第6話 後編 現実と決意 ②
「ぜん、全部、き、君のせい!」
幼馴染ちゃんはまだ顔を上げずに、非難を言い続けた。
「あ…あんなこと言わなかったら… 君が…いなければ…こんなことにならなかった…」
「それを言ったのは君だっただろう。僕ではなかった。あと、一日中文句ばっかり言いながら僕を追ったのも、君だった。自業自得だ。もし、もっと早く彼に気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったはずだろう。」
「好きって言って……そんな簡単じゃないよ……。もし振られたら……そしたら……今の関係が壊れちゃうかもしれない。……もう二度と話せなくなるかも……。そんなの、嫌だ…。嫌だよ!だって、きょうくんとの関係が……私にとって一番大事なことだもん……」
彼女はゆっくりと顔を上げて、まっすぐに僕の目を見つめた。
その瞳は頬を伝ってあふれ落ちる熱い涙で揺らいで、顔に濡れた跡を残していた。
幼馴染ちゃんの目には、もう一切の光がなかった。
「それに……誰かを好きになる気持ちなんて、知らないくせに何が分かるのよ!?」
彼女は再び視線をそらした。
僕に泣いているところを見られるのが恥ずかしかったせいか、それとも僕がずっと無言で見つめ続けていたせいかもしれない。
もしかすると、沈黙があまりにも重くて、彼女の最後の言葉がこだまのように響いているように感じたのかもしれない。
空を見上げた。
無限に見えた広大な空を眺めながら、しばし現実から逃れるようにぼんやりと心を奪われていた。
その気持ちはあまりにもよく知っていた。
彼女が今、何を感じているのか、僕にはわかる。
まるで世界が崩れ落ちたかのように、時間の流れから取り残されたような感覚に囚われて、身体の中を大きな虚無感が満たしている。
首を締めつけるような圧迫感があって、まるでストローでしか息ができないかのような窒息感に襲われるのだ。
彼女の胃は、まるで面接や発表の前のようにきゅっと締め付けられていた。
幼馴染ちゃんは複雑な感情に振り回されて、苦しんでいた。
これは人間の複雑さの証だった。
その時、僕は罪悪感に押しつぶされた。
彼女の非難は当然だった。
僕はそんな風に扱ってしまって間違っていた。
ただのラブコメキャラのように扱ってしまって間違っていた。
彼女にも感情がある。
瞬間瞬間に変わり、成長している。
今日だけでも、多くの人ができないほど僕に人間の感情の広いスペクトルを見せてくれた。
僕と同じように、彼女も髪を揺らす風や、肌をなでるやわらかな陽ざしをはっきりと感じているに違いなかった。
その感覚は、僕にはあまりにも生々しく、現実のもののように思えた。
この世界がたとえフィクションだとしても、僕は今、ここで生きている。
どれくらいここに残るのはわからないけど自分を取り巻くものを、まるで本物の世界であるかのように感じる。
もしかしたら、本物の世界ではないかもしれなくても、僕にとっては本物と同じなのだった。
この世界を、そして彼女のことも、真剣に受け止め始めるべきだと思う。
それに気づかせてくれて、ありがとう。
そして、誤解を招いてしまってごめん。
「阿瀬川さん……正直、君がどんな気持ちなのか、わからない。君が幼馴染くんと過ごしたほど長い時間を、誰かと過ごしたことはない。でも……僕も、かつて誰かを好きだったことがある……。」
「へえ!?」
彼女は、まだ震える小さな声で驚きの声を上げて、瞳は驚きに満ちていた。
阿瀬川は本当にそんな白状を予想していなかった。
それに加えて、幼馴染ちゃんではなく、ちゃんと名前で初めて呼んだのは驚いていたに違いない。
「もうだいぶ前のことだけど、ある同級生が好きだった。一目惚れしたんだ。でも、それは僕にとって初めてのことで、すぐに気づかなかった。気づいてから、もっと彼女のことを知りたくて、近づくことにしたんだ。 僕たちは友達になった。 彼女と過ごす時間が好きだった。彼女がいない時は、次に会うときのことや、何を話そうかばかり考えていた。 自分の気持ちがはっきりした後、彼女に告白した。でも、予想通り、見事にフラれてしまった。その時は本当に打ちのめされたけど、時間が経つにつれて、二人の距離はどんどん開いていった。気持ちを切り替えるのに少し時間がかかったけど、今は大丈夫。生きているよ。」
阿瀬川の涙は止んでいて、その顔には複雑な表情が浮かんでいた。
「知らなかった。そんなことことを言って、ごめんね。」
彼女は視線を落としながら謝った。
さっき僕に言った言葉への後悔していたみたい。
「辛かったんだよね?」
阿瀬川の目にまた涙があふれそうになった。
また泣き出すな!
「確かに辛かったけど、あとから考えてみると、僕たちはうまくいかなかっただろうと思うから、むしろそれが良かった。結果的に良いことだったんだと思う。」
彼女が言ったことを気にしないように思わせるために、あえて無関心な口調で答えた。
すぐに明るい気持ちに戻る気配はなかった。
ある案が脳裏に浮かんだ。
自分でも想像もつかないほど、人生を大きく変えるような、狂った案だった。
「手伝ってあげる。」
決然と落ち着いた様子でそう言った。
「えっ!?どゆこと?」
彼女の目は今や大きく見開かれていた。
「キューピッド役なんてやりたくないけど、誤解が生じているのは僕の責任でもある。それにさ、今日来たばかりのた転校生に好きな人を取られちゃうなんて、ちょっと悔しくない?」
「……」
「で、返事は? 転校生に取られてもいいのか!?」
「取られたくない。」
「聞こえなかった!声を上げて!このプリムホルスタインに取られたいのか!?」
「取られたくない!!…ってプリムホルスタイン…それはセクハラなの?ちょっとキモイ!」
彼女は決意の印のように拳を握りしめて、勢いよく返事をし始めた。
だが、俺の場違いな言葉を聞いた途端、彼女の口調も表情も無感情なものへと変わっていった。
転校生をプリムホルスタインに比較するのは侮辱したり、太ってると思ったりする訳なかった。因みにこいつは全く太くなかった。
漫画やアニメでは、非現実的で大きな胸のキャラは、よく牛のコスプレをさせられているから。
こういうこと、物語の進行には全く関係なくて、ただ思春期の読者を釣るだけのエッチなことはやめたほうがいい。
しかも、それは非現実的な基準を押し付けている。
「まあ、とにかく……言いたいのは、幼なじみも勝てることができるってこと、ラブコメが現実的ではないのを見せてやろう。」
プリムホルスタインとは「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」の引用だった




