12.褒めてほしかった
悲しい気持ちもあった。
でも、今は怒りの方が強かった。
「生まれたときから修行、修行、修行って……普通じゃないよ……。父さんも母さんも……」
声が震える。
胸の奥で、ずっと押さえていたものが溢れ出す。
「俺は……父さんも母さんも守りたいと思ったんだ。顔も知らない人のために戦うんじゃなくて、もっと周りの人のために、周りの人と一緒に生きていきたいんだ」
俺が生まれてから、父親らしいことなんて、ほとんどしてくれなかったじゃないか。
死ぬ思いで家に帰っても、すぐに修行に行けと怒鳴られるだけだった。
俺が勇者になりたいと言ったら、父さんはきっと喜んで修行をつけてくれるだろう。
「父さんは、勇者になりたい息子が欲しかったんだろ?」
違う。
傷つけるために言っているわけじゃない。
「俺なんて……いなくなれって思ってるんだろ」
突き放したいわけでも、父さんを傷つけたいわけでもない。
ただ、父さんにわかってほしかった。
勇者じゃなくても、俺はみんなを守りたい気持ちがあるってことを。
「父さんだって……勇者になれなかったくせに……」
その瞬間――
バンッ!!!
大きな音が家中に響いた。
父さんが剣を床に突き刺した音だ。
……やってしまった。
言っちゃいけない言葉を口にしてしまった。
父さんが勇者になれなかったことを、俺は知っていた。
一番悔しがっていることも、知っていたのに。
「ナタシア、狩りに行ってくる」
父さんは俺を見ず、家を出て行った。
父さんを怒らせてしまった。
失望させてしまった。
悲しませてしまった。
小さいころから、父さんのことが嫌いだった。
毎日、修行、修行で、一緒に遊んでもらった記憶なんてほとんどない。
村の子どもたちを見て、いつも羨ましく思った。
あぁ……なんで俺の父さんは勇者候補だったんだろう。
なんで俺は、父さんの子として生まれたんだろう――って。
一度だけ、父さんが俺を褒めてくれたことがあった。
森で修行しているとき、薬草を採っていた村の女性を魔物から助けた時だ。
魔物がたまたま崖から落ちただけだ、と説明したのに、父さんはすごく褒めてくれた。
それが、嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、修行の度に困っている人がいないか、森を探すようになったくらいだ。
ただ、普通に――もう一度、褒めてほしかった。
「ブレイブ……お父さんはね、あなたに勇者になってほしいわけじゃないの……。あなたの運命がそうだから……あなたが勇者になると生まれた時に言われたから……。だからあなたに生きてほしくて……厳しくしているだけなの……」
母さんは、少し泣きそうな声で俺に言った。
「言われたって……誰に?」
「女神さまに」




