第8話 前編 マジで回りくどい説明だった ②
「向日葵ちゃん、あたしがいるのはマジ必要なの?」
そう聞くと桐乃は眉をひそめて、顔を合わせずに僕を指さした。
きっと今朝のこと、まだ怒ってるんだ。
そうとしか思えない。
「シーッ、もう始まるよ。」
隣に座っていた向日葵が、そう答えながら、口元に人差し指を立てた。
彼女は滅多に見せない真剣な目で僕を見つめていた。
授業中にもこんなふうに集中してくれたら、先生たちはきっと喜ぶと思いつつ、三人だけのがらんとした教室の黒板の前に立った。
どうしてこんなことになったんだ?
死にかけた後向日葵は桐乃に状況を説明して、僕の計画を聞くために無理やり連れてこられた。
計画のことなんだけど……
まだ思いつかなかったんだ!
恋愛経験ゼロで、ラブコメの知識は現実的ではないから使えないとちゃんと把握したので非常に困る状況になった。
「マジでそう思ってるの?あいつがどうやって手伝ってあげるのは全然分かんないだけど。」
安心して、桐乃。ここから出たいのは君だけではないよ。
まったく…なんでこんな目に遭うのか、僕は?
手伝ってあげるって言ったから仕方がないなあ…
一応、この状況になったのは僕のせいだから、手伝うのは当然だ。
「ホイ!いつ始めんの?」
「はい、はい…」
ため息をこぼすと僕の説明をし始めた。
「先ず、質問させてください。愛情ってなんでしょうか?」
「「へえ!?」」
そんな驚いた顔やめてくれよ。バカにされてる気がする。
「答えは?君たちにとって愛情って何?」
「えっとね…誰かを好きになるってこと、ドキドキすること…」
「ストップ!!それはただの生理的な反応。いわゆるラブコメでよく見るようなこと。」
「せい、せいりてきな何…?」と向日葵がどもった。
「じゃあさ、そんなに詳しいんなら、説明して!」
こんなふうにみんなが途中で口を挟んだら、いつまで経っても終わらないよ。
それに、桐乃、そのドヤ顔やめてよ!
僕が失敗するのを確信してるみたい。
本当にバカにされてる気がしてきたんだ。
「ゴホン、ゴホン。要するに愛情って種を存続させるための生理現象である。」
「ホイ!!何言ってんのよ!?てか、ただのド変態野郎が自分を正当化するための言い訳じゃん、それ!」
桐乃は一気に立ち上がってそう叫んだ。
「そんなくだらないことを聞くためにここにいるつもりはないわ。」
「違うよ!!」と反論した。
「そういえば、さっきプリムホルスタインって…言った…」
そう言いながら、向日葵の頬を紅潮させた。
「君もか!?」
神様がいるなら、どうか助けてくれ……。
ああ、神様は本当に存在する!!
だからお願い、神様、助けてよ。
でも、絶対に事態を悪化させるに決まってるからあの愛子だけは勘弁してくれ。
「向日葵ちゃん、一緒にここから出よう。一秒でこのもド変態と居たくない。」
向日葵の腕を捕まえると、僕に嫌悪の視線を向けた。
「ちょ、ちょっと待って!最後まで言わせて!」
「30秒…いや15秒であたし納得させらんなかったら、マジで生まれてきたこと後悔させっからね!」
桐乃は自分の拳を見せた。
「もう暴力とカウントダウンをやめてくれ。」
あいつ、ヤクザかよ。
「時間が経っているけど…」
「ほらほら〜時間経ってんだけど?」
落ち着いた声で言いながら、時計があるように手首を指でトントンと叩いた。
初対面で「このギャル、暴力系だよ」なんて言われても絶対信じられなかった。
ただの定番ネタだと決めつけるのが大間違いだというのもう一つの証拠だった。
命取りの間違いだった。
「確かに、もともとは性欲だけだったけど、現代では社会の進化のおかげでそれが外見の魅力に変わったんだ。それに加えて、その人の性格も大切なポイントになった。好きな人と一緒にいるのが楽しいから、もっとそばにいたいと思うんだよね。この二つの要素が必要なんだ。多くの心理学者や科学者、哲学者もそう言ってるから、あんまり変に責めないでほしい。」
「じゃあ、見た目が大事って言いたいワケ?マジで〜?サイテー!!」
「言い方を変えないでよ!まあ大事だけど部分的に。部分的に!」
「それで、真くん、それがどうやって役に立つの?」
「今、何言ったの?」
「どうやって役に立つのって?」
「いや、その前に…」
「真くんってこと?」
彼女は首をかしげて、問題が全然わかっていないことを僕はちゃんと理解した。
「なにそれ、このあだ名!?」
「そう呼んでるんだよね?」
「確か両親は俺を真一って名付けたはずだ。だから、もしそれが変わってなければ、もうそう呼ぶのはやめてくれ。」
「問題なんて見えないけど。」
向日葵お願い。本当にこの驚いた表情をやめてよー。
それと桐乃、その「もう無理」って感じの目やめてくれ
僕が聞きたくない人ナンバーワンは君だから。今朝、君も同じ状況だったはずだろ?
