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11.求められるもの

「俺に剣と魔法を教えてください」


ファンスの墓から家に帰った俺は、リビングの椅子に座る父さんと母さんの前で、深く頭を下げた。


「おはよう、ブレイブ。お腹すいてるでしょ。朝ごはん、食べましょ」


母さんは、いつもと変わらない優しい声で俺に言う。


「母さん……俺に、聖魔法を教えてほしい」


俺は母さんの方へ歩み寄り、もう一度頭を下げた。


「朝ごはんはね、ブレイブが好きなパンとベーコンよ」


俺の言葉には答えず、母さんは淡々と机に朝食を並べる。

父さんもまた、何も言わずに剣を磨き続けていた。


「お願いだよ!! 強くなりたいんだ!」


必死に訴える。

だが、二人とも俺の方を見ようとしない。


「……その前に、話すことがあるんじゃないのか」


父さんは剣を磨く手を止めぬまま、俺を見ずに言った。


そうだ。

俺は、森で起きた出来事を何も話していない。


父さんも母さんも、あの日――

俺とファンスが洞窟で倒れていたところを見ている。

俺の隣に転がっていた、ダイヤモンドスパイダーの死体も。


「……俺のせいで、ファンスが死んだんだ」


言葉が、喉に引っかかる。


「強くなりたい。今までの修行じゃ、ダメなんだ。父さん……俺に剣を教えてください」


父さんの手が、ぴたりと止まった。


「――勇者になると、誓ったのか」


父さんは初めて俺の方を向き、静かに問いかける。


勇者にはなりたくない。

なれるとも思っていない。


でも――

今の俺は、女神から皆を守れるほど強くない。


「……勇者にはならない。なりたくないんだ」


一度、息を吸う。


「でも、俺は勇者にならないとダメなんだろ?」


自分でも矛盾しているのは分かっている。


「決めたんだ。勇者にならなくても、みんなを……周りの人を全部守れるくらい、強くなるって」


強くなって、強くなって、俺が守る。


勇者みたいに、世界中を守るなんて誓えない。

でも――


手の届く範囲。

大切な人を守れるくらいには、なりたい。


「……そうか。勇者には、ならない……か」


父さんはそう呟くと、再び剣を磨き始めた。


怒鳴られると思っていた。

否定されるとも思っていた。


けれど、父さんは怒らない。

いつものように、声を荒げることもない。


ただ――

それが、余計に胸に刺さった。


「勇者候補の学園が、街にある。十四歳になったら、お前をそこへ入学させるつもりだった」


勇者候補の学園。

父さんと母さんが出会った場所。


二人が、数え切れないほどのことを学び、

そして――“本物”まで、あと一歩だった場所。


「……お前が入学しないと決めたなら、俺はもう何も言わない」


父さんは、剣から目を離さない。


「何も、お前には教えない」


……ああ。

父さんが怒らない理由が、ようやく分かった。


失望したんだ。


父さんは、勇者になりたい息子がよかった。

勇者にならない俺は――


「父さん……」

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