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1.地獄の日々

「勇者になんてなりたくない」

俺が三歳のとき、両親に言った言葉だ。

たぶん、これが人生最初の反抗期だった。


反抗期が早すぎる?

そんなことはない。


俺が生まれてから、両親は一日も休ませてくれなかった。

毎日毎日、鍛錬、鍛錬、鍛錬。

村の他の子どもたちは、まだ母親に抱っこされてミルクを飲んでいたというのに。


俺の両親は違った。

生まれてすぐの俺をゴブリンの群れの中に置き去りにして、こう言った。


「これも修行だ!」

ゴブリンのほうが驚いていたと思う。

赤ん坊が突然放り込まれたら、殺すに殺せないだろ。


運良く、たまたま通りがかった冒険者たちが、俺を両親のもとへ戻してくれた。


「気合いが足りない!」

ようやく母さんのミルクがもらえると思った次の瞬間、

俺は川へ投げ捨てられた。


どんぶらこ。

どんぶらこ。


俺の体の二倍はある魚に食われかけたところを、

運良く、たまたま川で洗濯をしていた冒険者のお姉さんが助けてくれた。


そして、また両親のもとへ。


ミルク。

狼の群れ。

運良く戻る。


ミルク。

真冬の雪山。

運良く戻る。


ミルク。

真夏の火山地帯。

運良く戻る。


ミルク。

ドラゴンの巣窟。

運良く戻る。


何度も、何度も、死にかけながら。

それでも俺は、なぜか必ず両親のもとへ戻された。


俺が最初に覚えた言葉は――

「助けて」


これほど悲しい初言語があるだろうか。

まだ一歳だった。


魔物に襲われた行商人が、冒険者に叫んでいた言葉だ。

俺はそれを覚えた。


村に戻るたび、俺は「助けて」と言った。

すると村の人間は、決まってこう言う。


「お前はガロウの息子だろ」


父・ガロウは、勇者の素質があると言われ、努力して勇者候補にまでなった男だ。

だが、最後まで“本物”には選ばれなかった。


母も有名な治癒魔法使いで、かつては聖女候補だったらしい。


俺がどれだけボロボロになって帰ってきても、母は一瞬で治してくれる。

――いや、そもそも両親が普通だったら、俺はボロボロにならなかったんだけどな。


生まれてからずっと異常な環境にいたせいで、

俺の中の「普通」は、とっくに壊れていた。


勇者候補。

聖女候補。


俺は、本物になれなかった二人の子どもだ。


最初の反抗期から三年。

6歳になった今も、俺の反抗期は終わっていない。


「お前は勇者になるんだ!」


「いやだ!」


「お前には素質がある! 今まで厳しくしてきたのも、全部お前のためで――!」


「俺は勇者になりたくないんだ!

毎日毎日、死にそうになりながら修行ばっかりで……俺、いつか本当に死ぬ!」


「私たちはあなたのためを思って……うぅ……」


「ナタシア、泣かないでくれ……俺が勇者になれなかったから……こんな想いを……!」


茶番だ。

これで、この光景を見るのは186回目。


この両親は、泣けば俺が修行に戻ると思っている。


186回も見せられれば、同情なんて枯れ果てる。

俺の心は、もうとっくに乾ききっていた。


「もう泣いても、僕は修行には戻らないから」


俺は泣き崩れる両親を置いて、家を出ようとした。


「待て! お前には責任がある!

力ある者は、弱き者を守る責任があるんだ!」


――俺に、力なんてない。

両親だって、もう気づいているはずだ。


ただ、自分たちの叶わなかった夢を、

俺に押し付けているだけだということに。


俺の心は、もう決まっている。


絶対に、勇者にはならない。

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