第45話 後編 やっと気づいた ②
放課後の廊下は空っぽだった。
生命感は失われて、重苦しい静けさが漂っていた。
沈みゆく夕日はまるで終わりを告げているようだった。
彼女の足音は審判へのカウントダウンのように耳に響いた。
今しかないと悟った。
もし今彼女を行かせれば、二度と後戻りはできないのだ。
でも、どうすればいい?
どうすれば愛子を止められるのか?
どうすれば愛子を正気に戻せるの?
そのとき、愛子が言った言葉を思い出した。
信じられなかったが、それしか思いつかなかった。
それは絶望的で、理性的ではない行動だった。
だが、この世界自体が理不尽で非現実的だった。
愛子に向かって飛び出して、全力で走った。
やっと愛子に追いついて、腕をつかんだ。
「離して!」と彼女は叫び、離れようとした。
「いや、絶対に離さない。もう二度と離さない!!」
言っていることや、これからしようとしていることは、死ぬほど恥ずかしかったが、他の選択肢はなかった。
愛子逃げられないようにするために、俺は少女漫画最強の必殺技――伝説の「壁ドン」を繰り出した。
「怒らないでよ、だってこのアイデアを思いついたのは君だったから。」
その言葉と同時に、目を閉じて愛子にキスをした。
その予想外の行動に、彼女が固まるのを感じた。
少女漫画では、初めてのキスはレモンの味がするとよく言われているけど、正直何も味わなった。
もしかしたら本当にそんな味がしたのかもしれないが、緊張しすぎて気づく余裕もなかった。
頭が混乱していて、心臓の鼓動がまるで頭の中で太鼓を打っているかのように響いていた。
永遠にも感じられる短い時間のあと、僕の震える手を彼女の肩に置きながら、そっと距離を取った。
顔を上げて彼女の目を見る勇気はなく、いや、むしろ恐れていた。
もしうまくいっていなければ、きっと平手打ちが待っているだろうと思った。
まあ、せめて良い面を見よう。
桐乃だったらもっと強烈罰を受けてしまうと思う。
現実では、突然女の子にキスしたら、ラブコメみたいにハッピーエンドにはならず、セクハラで警察に行くことになるだけだ。
「ほら、童話ってたまには正しいのよ。」
その言葉を聞いて、ほっとしずにはいられなかった。
こんな皮肉な言葉を聞くのは、こんなに嬉しかったことはなかった。
顔を上げると、愛子が微笑を浮かべているのを見た。
「だからダーリン、私が言うことをもっと信じるべき。」
最初にするのは僕をからかうなんて、彼女は絶対に変わらない。
「次は他の子たちの番ね。」
「全員にキスしたとしても、こいつがまたあのアプリが使える。」
「わかってる。したくなかったけど……私の力を使うしかない。」
もし彼女がそれをすれば、確かにすべては元に戻るかもしれない。
だが、その代償として前例のないほどの昏睡状態に陥る危険もあった。
僕の顔に浮かんだ不安を見て、彼女は安心させるように微笑んだ。
結局、提案したのは彼女自身だった。
危険なら、きっと提案しないはず。
能力を使う結果を、一番よく知っているのは彼女で、他の方法なんて思いつかなかった。
「たぶん今回は、しばらく気を失うと思うから、その間私の身体で変なことしないで。」
こんな状況でも冗談が言えるなんて、ほんとに彼女らしい。
「夢の中だけにしとけ。」
僕の返事に、彼女はニヤリと笑い、そして指を鳴らした。
愛子の脚が自分の体重を支えきれずに崩れ落ちて始めた。
床にぶつかる前に、慌てて腕を伸ばし、愛子を受け止めた。
片手で彼女を支えながら、ポケットからスマホを取り出して、急いで向日葵に電話をかけた。
数秒後、彼女の声が耳に届いた。
「……うん。桐乃は正気に戻ったよ。もう催眠の支配下にはない。」
通話が終わったあと、そのまま家へ帰ることに決めた。
……とはいえ、問題が一つ残っている。
目の前には、眠り姫みたいな愛子だった。
彼女をおんぶして帰るにした。
運動なんて普段まったくしない僕にとって、その道のりはやけに長く感じた。
足は重く、汗も流れていた。
それでも…心の奥底では安堵感を覚えていた。
最悪の事態だけは、どうにか避けられた。
家に着くと、風邪をひかないように愛子をベッドに寝かせて、毛布をかけた。
しばらくの間、愛子さんを見守りながら、これまでの自分の行動や振る舞いを振り返った。
すべきことが分かった。
指先で愛子の顔にかかっていた髪の毛をそっとどけた。
もう決めたんだ。
ものの価値は、失って初めて分かる。
愛子への気持ちに気づくことができた。
もう迷わない。
もう時間を無駄にしない。
後悔なんてしたくないから、僕の気持ちを、彼女に伝えて告白することを決めた。
・・・・・・・
翌朝、一人で目覚めて驚いた。
ベッドは妙に空っぽで、冷たかった。
愛子は力を使って、とても疲れていたのでまだ寝ているのだろう。
食べ終わって立ち上がろうとした時、時間を見て急ぐことにした。
「愛子を起こしに行かないと遅れしまう。」
しかし、僕の真向かいに座っていた母が興味深そうに尋ねました。
「愛子って誰?」




