第55話
「またこの喫茶店に行くの?」
「いやなのか?」
「そうじゃないけど。ただよくここに来るだけと思う。」
「ケーキが美味しいし。」
「まあそうだよね。」
彼女は同意するように軽くうなずいて、ドアをくぐった。
理由は分からないが、病院で目が覚めてからずっとここに来るようになった。
あまりにも頻繁に来るせいで、店員さんに顔を覚えられて、名前まで呼ばれるようになった。
桐乃は家を出る前に少し飲んだので、彼女がトイレに行ってる間に、いつもの窓際の席に座って外を眺めた。
そして、そのとき彼女が現れた。
三つ編みに眼鏡という、ごく普通の優等生みたいな見た目だった。
けれど不思議なことに、制服姿の彼女はどこか永遠の若さを感じさせた。
この女子高生が手を振って元気に挨拶してくれた。
彼女の行動に少し戸惑ってどう反応すればいいか分からず、つい笑ってしまった。
不思議な懐かしさに襲われてしまった。
この女子高生は急いで店に入って、テーブルの前に来た。
「ヤッホーお兄さん!」
「どうも…」
それで変としか呼べない質問をした。
見知らぬ人からそのような質問をされるとは思っていなかったので、言葉に詰まった。
彼女は執拗にもう一度同じ質問を繰り返した。
僕の返答を聞いたとたん、彼女が現れたのと同じくらい早く消えた。
戻ってきた桐乃が、この少女が何の用があったのかと僕に尋ねた。
「僕もよくわからないけど奇妙な質問をした。」
「変な質問?どゆこと?」
「今は幸せかどうかと問いかけたって。」
「で、どう答えたの?」
「君が僕の側にいていつも死にかけているから退屈なんてしていられない。だから当然、今は幸せなんだ。」
この女子高生の名前は聞いた機会がなかったけど一生二度と会うことがなかった。
不思議なことに、僕の答えを聞いた後の彼女の満足そうな笑顔は、僕の記憶に永遠に刻み込まれた。




