その瞬間――


「……あぁ……嘘だろ……」

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