第43話 中編 名探偵向日葵ちゃん ③
予約した個室に入って飲み物を注文したあと、ようやく偵察作戦を開始できた。
「トイレに行ってくる。その間にお前ら、何かしろ。」
「えっ、もうトイレに行くの!?まだ飲んでないのに」
一番座り心地のいい場所を探すために床に散らばったクッションをつついた向日葵はその行動の理由分からなかった。
「ボクはまだ飲んだことはない。」
トイレの個室に入って、待機した。その間も何人か人が出入りしていたが、15分ほど待ってようやく、僕の期待通りのことが起こった。
オタクがトイレに来たのだ。
到着時に飲み物を注文していた可能性が高い。
つまり、彼は僕たちより前に到着していたので、すぐにトイレに行きたくなるのは当然だった。
漫画のキャラは一人にいると、延々と独り言を言って、多くの情報をぽろぽろと漏らす。
僕はラブコメの世界にいるのだから、その仕組みを最大限に利用すべきだ。
そして、僕の考えを裏付けるかのように、彼は喋り始めた。
「はあ、本当にこの催眠アプリすごいな。あいつからもらえてよかった。これで、俺を馬鹿にしたやつらに仕返しできる。まずは俺をいじめてた連中だ。そいつの彼女を奪ってやったし、それから人気だから俺を見下していたアイドルも。あとはこの前、俺を見下してきたあの娘とその彼氏だ。今頃、こいつらが大事にしてるものを奪われて、ちゃんと苦しんでくれてるといいんだけどな。」
催眠とNTRっていうのは定番だってのは分かってるけど、このジャンルはあまり好きじゃない。
でも、なんで彼女たちが急にあんなに彼を好きになるのか、今ならよく分かる。
それに知りたいのはあのアプリを渡したのは誰なのか。
彼がトイレを出たあと、同じことをする前に廊下に彼はいないか右へ左へと確認した
愛子たちがいる個室に戻ると、状況を報告した。
そして、予想どおり、愛子が不適切な一言を放った。
こういうジャンルの『マンガ』では定番だって分かってるけど、ここには純粋な耳がいるからそんなこと言わないで。
「これでどうやってやったかは分かったけど、どう止めるかはまだ分からない。」
「あんたは桐乃にキスすればいいのよ。呪いを解く王子様みたいにね」
愛子は目を閉じて、手を胸に当てて、劇的な口調で答えた。
「ひとつ、うまくいくと思えない。ふたつ、仮にうまくいっても、彼女に殺される。」
「もしかしたら、白馬の王子みたいに彼女が君惚れるかもよ。すごくロマンチックじゃん」
僕は本当にこのバカどもには手を焼く。