「でもさ、僕は問題が一つ見えるけど。」と反論した。
「どれ?」
「こんなに馴れ馴れしくしてたら、幼馴染くんの勘違いは絶対に解けない。」
まるで世界の終わりのように、向日葵の表情が崩れた。
急所に当たった!
「は!えっと…それじゃあ…真一くん、それが何の役に立つの?」
「へええ!!?何であいつにやめてって言われたらやめるのに、あたしに言われたらやめないのよ!?!」
「しかし、真一くんの言う通りだし。」
桐乃、君の表情は今本当に最高だった。
「お前ニヤニヤすんのやめなよ!」
この暴力系のギャルはまた拳を出した。
「正しいだし~~な。」と、ドヤ顔をして言った。
役割が逆転されたので、今は満足そうにからかっているからかっていた。
「マジでぶっ殺すぞ、お前!!」
「やめてよキリちゃん!!」
向日葵は叫びながら、今にも殺人を犯しそうな鬼ギャルの腕を掴んで止めようとしていた。
それは言わないほうがいい。生き残るため。
「真一くんを殺したら、どうやって手伝うの!? 真一くんの言うことはあんまり役に立たないと思うけど…」
「ひ…向日葵さん!?」
急所に当たった!
「言いたいのは、化学の視点から愛情を理解することが役に立つということだ。」
「「なにそれ!?」」
「オキシトシンやドーパミンといった物質が、恋愛感情の発達に重要な役割を果たしている。」
正直、どっちがマシかわからない。
さっきまでの疑いに満ちた視線か、それとも今向けられている「何言ってんのコイツ、頭大丈夫?」っていう空っぽな目つきか。
だって、文学が役に立たないなら、残るは科学しかない。
「説明させて。オキシトシンっていうのは、スキンシップで分泌されるホルモンで、安心感とか幸福感を与えるんだ。猫をなでた時と同じやつ。だから好きな人との触れ合いが心地よく感じられるんだよ。それからドーパミン。これは“ご褒美神の経伝達物質”で、好きな人に会いたくなったり、その人のことをよく考えちゃうのはコイツのせい。再会するとドーパミンが一気に分泌されて、まるで中毒みたいになる。このままだと、幼馴染は転校生に恋じゃなくてリメリンスってやつを感じることになる。定義的にはもう依存症に片足突っ込んでるってわけ。日常をぶち壊してくれる存在で…それに、なんていうか……君よりもモノがある。」
「リメ何? へえ!最後に何言ったのよ!?」
「…」
「答えなさいってば!」
「…」
「それを言ったのを後悔させてやる!!」
「落ち着きなって、向日葵ちゃん。まだあいつが必要って自分で言ったでしょ?」
桐乃は後ろから向日葵を押さえつけながらなだめた。
「もうしらない!!超ムカついたんだから!」
そう言いながら、必死にバタバタ腕を振って抵抗していた。
とにかく、もし答えたとしても、結局こうなってたと思うけどね。
「話を続けるよ。つまり、風向きを自分に有利に変えられるってこと。例えば、ヘレン・フィッシャーという研究者が言ってたんだけど、人は一目惚れもするけど、単なる友達への好意から徐々に恋愛感情が育つこともあるんだって。」
「で、どうするつもり?」と、すっかり疲れた様子の桐乃が聞いた。
「言っとくけど、あたしの満足できない答えだったら、この猛り狂った虎を解き放つからね。」
そう言って、まだ腕で抑えてるあの生き物を頭で示した。
ここでの虎は桐乃しかいないだろう。
向日葵は致命的な脅威ではない。せいぜい、赤ちゃん虎ってところだ。
「まず向日葵が彼にこれは誤解だって説明しないと。そのあとで、彼女を別の見方で見てもらって、かわいいと思わせて、二人で親密な時間を過ごせるようにしなきゃいけん。」
「つまり、デートをして、彼の注意を引くためにかわいく着飾って、いつもよりもっとスキンシップを増やすってこと?」
「その通り。」
「ねぇ向日葵ちゃん、聞いたの?あいつマジで超ベタなプラン出してきたし、めっちゃ回りくどいけど、結局デート行けってことみたい。 まあ、やってみんのもアリっしょ!」
「なんで早く思いつかなかったんだよー!超いい案じゃん」
そう言いながら、さっきまでバタバタしてたのがピタッと止まった。
「「それはこっちが知りたいわ!!」」と、二人が声をそろえてツッコんだ。
「うまくいくと思う?」と向日葵が小さな声で不安そうに聞いた。
「彼は最初は見た目に惹かれて転校生に近づくだろう。でも長く続く関係を作るのは性格だ。多くの人はただ付き合いたいだけだったり、見た目に惹かれて付き合ったりするけど、それだけじゃうまくいかない。大事なのは一緒にいる時間を楽しんで、深い絆を作ることなんだ。だから、向日葵の場合はうまくいくと思うよ。安心して。」
こうして『幼馴染とのデート大作戦』が始まった。
教室を出る直前に桐乃の方へ振り返った。
「桐乃、連絡先を教えてくれない?」




