第37話 前編 楽しいことさえも、いつかは終わりを迎える ①
目を覚ますと、鳥の声が聞こえた。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな日差しが、頬を優しく撫でているのを感じた。
「もう起きろ。」
耳元に囁いた温かな息を感じた瞬間、ようやく悟った。
頬に触れていたのは太陽の光ではなく、髪だったのだ。
愛子の髪。
朝から彼女が僕のベッドにいることに、驚かなかった。
数か月前から、こうやって僕を起こすのが彼女の日課になっていたから。
「あと五分…」と、眠そうな声でつぶやいた。
従いたくない気持ちを示すために、ゆっくりと体をひっくり返し、毛布にくるまってまるで居心地のいい巣ごもりのように、顔を枕に埋めた。
少なくとも僕の枕だと思っていたものに顔を埋めた。
一見、ふわふわした感触は同じように思えたが、微妙に違っていた。
「おっと!朝からずいぶん大胆ね、ダーリン…」
その言葉を聞いて、僕の疑いは確信に変わった。
寝ぼけて彼女が前にいると思い込んでいたが、実際には背後にいた。
それでも、動かずそのままだった。
まだ眠くて状況を完全に理解できなかったからではなく、ここ数日間に何度も同じことが起こたから、身をよけても意味がないのは分かっていた。
結局、彼女はきっとまたそのことで僕をからかうのだから、もう少しだけベッドの中でのんびりするために、僕はじっと動かずにいた。
愛子の左腕が僕の背中に回って、そっと僕を自分の方へ引き寄せた。
そして、彼女はおでこの上に頬をそっとのせて、いつものように優しい抱擁をしてくれた。
温かくてふかふかのベッドがまるで綿の雲のようだったからなのか、
それとも、抱擁と、シーツ越しに感じる体全体の温もりがオキシトシンを分泌させているからなのか。
あるいは、息をするたびにゆっくりと胸が上下し、規則正しい心臓の鼓動が耳に響いて、僕を優しく包み込むからなのか、居心地がよかった。
でも、どんな楽しいことも、いつかは終わりを迎える。
この時間がまるで時間も心配事も超越したかのように感じても、僕は生徒としての義務を果たすため、ベッドから離れなければならなかった。
僕たちはいつもの朝のルーティンを続けた。
まるで完璧に繰り返された振り付けのように、完全にシンクロするまで。
朝食を済ませて浴室に向かうと、まだ半分眠ったままの僕は、歯ブラシを手に取って左手を上げようとした瞬間、彼女がさっと歯磨き粉を渡してくれた。
歯磨き粉を歯ブラシにのせると、僕はコップの水をさっと差し出した。彼女が口をゆすぐのも、目を合わせることなく自然にできる。
僕たちはもう、お互いの生活習慣をほとんど把握していた。
正直に言うと、こういう毎日のルーティンは嫌ではなかった。
むしろ、だんだん好きになってきて、それに気づき始めていた。




