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ラブスレイヤー  作者: Raito11
第六章 君のいない世界
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第53話 後編 神々の王様 ②

ポータルの向こうに足を踏み入れたとたん、息をのむような光景が目の前に広がっていた。


左右には完璧な整列を見せる巨大な大理石の柱がずらりと並び立っている。

あまりにも高くそびえていて、その頂に刻まれた装飾や紋様は、もはや肉眼では判別できないほどだった。


長く伸びる深紅の絨毯の先には黄金の玉座が鎮座していた。

その玉座は、無数の宝石によって豪奢に飾られて、背後のステンドグラスを透過して差し込む光を受けて、まばゆいばかりの輝きを放っていた。

この光景は、左右に積み上げられた膨大な書類の山さえなければ、まさに完璧だっただろう。


玉座には、五十代ほどに見える疲れた顔をしたおじさんが座っていました。

目の下には深い灰色の隈が刻まれて、威厳よりも疲労が滲み出ていた。

長い白い羽ペンを手に、黒の燕尾服を着た口髭の執事が差し出す書類に、淡々と署名をしていた。

王というより、どちらかというと長時間労働に疲れ果てたCEOのような男だった。



彼は、僕たちの到着に気づいていないようだった。

しばらくして、執事が僕たちの存在に気づき、王へと耳打ちした。


僕は片膝をつき、彼に頭を下げた。


「このような謁見の機会を賜り、誠にありがとうございます、陛下。」


自分の立場は理解していた。

たとえ見た目がそうは見えなくても、彼はれっきとした神々の王様だった。

無礼な態度では、望むものを得られるはずがない。


「陛下のご職務の重大さは重々承知しておりますので、手短に申し上げます。僕はここへ......」

「……お前が、真一か。」


思わず顔を上げた。まさか名を呼ばれるとは思っていなかった。

だが、神々の王として僕のことを知っていても、不思議ではなかったのかもしれない。


つい先ほどまであれほど疲れ切っていた彼の目から、その色が消えていた。

表情は一変し、厳しく、そして敵意すら感じさせるものへと変わっていた。

まさしく、王と呼ぶにふさわしい威厳だった。


何をしたのか分からなかったが、彼は明らかに僕に怒りを抱いているようだった。


「僕はここへ――」

「……黙れ。」


低く、それでいて静かな声が、玉座の間全体に響き渡った。


「お前がここへ来た理由は分かっている。……娘に会いに来たのだろう。

愛子に。」


愛子が、神々の王の娘!?


「そんなに驚くことはない。すべての神々は、我の子なのだ。」


それは理にかなう。

って、もしかして読心術使えてる!?

彼がここにいる理由を知っているので、話し合いはもっと早く進むだろうと思ったけど、口を開こうとした瞬間、再びその声が僕の言葉を遮った。


「……愛子には、会わせぬ。」


その一言が、鞭のように鼓膜を打った。


「ど…、どうしてですか、陛下。その理由をお聞かせ願えませんか。」

「……我にそんなこと聞くのか、無礼者め。」


彼はついに玉座から立ち上がり、その威容をもって僕を見下ろした。


「お前のせいで愛子は、......我が娘は、死にかけたのだ。」

「な、何ですって!?」

「愛子は、お前のくだらぬ願いを叶えるために、己の力のほとんどを使い果たした。そしてお前が“恋”の成就を妨げるたびに、あの子の“神としての本質”は削られていったのだ!確かに、あの娘はお前をこの世界へ送り込み、神の掟を破った。彼女の望みはただ一つ。お前に“愛”ということを知ってほしかったのだ。それなのに……お前は彼女を瀕死に追いや、挙げ句の果てに、この聖域まで顔を出すとは……!」


し......知らなかった。

な、何で……そんなことをした?

何でそこまでして、僕に“愛”を知ってほしかった?


僕は、ただ愛子にもう一度会いたかった。

あの顔を、もう一度見たかった。

からかうような声を、もう一度耳にして、 気ままに彼女と過ごす一日一日を取り戻したかった。


「陛下のお考えは理解しております。それでも、愛子に会いたいのです。そして、何でこの世界に送られたのか、愛子自身から聞きたいのです。」

「殺さずに済ませてやったことを幸運に思え。 娘が勝手にお前を別の世界へ送り込んだことへの詫びとして、転生の機会を与えてやる。」


いやだ。いやだ!!

これが最後のチャンスだったのに。

こんなに近いのに、彼女に会うことはこんなにも遠かった。


もし彼女のもとへ連れて行ってもらえないのなら、自分で行くしかなかった。

絶望のあまり、どこにいるのかも分からないまま、僕は立ち上がて出口へ向かって駆け出した。


だが、踏み出した瞬間、どこからともなく現れた二人の衛兵が放つ光の槍によって、その行く手を阻まれた。


「お前にはチャンスを与えた。」


王は失望に満ちた声でそう告げた。


「だが、もう選択の余地はない。彼女やここでの全ての記憶を消さねばならぬ。感謝するがいい、少年よ。これでお前は苦しまずに済む。」


すべてを忘れさせて。彼女と過ごしたすべての瞬間を。

彼の言う通り、何も思い出さなければ、もう苦しまなくて済むけど……


だけど忘れたくなかった。


それが不合理な願いだと分かっていた。今まで抱いた中で最も非論理的な願いだった。


それでも嫌だった。

絶対に忘れたくなかった。


必死にもがいて衛兵たちの手から逃れようとしたが、無駄だった。

彼らは僕を地面に膝まづかせ、両手を後ろで掴み、動かないように押さえつけた

神々の王がゆっくりと近づいてくる。


その手は僕の頭に向かって高く掲げられていた。

あと二メートルで、その手が僕の額に触れる。

あと一メートルで、僕はすべてを忘れてしまう。

数センチで、彼女と過ごした記憶も、時間も、すべて永遠に消え去ってしまう。


「さらばだ、小僧。二度と会わぬことを願おう。」


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